十二月七日、午前九時二分。
御剣邸、大規模医療ブロック。
何人かの看護師と機動隊員と共に一人の男が連れて来られた。
エイドラフム―――
彼は以前まで技術の乏しい歯科医だったが、ティアマトの無差別な勧誘により救命の性質を持つエイドへと変貌した。その能力を買われ仕事仲間の治療と騙され仕事を請け負っていたが、ティアマトの罠であった事を聴取の中で知り、憤りと悔恨を胸にバディと協力するラフム、通称”エクストラ”としての契約を結んだ。
彼の様に協力の姿勢を持つラフムがエクストラとして戦う事を決意しており、その他の悪性ラフム及び協力を辞退した者はウイニングカタルシスの能力によりラフム能力を剥奪する予定が決定した。
「私の仕事は藤村金剛ちゃんと機動隊のマッチョイケメンズを再起させることね~ん」
「そ、そうです…お願い致しますね」
流の濃い人格に気圧されながら看護師が依頼する。流は元々歯科医であったが、エイドとなってからは手をかざすだけで生命体の治癒が可能になった故、今後は様々な現場での迅速な救急救命が出来る様になったのだ。
流が案内の元、機動隊員らの病室へ訪れると、何かを感じ取った。
「…イヤな予感ね、ここにいる皆、逃げなさい!」
「どうされましたか?」
「”オンナ”の勘よ、みんな逃げて!!」
――
十二月七日、午前九時十九分。
御剣邸、研究室。
「そう、それで武蔵君のお父さんとお母さんが再会出来たのね」
大護の報告を聞いた藤村が安堵する。
「以前茅ヶ崎市で出会った時、貴方とかなり険悪そうだったから心配だったのよ」
「ああ、なんとか仲直り出来そうな感じだぜ。だがアイツがやらかした諸々は科学者として先生からも何とか言ってやって下さい」
藤村は博士が供述した今までの研究を思い出して眉をしかめる。
「それで、先生はお兄さんとこ行かなくて良いんすか?」
「ええ、私は兄さんをずっと信じてるわ。直接会って声を掛けなくても、兄さんが復活したらまた一緒にいれば良いのよ」
「…カッコいい関係ですね」
大護が含みのある言い方をすると、藤村は何よ、と少し照れる。
「でも、武蔵君だってそうよ」
「は?」
「貴方、人間離れした強さがあるからいつだって心配して戦いに出せるのよ。昔兄さんが行方不明になってから、私は誰かが戦闘で傷付いてしまうのが怖くてしばらく出動も控えさせてたんだから」
そうだったんすか、と大護が問う。彼は常に前線に立って戦っており、藤村から出動を止められた事は一度も無かったのだ。
「武蔵君は特別なのよ。私は昔から貴方の強さを信頼してるわ、兄さん以上に」
「なっ…突然なんですかい! 褒めても何も出ませんよ」
藤村が柄にも無くしばらく笑うと、大護を見つめる。
「何すか?」
「いいえ?」
雑談に興じているのもそろそろ良くないと思い大護はアイアスの資料だけ貰って研究室を後にしようとするが、藤村に引き留められた。
「武蔵君……ティアマトに勝って頂戴ね」
「勝ちますよ、俺達は」
大護が自身あり気に微笑む。
―――警報音。
「! 何事だッ!?」
「こっちで確認したわ! 医務室にて治療を受けていた機動隊十五名が意識回復と共にラフム化…ですって!?」
藤村が冷や汗を拭いながら監視カメラを操作して状況をまとめていく。
「医務室って、金剛先生がいるトコじゃねぇか!」
「…ええ、だけど今日はエイドラフム、流さんが来てた筈だから何とか持ち堪え―――」
監視カメラを確認すると、エイドが撃破され、ラフムらがそれぞれ別の区画へと歩いて行っていた。
「兄さんが危ない!」
飛び出す藤村を追って大護も走るが、二人を遮る様に、ラフムが現れた。そのラフムがこちらへ移動する素振りは無く、瞬間移動としか言う他無かった。
奇術師の様な見た目のラフムは、腕から先端の尖った杖を取り出し、藤村を貫こうとする。
が、大護が咄嗟に彼女を庇った為に窮地を乗り越えた。
「大丈夫か、先生!」
「ええ、武蔵君は?」
「問題ねぇ」
お互いの無事が分かると、ラフムへと視線を向けてこれからの作戦を考える。
「先生、トループはあるか?」
「一応、取りに行くなら時間を稼ぐしか無い距離ね」
藤村が目を配った先には量産用にチェックしていたロインクロス・トループが置いてある。これがあれば何とかラフムに対抗出来るが、回収する為の時間を要する。
「だったら俺が食い止める!」
大護がラフムへと突撃する。無鉄砲な彼の行動に藤村は驚きつつ、トループを回収する。
と、大護が食い止めていたラフムはまたも瞬間移動し、藤村の眼前に現れる。
「―――!」
ラフムの持つ杖が突かれ、藤村は咄嗟に身構えた―――が。
体を貫かれたのは藤村を庇った大護だった。
「武蔵君ッ!?」
「先生にケガが無いなら何よりだ…それより…ベルトを!」
杖が背中から肺を貫通してもなお大護は戦意を失わない。藤村は狼狽え、気が動転しながらトループを大護の腰へと巻き付ける。
《アイアスシステム・ブート》
《赤いボタンを押し込み、グリップを引いて下さい》
ラフムは杖を押し込むが、大護が後ろから蹴り上げて一旦退ける。
大護は既に呼吸もままならず、藤村に視線を向けると、口を開閉させて何かを伝えると、彼女はその意味を察知してトループの起動ボタンを押すと、目の前の傷付きながらも不屈の精神で立ち続ける戦士の為に高らかに叫んだ
「……変身ッ!!」
力強い叫びを聞いた大護は全力で杖を引き抜くと、ベルト右側のグリップを引いた。
《アクセプト・仮面ライダーアイアス。救助を優先し、落ち着いて行動しましょう》
遂にアイアスが変身完了すると、ラフムへとまっすぐ走り出し、その拳を叩き付ける。
「ごほッ!」
その仮面の下で大護が大量の血を吐いているのが分かる。なおもラフムは瞬間移動を繰り出し、満身創痍のアイアスを翻弄する。
(さっさと倒さないと武蔵君が…!)
柄にも無く焦りが隠せない藤村は汗を拭って作戦を考える。
「…!」
何かを閃いた藤村は突然研究室を散らかし始めた。物を散乱させる事で瞬間移動し続けるラフムの足場を崩せると考えたのだ。現状、敵対中のラフムはこの研究室でアイアスと藤村を狙っており、この場で瞬間移動し続ける。
「武蔵君、バレットナックルを貸して!」
藤村の頼みにアイアスは快く頷き、ラフムを退けながら右腰に装備されている射撃武装、バレットナックルを藤村の足元に置く。
「オーケー、これで…!」
ラフムによる更なる瞬間移動、するとラフムが足元にあったメモ書きに足を滑らせた。
それは、かつて藤村の兄、金剛が妹へ残したメモであった。
(ありがとう、兄さん!)
不意を突かれたラフムの足を目掛けて、藤村がバレットナックルで射撃する。その反動で転げた藤村だったが、アイアスに合図を送る。
「隙は作ったわ! 今よ武蔵君!!」
アイアスが駆け出すと、跳躍しながらラフムへと正拳突きを食らわせる。
その一撃でラフムは行動を停止し、粒子の離散と共に元の人間の姿へと戻る。
戦闘が終了し、アイアスが変身を解くと、全身血塗れの状態で倒れた。
「武蔵君ッ!!」
藤村が大護を抱えるが、彼は既に意識を失っている。
内戦を繋いで救護班に連絡しようとしたが、一向に繋がらない。
監視カメラを確認すると、どうやら複数体確認されていたラフムは医療ブロックから離れて地上へと上昇する様に移動しているらしい。
救護班はその際に負傷者を出しながら、破壊された施設の修復に当たっているらしい。
「このままじゃ…救護班の人達と連絡が取れない……」
焦りと動揺。目の前で大護の体温が下がっていくのを感じる。
自分に何が出来るのか、分からないまま藤村の目が潤む。
「お願い、死んじゃ嫌よ、武蔵君!」
嫌、と何度も叫びながら大護に抱き付く。
自分に出来る事の少なさに嘆く事しか出来ない。
「誰か…助けて―――」
「おう、助けるともさ!」
研究室の入口から聞こえる声に藤村が振り向く。そこに立っていたのは、金剛だった。
「兄さん!?」
「なんやかんやあってエイド―――治ちゃん先生が頑張って助けてくれたんだ。お陰でこっちまで来れたから助かったぜ…それより応急処理だ! 救護班のみんな頼む」
金剛が呼ぶと、同行していた救護班がその場で応急処置を済ませ、担架で医療ブロックへ運搬する用意を進める。
「兄さん、どうしてここへ…」
「ラフムの位置は把握してたから、お前が危ない事は分かってた…心配過ぎて来ちゃった☆」
「ありがとう…兄さん」
「でもまさかあの武蔵君が重症だとは思いもよらなかったわな。ずっと守ってくれてたんだろ」
藤村が無言で頷く。
「私が弱いばかりに武蔵君を傷付けてしまったわ。私のせいで彼は死んでしまうかも知れないの」
「彼は死なないよ、タフだからね」
金剛は妹の頭を撫でると、研究室の内線をかき集めて各個ラフムの元へ向かっている仮面ライダーらへと連絡を図る。
「…こちら金剛。ウイニング、バーン、霹靂。君達の位置は確認した、まずそこから最短ルートにいるラフムへの経路を送信した。施設内の隔壁を操作してまっすぐ行ける様にしておくからその様に。霹靂はボルテックスを使用、ウイニングはカタルシスへ強化変身して、各ラフムを人間に戻してもらう。仕事は増えるが頼むよ」
指示を受けた三人のライダーらは了解、と返すと一斉にロインクロスを装着する。
《Account・Winning》《Burn》《Thunder》
「変身ッ!!」
《Change・Winning》《Burn》《Thunder》
三人のライダーによる基地内ラフム掃討作戦が開始された。