竜牙の勇者はしばらくお休みします   作:雷神宮燦

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脅威

「いや、あれを魔獣と言っていいのだろうか。かつてあの〈天地大乱(メイルストローム)〉の中で見た、四つの腕に四つの魔剣を持つもの……この世ならざる存在だった」

 それは……俺にも覚えがある姿だ。ウェルースさんが言うように〈銀の玉座〉を覆った歪みから発生した〈天地大乱(メイルストローム)〉でも見たし、偽神の封印殿でも見た。

「デーモン。魔界(アビス)に棲息するとされる伝説上の生物。仮想世界だった〈天地大乱(メイルストローム)〉の外にはその存在を確認できていない。そのはず。……実在?」

 ステラさんが補足する。封印殿のことを言わないのは、こっちのステラさんは異界にあった封印殿には行っていないから。行ったのは、この場では俺とクレール、それにマーシャの三人だけか。

「実在を信じたくはないが、事実だ。……準備が不十分な俺たち二人だけでは勝てない相手だった」

 ウェルースさんがそう言うのも無理はない。

 過去に戦ったときにはいずれも、伝承武具(レジェンダリーアーム)や貴重な霊薬の十分な準備があって、戦闘を想定した複数人で行動していて、それでもなお苦戦した相手だ。

 おそらく、シードラゴンの方が耐久力では上だし、総合的には強敵だと言えるだろう。

 でも、デーモンの恐ろしさはその瞬間的な攻撃力だ。四刀流。しかも全て魔剣。容易に防ぎきれるものじゃない。

「歪みの影響がまだ残っているのかな。そのせいで発生した?」

 クレールが推測を呟いたけど、今その証明ができる人はここにはいない。

 発生した原因の調査とその対処は確かにいずれ必要だ。でも、現段階では後回し。まだ情報が少なすぎるし、何より、まずはすでにいる個体の討伐だ。

 実際に遭遇したウェルースさんの証言は参考になる。

「最初からアレを討伐するつもりで準備をしていけば、おそらく勝てる」

 俺が過去に戦った印象でも、デーモンの強さというのはそのくらいだ。

 侮るつもりはない。村の自警団では相手にならない。それどころか、雷王都市ですら滅亡の危機を迎える程度の強さはある。

 でも俺たちは、それよりもう少しだけ強い。やれるはずだ。

 ただ、ウェルースさんは気になることを言い足した。

「相手があの一匹だけとは限らないが……」

「他にもいる可能性がある?」

「いるともいないとも、確定的なことはまだ言えない。だが、他にもいるという心構えで行くべきだと思っている。デーモンが現れる、何らかの原因があるはずだ。それを突き止めて塞ぐまでは」

 確かに、ウェルースさんの意見はもっともだ。

 デーモン討伐と調査。そのどちらも、今の自警団ではまだ力量不足。俺たちで行くしかない。

「急な話ですまないが、リオン。手伝ってくれるだろうか」

「とっくに、そのつもりですよ」

 ウェルースさんに改めて言われるまでもない。

 さて、そうすると次の問題は討伐隊に参加するメンバーだ。

 この場にいるのは俺の他に、ウェルースさんとメルツァーさん、クレール、ステラさん、ナタリー、ミリアちゃん、レベッカさんとペネロペ、ユリア、マーシャ、それにハスターか。

「それじゃ、みんなで行くですか!」

 ナタリーが拳を握ってそう言ったけど、それは止める。入れ違いに館や村が襲われると困るから、こっちも空にはできない。

 六人くらいまでにしたいけど……

「志願者は?」

 訊いたら、まだ気を失ったように眠っているメルツァーさん以外の全員が手を挙げた。ミリアちゃんやハスターまで。

「だってそいつ、すっごく強いんでしょ? あたしの法術がきっと必要になると思う!」

 ミリアちゃんはそうアピールしてくる。

 最上位の回復法術である〈救世(トータルヒーリング)〉を扱えるのはミリアちゃんだけだ。その下位の〈救命(エクスヒーリング)〉でさえ、魔石の補助なしで扱えるのはミリアちゃんの他にはティータさんくらいしかいない。他の人から隔絶した才能なのは、俺もよく知ってる。

「……危険なのはわかってるんだね?」

 訊くと、ミリアちゃんは真剣な顔で「うん」と頷いた。

「わかった。確かにミリアちゃんの法術は助かる。一緒に行こう」

「やったー!」

「でも、絶対に前に出ちゃだめだよ」

 本当はミリアちゃんのような小さい子を戦闘に連れ出したくはないけど、本人の希望でもあるし、かつての冒険でミリアちゃんが得た霊気(マナ)は他のみんなとも遜色なく、デーモンの魔剣にも何度かは耐える。もちろん、そんな事態にならないように俺も力を尽くすし、その前提でなら、ミリアちゃんの回復の法術は本当に心強い。

「……俺も行くぜ」

 そう言ったのはメルツァーさんだ。目を覚ましたらしい。

「メルツァーさんは無理しない方がいいんじゃないですか」

「俺たちに任せて休んでおけ。お前、何度か斬撃を食らってただろう」

 俺の言葉にウェルースさんも賛同したけど、メルツァーさんは首を縦には振らない。

「頑丈なのが取り柄なんでね。普段休んでる分、こういう時は活躍しなくちゃな」

 正直なところ、すでにデーモンの攻撃を何度か受けたっていうウェルースさんの証言は無視できないものではある。

 でも、メルツァーさんもこういうときは頑固だ。すでに回復の法術を済ませたのか大きな傷はないように見えるし、頑丈だっていうのもはったりじゃないのは知ってる。

「わかりました。お願いします」

 俺の返事にウェルースさんは渋い顔をしたけど、メルツァーさんはこういうのに慣れた人だから、自分の状態と力量だけでなく敵の強さもちゃんとわかった上で、いけると判断してるはずだ。

 さて、あとは……

「僕の天術はデーモンにも効くと思うよ!」「魔術……得意」「捜索なら任せてください!」「聖騎士としてデーモンの存在を放っておくわけにはいかないわ」「私もお姉様と一緒に参ります!」「冥術ってデーモンにも効くんですかね?」「私は……ええっと……」「きゅい!」

 それぞれが自分の長所を主張しているけど、村の防衛もあるし、全員を連れて行くわけにはいかない。すでに決まったメンバーとのバランスもあるから……

「レベッカさん、それと、クレール。二人はデーモン討伐の方に」

「まーかせといてっ!」

「全力を尽くすわ」

 ナタリーとペネロペは見るからに落胆しているけど、特にペネロペは、デーモンと戦うにはまだ力不足だ。

「他の人たちは村への連絡と、念のために防衛の準備を頼むよ。そっちの細かい指示はステラさんに任せる」

「任される。……気を付けて行ってくるといい」

 こうして、この日の午後の予定は『デーモン討伐』になった。

 

       *

 

 まともな装備で全身を包んだのは久しぶりだ。

 竜革の胸当て(ドラゴンレザー)鬼人の手甲(オーガブレイサー)腕力の指輪(パワーリング)再生(ハイヒーリング)の魔石、そして魔剣〈真竜の牙(ドラゴンファング)〉。防具は伝承武具(レジェンダリーアーム)ではないけど、十分に強力な魔法の品ばかり。他のみんなも相応の装備で全身を固めている。

 相手が野良ドラゴンくらいならここまではしない。実際、シードラゴンの時には魔剣だけだった。

 デーモンというのはそれほどの相手だ。

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