十二月十日、正午十二時五十七分。
桜島沿岸、避難エリア。
楓が目を覚ますと、長官によって一緒に運ばれて来ていたライダー達が先んじて意識を取り戻していた。
「楓…」
憔悴し切った顔の勇太郎が起き上がった楓に声を掛ける。
その様子からして長官の訃報は全員に行き届いたらしい。
「皆、辛いのは分かるけど…今はティアマトを―――」
「どう倒せって言うんだよ」
雷電からの手厳しい言葉だった。
ティアマトと直接対決をして、その上強化形態を用いてもなお倒せなかった。
強大な敵に敗北を喫した彼はとっくにティアマトへの打つ手を失っていた。
「ゴズテンノウを残してライドツールも無くなっちまったし、俺にアイツをどうにかする手段は、もうねぇ」
諦めかけている雷電に同調する様に、勇太郎と大護も頭を下げる。
「俺は、さっきの戦いで…初めて、死ぬって思った…俺は、戦うのが、怖いんだ」
「大護さん」
常に前向きかつ勇猛果敢であった大護から発せられる弱音に、全員が状況の悪さを実感する。
「―――まだ手はある」
「現状最大戦力のカタルシスならティアマトに勝てるって言うのか?」
勇太郎の問いに楓はいや、と答える。それを聞いて勇太郎が怪訝な表情を浮かべる。
「それなら、一体何を…」
「考えがあるんだ」
そう告げると、楓はダブルイートリッジとウェアラブレスを勇太郎に預け、ライドツールを雷電に託す。
「霧島先輩、何をする気だ?」
戸惑う雷電へと微笑み掛けた楓は、ロインクロスに取り付けられた装着者の個別認識機能、クレストカラーを親指で撫で、無効にする。
「僕の風の力は勇太郎に任せるよ。これで強化変身してアガルタを倒して欲しい…あわよくばブレードのイートリッジを取り返してね」
「俺の新フォームの事、知っててくれてたのかよ」
「暁君はソレを使ってシャングリラと戦って欲しい。彼には雷が効くから暁君が適任だ」
「…先輩はどうすんだよ」
楓はふっ、と笑うと、その瞳を虹色に輝かせる。
「今の僕はインテグララフム…出来ない事はあんまり無い、らしい」
すると、楓の姿がその場から一瞬で消失する。
何が起こっているのか全く分からない三人だったが、楓がこの状況を打開しようとしている事は理解出来た。
先程まで彼のいた場所に、仲間達はエールを送る。
「無理すんなよ」
「ティアマトをブッ倒してくれ」
「”人”の意地を見せてやろうぜ」
――
楓が向かった先は、アプスのいる神の世界であった。
「楓…我が呼ばずしてここに来るとは、こんな所業を行う者は二人目だ」
「かの錬金術師、ですか」
「それで貴様はどうしてここへ戻って来た?」
アプスに問われ、楓は不敵に笑う。
「天命の書板を、破壊する為」
彼の大胆な発言にアプスは驚嘆する。
「まさか貴様、本気で言っているのか…? アレが無ければ我らは未来が読めず、安定した世界の運行が不可能になってしまうんだぞ?」
「すみません、アプスさん……でも、人が人として生きる為にはもう必要の無いモノなんです。ティアマトに勝つ為に、協力して欲しいんです」
アプスは戸惑いつつも、楓の話を聞いて長官の事を思い出す。
「衡壱は天命の書板により刻まれた運命に抗った…成程、そこから思い付いた訳か」
「はい、長官が―――いや、僕が出会って来た人達が証明してくれていたんです。運命って言う決定事項に抗い続ける事で希望に繋がるんだって……」
「藤村さんが前に、”真実への出発点”と言う事を言っていました。どうやらやっとその意味が分かったみたいです」
「聞かせてみろ」
「残酷な事実に抗い、希望を信じて突き進む…そうすれば必ず可能性が切り開かれる」
楓は自らの手の平を眺め、今まで出会って来た人々の事を想う。
「多くの哀しみや傷付きが、巡り巡って繋がって、全部僕の力になっている。どんなに未来が分からなくても、辛い今が続いても、希望を信じれば、統べて合わさり最高の真実へ辿り着くって事だと思います」
「……良い言葉だ、我も信じるぞ。最高の真実とやらを」
そう言うとアプスは空を割り、更に上位の神の空間への扉をこじ開ける。
「我の様な罪深い神が、かつて手放した天命の書板へ往かんとは…他の神はさぞ怒り心頭だろうな」
「なあに、これから起こる誰も予期しないであろう奇跡を見れば怒る気も失せますよ」
「本当に貴様は…何をしようとしているのだ」
神ですら予測不可能な事象を起こす。それこそが楓の考える現状最強の手段であった。
今なお侵攻を続けるティアマトに対抗する為、楓は天命の書板により運命付けられ、人の可能性に掛けられた枷を壊し、限界を超えるつもりだった。
(インテグララフムの力を以てしても制限されていた力を引き出す為に…僕は…! 運命をぶち壊す…!)
砂浜から飛び立った楓は空の裂け目へと侵入する。
神々の宝物庫と言えるその場所に立ち入った事で彼の脳内に神の怒号が反響する。
「神々の
「無力な貴様らに今更世界をどうこう出来ようか」
「天明の書板は未来を
「…神がなんだ! 世界がなんだ! 未来がなんだ! 僕が守りたいのは……大切な人と出会った、幸せな場所だーーッ!!!」
楓の渾身の叫びと共に、眼前の石板へと拳を振るう。
そして、その手で未来を決定づける板切れを―――砕いた。
「―――何て事を」
「これで我らは未来を読めず、世界の均衡を保てなくなる!」
「それでいいんです…未来が分からないからこそ、決められたバッドエンドをハッピーエンドに変えられるんだ」
神々は怒りに震え、不敬な人間を排除せんと
「恥を知れ人間! ラフムと言えども神の怒りに触れし貴様を生かしてはおけん!」
が、楓は諸共せず、眩い光の中から無傷で姿を現す。
「僕は、もう人間じゃないし、ラフムの力すら超えた……仮面ライダーだ」
は? と神々がどよめく。神の力を以てしても倒す事の出来ない存在に、狼狽える他無かった。
「貴様は、貴様は一体何なのだッ!?」
「何度も言わせるな、僕は…人の自由を守る、仮面ライダーだッ!!」
楓が宣言すると、神々の世界から離れ、元の世界へと戻る。
すると、その場にいた勇太郎、雷電、大護が迎え入れる。
「楓、大丈夫か!?」
「一瞬で戻ってきたが、何が起こったんスか」
「何でも良い、無事だな、楓」
それぞれの声掛けに楓は何度も頷く。
「神様によって定められていた未来をブッ壊したんで、これでインテグララフムは最強フルパワーです」
そう語る楓の虹色の瞳は、その場にいる全員に勝利を確信させた。
「良く分からねぇが…ティアマトを、倒せるんだな……?」
少し上ずった声で問う勇太郎に、楓はうん、と肯定する。
「まずは勇太郎、暁君、大護さんでバミューダを押さえて欲しい。ティアマトへの活路が開かれた所で僕が対決する」
楓の提案に勇太郎と雷電が賛成するが、大護が拳を震わせる。
「俺は…そこで戦っていけるのか?」
「大丈夫です。勇太郎と暁君…僕もいます」
「俺達四人の力が合わされば何とかなる気がするッスよ」
「アンタは死なない、いつもの事だろ」
大護は皆からの声援を受け、少し照れながら鼻で笑うと、拳を突き出した。
「最終決戦ってヤツなんだろ? ここは友情のグータッチと行こうぜ」
それを聞いた三人は鼻で笑うと、一斉に拳を突き合わせる。
――
午後十三時四分。
ティアマトの侵攻を食い止める為、航空自衛隊の戦闘機F-35Aによる空対地ミサイルの射撃が実施されたが、全く以て歯が立たない。
また、鹿児島湾にて停泊していたイージス護衛艦はぐろから垂直発射されたミサイルも効果が無い事のみが証明された。
「神の庇護を受けたラフム、その上概念の性質を持った我々を食い止める術等存在しないんだ…兄さんのいないこの世界なんて、もう何の躊躇いも無く終わらせる事が出来るんだよ」
若干声を沈ませるティアマトラフムの前に、四人のライダーが立つ。
「…君達にはもう僕らを止める事は出来ないよ、さっき思い知っただろう?」
「そいつぁどうかな?」
勇太郎が反論すると、ロインクロスに加え、ウェアラブレスを装着する。
「何だそれは? 君がその機械を腕に巻く事なんて、天命の書板には―――」
「あーそれ、僕が壊したので」
軽々と言って見せた楓に、ティアマトは硬直した。
「神の世界の宝物を、君が、どうやって!?」
「知らないけど出来ました、誰もそれを知らなかっただけです」
驚愕するティアマトをよそに、大護、雷電も変身の準備を完了した。
「霧島先輩…ロインクロスは無くても本当に大丈夫なんですね?」
「うん、僕のお下がりだけど存分に使ってよ」
「それじゃあ行くぜ、ライダー共!!」
大護の号令に全員が頷くと、全速力で駆け出しながら恒例の掛け声を叫ぶ。
「―――変身ッ!!」