「仮面ライダー!!」
楓が名乗るその戦士の名は、仮面ライダー。
白いマフラーに緑の鎧。
先程楓が変身したウイニングとは全くもって異なる勇敢な魂とその威厳。
雄々しくそびえ立つ”正義”に、フロッグはよろめく。
「そんな姿…所詮子供騙しの道化人形なんだよォォォォォォ!!」
フロッグが顔をしかめてこちらへ走る。が、一瞬。フロッグが走った道を振り出しにされた様な蹴りを食らうまで一秒と時間はかからなかった。
仮面ライダーのキックは今までのウイニングの蹴りとは比べ物にならないスピードとパワーを兼ね備えていた。
その力に驚くのはフロッグだけでは無かった。
「これが仮面ライダーの力!」
変身している楓本人でさえ想像を絶するその性能はバディの全員が驚愕するには容易であった。
「まさかあんな威力の攻撃が出来るなんて…カタログスペックをいとも簡単に超越しているわ」
藤村がライドツールのシステムを確認しながら呟く。
「何故変身できたのか、全然わからないけれど…”霧島君の思いが起こした奇跡”、そう形容するに相応しいわね」
仮面ライダーの存在感に藤村はそう語るしか無かった。が、フロッグはその存在感に反感を示すのだった。
「仮面ライダー? そんなフザケた格好で正義のヒーローを気取るんじゃねぇよ!!」
持ち前の瞬発力でフロッグが仮面ライダーに飛びかかる。
拳を握り仮面ライダーの顔面に目掛けて振るう。
しかしそれらの攻撃は視力強化を受けた仮面ライダーにとってはなんら意味の無い物でしか無い。
「見える! お前の攻撃全部ッ!!」
仮面ライダーがフロッグの拳を防ぐと、左腕でフロッグの腕を持ち、フロッグを文字通り放り投げた。
「うおおおおっ!!」
空中に飛ぶフロッグを追って仮面ライダーが疾走していると、藤村からの連絡が来る。
「霧島君!ブートトリガーの引き金を引く事で一時的に肉体が強化されて更に強力な攻撃をお見舞い出来るわよ! 三段階あるからね!」
「了解!」
威勢良く仮面ライダーが答えるとブートトリガーの引き金を一回引く。
《Winning・Attack》
電子音声と共に仮面ライダーの肉体が強化され、走力が上がる。
大きくジャンプしフロッグを見下ろす様に飛び上がると、下へ向けて拳を振り下ろす。
「おぉりゃあああああ!」
強化された”ライダーパンチ”はフロッグの腹部を強打し、地面へ落下させる。
その衝撃で大きなクレーターが出来上がり、風圧で近くの木々が薙ぎ倒される。
「ダメ押しだぁあぁぁあああ!!」
次にブートトリガーの引き金を三回引く。
《Winning…Impact!!》
上空に残った仮面ライダーはその場で大きく回転し、足をフロッグへ向けて突き出し、重力に乗って急降下する。
と、その時ウイニングの翼が大きく展開し、更に落下速度を高める。瞬間時速160kmで突進し、そのままフロッグの胴体へ強大な一撃を見舞う。
キックの衝撃によって井田公園の半分が吹き飛ぶ。遊具全壊、緑地は更地に。そして、フロッグは跡形もなく爆散した。
立ち込める炎の中で仮面ライダーはフロッグのイートリッジを持って生還する。
「……フロッグラフム、討伐完了」
オペレーターがそう言うと、バディ職員らがよっしゃあ、と歓喜する。だがその中で長官は冷静に状況を考えていた。
(仮面ライダー、その力は圧倒的、だが…)
(損害も大きい、か―――)
――
その後、井田公園は完全閉鎖。事後の調査で発見されたフロッグの変身者はバディに運ばれた。そして、楓はと言うと。
「藤村さん、ありがとうございました!」
研究室で今回収集出来たデータを調べていた藤村に、楓は感謝を述べていた。
「どうしたの、藪から棒に」
「いえ、前の戦いの時、藤村さんが迅速に変身方法を教えてくれたお陰で僕はフロッグに勝つことが出来ました。そのお礼を言いたくて」
そっか、と藤村は楓の頭をポン、と叩いて言う。
「でも、君が仮面ライダーに変身出来たのは私だけの力じゃないわ。君が、そのウイニングのイートリッジを完成させたから成功したのよ。それにしても…何故今になってウイニングイートリッジが起動したのかしら?」
藤村が顎に手を添えて問うと、楓が心当たりを見つけたのかああ、と手を叩く。
「多分、そのイートリッジは僕がラフムから人間へ強制的に戻るときの粒子を吸収して生まれたんだと思います。そう考えればフロッグの時にイートリッジを回収出来たのも説明が付きます」
「成程ね。実はロックの時もこちらで粒子を回収してみたのだけれど、これを使えばイートリッジを生成する事も出来るのね」
ようやく分かったわ、と藤村が呟くと再び調査を開始する。
「ところで藤村さん。このライドツールを作ったのって藤村さんじゃないんですか? だったらこう言うシステムとかギミックとか分かる筈なのに」
楓の質問に藤村は狐につままれた様な表情を見せた。
「ええ、あ、うん。そうね…私は後任なのよ、ここの技術顧問の」
藤村はふふ、と笑って見せているが、その目には憂いが垣間見えた。
「私は任されただけだから調整や設計が出来ても、その根本まで理解出来た訳じゃないの」
「するとライドツールを作った人は余程の天才だったって事ですよね?」
「そうね…彼は天才だったわ」
先程からの藤村の口調に楓はまずい事を聞いてしまったのでないか、と思った。
「……失礼な事を聞いて、しまいましたか」
楓が申し訳なさから呟くとそうじゃないの! と藤村が誤解を解くように言い放つ。
「そうじゃないけど、その先任が…行方不明になった私の兄だから、気になってしまってね」
「そうだったんですか。…やっぱり失礼な事を」
「失礼って思う方が失礼な事だってあるのよ霧島君。兄さんは生きてるわ。私には分かるのよ。希望がある限りこの話題は ”真実への出発点”になるの」
”真実への出発点”。その言葉の意味を楓はすぐに理解する事は出来なかったが、
それがいつか重要な意味を持つのだろう、と感じた。
「そうですね、いつか藤村さんのお兄さんは見つかります。その為に、僕も出来る限りの事をさせて下さい!」
楓の意志に藤村は感動したのか目をつむってありがとう、とだけ言った。
――
楓は自宅に帰ると、明日の授業の準備をしつつ、藤村との話によって気付いた事について考えていた。
(もしも”真実への出発点”と言う物が自分の信じる希望へのスタートライン、だとしたら……僕が誰かを助ける度に、僕の持つ力の意味が紐解ける日が来るかも知れない。僕が戦う毎に藤村さんのお兄さんについて、そしてティアマトの正体が分かってくるかも知れない)
すると楓は先日の事を思い出す。家族の断末魔。目の前で引き千切られる親友。まるで楽しむ様に容易く肉を裂くラフム。そして…。
怒りと共に変貌する自分の姿。フラッシュバックする後光を纏う鎧の戦士。
楓の瞳からは涙が零れ落ちていた。
「…やっと分かったよ、僕の戦う理由。なんで僕が”生きてしまった”のか」
おもむろに立ち上がると楓は洗面台の鏡を見つめ。呟く。
「僕を生き残らせたのは
一瞬、鏡に映る楓の姿は復讐に燃える怪物の姿と変貌した様に見えた。
時を同じくして、楓の携帯に電話が入っていた。藤村からである。
その内容は言わずもがな―――ラフムの出現。