クレールと出かけたときにも使った馬車に、今日はニーナと二人。
荷台にはニーナの他、村の人たちからついでにと頼まれた隣町への届け物が乗っている。これは行った先で全部下ろして、帰りは代わりに、買ったものを積むことになる。
まあ……預かった荷物のせいでちょっと魚臭いのは確かだ。
「何だか、リオンとこうして出かけるのも久しぶりな気がする」
荷台に座っていたニーナが、そう声をかけてくる。
「そうだね。最初のうちは俺とニーナの二人だけだった。それ以来かもね」
故郷の村を滅ぼされた俺は、叔父さんを頼って雷王都市にたどり着いて、そこで、叔父さんたちの何でも屋を手伝うことになった。叔父さんは一人で十分だからというので、俺の役目はニーナのサポート。
二人で迷い猫探しなんかをやったなあ。懐かしい。
「そんなに経たないうちに、ウェルースさんたちから魔獣討伐の手伝いを依頼されて、それからは誰かしら他にもいたような」
「そうだったね」
その頃の雷王都市は剣鬼への警戒に多くの人員をあてていて、街道に出現した魔獣への対処が遅れがちになってたんだった。
それで、街道で魔獣を見つけたウェルースさんとメルツァーさんが、自分たちで討伐してしまおうと考えて、その手伝いを探していた。
俺とニーナは、二人が魔獣を追い込んだっていう遺跡に出向いて……。
その時に戦った魔獣が、サーベルタイガー。
「……リオン」
「ああ、うん。……いるね。噂をすれば、だ」
黄色と黒の入り混じった毛皮と、その名前の由来になっている長く鋭い二本の牙を持つ、虎の魔獣。
隠れている。人を恐れているからじゃなくて、狩りをするためだ。
俺やニーナは、そういう気配に敏感だから気付いたけど、村の人たちだったらやつに気付かずに襲われていたかもしれない。
それにしても、完全にこっちを狙っている目つきなのは……魚を積んでるせいかな……。
「このままにしとくのは危ないな。ニーナは馬を頼むよ。あいつは俺が倒すから」
手綱をニーナに手渡す。代わりに剣を取って、俺は馬車から飛び降りた。
なるべく戦わないようにと思ってはいるけど……
今回はちょっと、試したいことがある。
サーベルタイガーとの距離はまだ遠い。一歩ずつ、近付いていく。
向こうからは近付いてこない。でも、こちらを睨みつけたまま身を屈めていて、完全に戦闘態勢。
こちらから突っ込むのは悪手。
敵が仕掛けてくる時を見極めて、相手の勢いを利用して仕留める……後の先を取る。
昔、サーベールタイガーと戦った時は、ただ闇雲に剣を叩きつけたけど。
あの時とは違う。
ふっ、と風が揺らいだ。
一瞬で、俺の目の前にサーベルタイガーの牙が迫ってくる。
食いつかれれば、今の俺でも無傷では済まない。
でも。
「遅い」
大きく開かれたサーベルタイガーの口に、俺は剣の切っ先を滑り込ませ、ねじ込んだ。
相手の突進の勢いがそのまま、その喉をえぐる力になる。
痛みに暴れ始める前に剣の柄から手を放し、代わりに手にした鞘で、魔獣の鼻先を殴打。
これで決着。
すぐに飛び退いてしまえば、返り血を浴びることもない。
「お見事」
後方で見守っていたニーナが、小さく拍手。
「昔は苦労した相手だけど、今となってはなんてことないな」
この前クレールと一緒の時に遭遇したヘビよりもさらに弱い。
それがわかってるから、今回は俺が自分で倒した。
「成長したんだね。苦労したしね」
「……そうだね」
ステラさんが言うには、魔獣を倒すと、魔獣が体内に貯めていた
俺の場合はその上、竜の血を浴びすぎて、
ただただ強くなりたいと思ってた頃は、そんなこと気にもしなかった。いや、むしろ、その方が強くなれると思ったから、悪竜退治にだって自分から首を突っ込んだ。
以前は、強くなればなるだけ、平穏に過ごせるようになるものだと思ってたし。
けど、そううまい話ばかりじゃないってことかな。
竜に近付いてるっていう身体のことも、成り行きで領主になってしまったことも。
強くなったせいで、俺が思ってもいなかった方向に進んでしまったり。
……自業自得って面が、全くないとは、言わないけど。
「リオン、どうかした? 具合でも悪い?」
黙ってしまった俺を心配したのか、ニーナが声をかけてくれた。
「……ああ、ごめん。普段より少し早起きしたから、眠くなったかな。まあ、うん。大丈夫だよ」
試したかったことは試せた。
……このくらいならまだ大丈夫。闘志を燃やさなくても勝てる。
どこまで大丈夫か、なんて、本当はそんなこと考えずに安静にしてるべきなんだろうけど。
この前のヘビも、今回のサーベルタイガーも、村の人たちにはまだ厳しい相手だと思うから、自警団がちゃんと機能するようになるまで、もう少し俺の出番もありそうだし。
でもよく考えたら……。
いざとなったら、たとえ自分が危険かもしれなくても、首を突っ込んじゃうかもしれないな。
やっぱり近いうちに、みんなにも事情を話して、何か上手いやり方を考えないとな。
「……さ、先を急ごう」
剣はもう、あの中にもう一度手を突っ込む気にはならないので、新しいのを買おう。