夕食前の時間。クレールからみんなに、ユリアのことが紹介された。
「この子はユリア。前に言ったと思うけど、僕の父様のところで
なるほど。クレールとユリアは同門ということになるのか。二人とも魔術についてはステラさんほど詳しくはないにしろ、クレールは
「ここなら万が一の時には止めてくれる人がいるからって、クレールさんが招待してくれたんです。それで、お言葉に甘えました。先生も勧めてくれましたし」
ユリアがそう言ったところで、クレールが得意げな顔になった。
「僕って気が利くでしょー」
「それ自分で言わなければ、もっと良かったけどね」
聞けばどうやら、前にルイさんから手紙が届いた時の返事に、そういうことを書いていたらしい。
来たのは突然だったけど、俺の知る限り、ユリアには他に行くところもない。次の行先に悩んでいるうちはここにいるのもいいかな。
「
訊ねられたユリアは「えーっと……」と少し考えるしぐさを見せてから、口を開いた。
「普通にしてたら漏れてこない程度に抑えてられるようになりました。一応、冥術も〈
「それがいいね。やっぱり冥術は負担が大きいと思うよ」
実際、
ちなみに、その〈
「基礎的な訓練の方法は学んできたので、続けていればもっと安定すると思います。紫電の魔石があれば、体内の
「それは、僕たちも持ってないね」
前にルイさんからの手紙で持っていないか訊かれたけど、そういう使い方をするつもりだったのか。その用途に限れば、確かにあると役立ちそうではあるけど……
はっきり言って、とんでもない危険物だと思う。悪意を持って使えば街が滅ぶ、というくらいはまあ、あるだろう。
ユリア自身にもその危険性があることは、気に留めておかないとな……。
「それで、みんなは何か言っておきたいこととかあるかな」
訊ねてから改めて見回してみるけど、特に不安がっているとかそういう様子は見受けられない。
「リオンさんが受け入れると決めたのでしたら、私には異論はありません」
マリアさんがそう言うと、ステラさんも頷いた。
「その意見に同意する。
ユリアはこれまで、俺とクレール以外のみんなとは面識がなかった。そんな子が急に一緒に住むことになってみんなは大丈夫かな、とは少し思ってたけど、よく考えるとペネロペやヴィカやペトラもそんな感じだった。
人の出入りにおおらかなのは、元々が冒険仲間の集まりだからなのかな。そのときどきで、いる理由がある人がいる、ということに慣れているのかも。
「あたしと名前が似てる! ということはー……ミリア、マリア、ユリアで三姉妹だ! あたしにも妹ができたね!」
ミリアちゃんが手を挙げてそう言った。……年齢からするとユリアの方がお姉さんだと思うけど、ミリアちゃんの中ではそうでもないらしい。
「あのさー。私、いまいち話についてけてない気がするんだけど」
続いて手を挙げたのはペトラ。
「冥術って、あれか? 物語で悪魔の王とかが使うやつ? そんなの、人間が扱うなんて聞いたことないけど」
……これが普通の人の意見なのかな。
ペトラは確かに、激しい戦いの中に身を置いていたわけじゃない。俺でさえそう何度も食らったわけじゃない冥術の話が出て実感が湧かなくても、無理はない。
とはいえ、ペトラの認識もまるっきり間違いというほどでもない。
「冥術は確かに、使える人は滅多にいないかな。暗黒の術法なら、使う人もたまにいるけどね。それとは仕組みが違うんだよ。使うのは実際、魔王とか邪神とか呼ばれるくらいのやつだね」
俺の実感からしても、クレールが言った通りだ。ステラさんも続けて解説を入れてくれた。
「暗黒の術法は
ステラさんは何でも知ってるな……。まあ、そういうことだ。
「それで、普通の魔法とは違う、特別な素養が必要なんだよね。逆に言うと、その素養があれば人間でも使えるんだよ。でもだからって、ユリアも他の人とそんなに違うわけじゃないよ。正しい心があれば冥術も正しいことに使えるよ。……たぶん」
俺の知り合いでは他にクレールのお父さんである〈
ユリアは独力で扱えるようにはなった、ということで、アゼルさんとルイさんの間くらいか。
ちゃんと制御できてるなら、そんなに危険なことにもならないとは思う。
……それにしても。うん。
冥術がどんなに危険か話してきておいて、なんだけど。
普通の人はたぶん、冥術でない暗黒系統上位魔術の〈
「結局いまいちよくわからないけど、わかった。ナイフ持ってる人がみんなナイフを悪用するわけじゃないってことだろ?」
と、ペトラ。それで合ってる……かな? うん、だいたい合ってる。
「危なくなったら変態領主を盾にすればいっか」
よくないけどね。……いや、待てよ。変に自分で対処しようとせず俺を頼ってくれた方がいいのかな。扱いの雑さは気になるけど。
「それじゃそろそろ夕食だけど、ユリアも苦手な食べ物とかあれば言ってね」
受け入れ自体はもう異論無く決まったという感じで、となれば、今後どう過ごすかだ。ニーナはそこの担当者ってことになる。
「うーん。今のところ、特にないです!」
そう言ったユリアの顔に嘘は見えない。今のところ、というのも「見知らぬ料理まではわからないけど」という程度の意味だろう。
「それなら今後も増えることはないです。ニーナが作る料理はどれも特級美味しいです!」
ナタリーの言葉にもユリアは「そうなんですねー」と素直に感心している様子で、逆に、ニーナの方は苦笑。
「そこまでとは思わないけど、苦手な物があれば食べやすくはしようと思ってるよ」
まあ、ニーナのせいで外の料理を食べられなくなったという人もいたけどね……。