今日の陳情は二件。
最初は、幼い兄弟のけんかの仲裁。原因が『五個の飴玉を二人でどう分けるか』が原因だったから、クレールが一個足してあげたら即座に解決した。
それと親方から、春祭りの開催許可の件。
春の花が咲いたら十日のうちに、ということなので正式な日程はまだ決まっていないらしいけど、その時期が来たら開催していい、という許可は出した。
前の領主の時はその許可も、なんだかんだ文句を付けられて、なかなか出してもらえなかったらしい。そのせいでここ数年は開催できていなかったそうで、親方も「今年は盛大にやりたい」と張り切っていた。
……そういえば親方の顔を見た時に、親方に言わなくちゃいけないことがあったような気がしたんだ。でも何を言いたいんだったか思い出せなかった。大事な用があった気がしたんだけどなあ。まあ、思い出せないんだからその程度の用事だったんだろう。
陳情がそんな風にあっさり終わったので、今日もまた時間が余っている。
「そういえば今回作る魔剣には、魔剣技は付けられないっていう話だったけど」
暇を持て余しての雑談の中で、クレールがそんな風に切り出した。
「魔剣技って、どういう仕組みなんだろう? 特定の魔剣でないと使うことができない技だってことは知ってるけど」
魔剣技か。ここ最近は魔剣を持つこと自体を控えているし、魔剣技が必要なほどの敵もいないから、しばらく使ってないけど。
確かに、仕組みは少し気になるな。
「現存例が少ないので断定はできない」
ステラさんの返答はそんな感じ。確かに、魔剣というだけでも珍しいのに、そのほとんどには特別な魔剣技はない。魔剣技のあるいわゆる『銘入り』というのは、本当に数が少ない。
「僕が見たことがあるのは……〈
クレールが過去を振り返って、見たことがある魔剣と魔剣技を列挙する。
俺が見たのもそれだけかな、たぶん。少なくとも、ちゃんと銘入りの魔剣として認識したのはそれだけだ。
ステラさんもほぼ一緒だと思うけど、もしかしたらステラさんの師匠である〈西の導師〉のところでは見たことがあるかもしれないな。
「最後のは知らない」
ん……?
ステラさんがそう指摘したので思い返してみる。確かステラさんも見たことがあるはず……。
「スレイダーが持ってた魔剣の技だけど……ああ、そっか。ステラは知らないのかー」
クレールが言ってることもよくわからない。まさにこの三人にスレイダーさんを加えた四人で探索に行ったことも、一度や二度ではなかったはず。
……いや。そうか、そうなるのか。
うーん。少し複雑な話だけど……。
その魔剣を見たのは俺が異界に行った時だ。クレールと出会って、スレイダーさんと出会って、ステラさんとも合流した。
ただ、そのステラさんは『向こうの世界のステラさん』であって『こっちの世界のステラさん』とはよく似ているけど違う人だという話を、そういえばクレールのお父さんから聞いた……気がする。
だから異世界の時の話をしても通じないんだ。
クレールは向こうの世界からこっちに来たから、そのあたりの話は通じるんだけど。そういえばそのことついてステラさんと詳しく話したことはなかった気がする。
「そういえば、スレイダーとはしばらく会ってないね」
俺が二人のステラさんについて考えている間に、クレールが思い出していたのはスレイダーさんのことか。
スレイダーさんは、一時期、クレールのお父さんのところで働いていた凄腕の剣士だ。その縁で、クレールのお目付役だったこともある。
ややこしいことに、スレイダーさんは『この世界』とも『俺が行った異世界』とも違う『さらに別の異世界』から流れ着いたと言っていた。
「何年前の人」
ステラさんが訊ねた。どうもステラさんは、クレールが見た目通りの年齢じゃないことには気付いていそうだ。
「……僕は実質十六歳だから、まあまあ、そのくらいの範囲ってことでひとつ……」
クレールは誤魔化しているけど。絶対に秘密、というほど徹底しているような気はしない。
「存命人物と解釈する」
ステラさんも、誤魔化されたというわけではないだろうけど、深くは追求しない。
でも、どうなんだろうな。スレイダーさんが本当にまだ生きているかどうか、俺にはよくわからない。一応、再会を約束して、それぞれの世界に帰ったわけだけど……。
確かにクレールの言った通り、しばらく会っていない。
そもそもまた会うことがあるんだろうか。同じ世界にいる人とだって、一度別れたら滅多に会うこともないのに。
そういえばスレイダーさん、別れ際に言ってたな。
「もっと酷い戦いを求めるなら俺を呼べ」
って。
スレイダーさんはいつも何かと戦ってる人だった。それに「欲しいものは戦うことでしか勝ち取れない」とも言ってた。
そして、そのあたりは俺と似てる、とも。
……仮に今、再会できたとしても、碌な事にはならない気がするな。
「そんなことより、魔剣技だよ!」
クレールが自分の年齢に関する話題が広がるのを断ち切ろうとそんな風に言ったので、俺も考えを中断。
「リオンとしては、どう? 魔剣技を使うときって」
「説明するのは難しいけど、うーん……」
改めて考えてみると、戦いの時は身体が動くのに任せている部分が多くて、頭で考えてやってることって案外少ない。いや、結構あるのはあるんだけど、それをうまく言葉にして説明できないというか……。
「そうだな……。戦う気持ちの時には、胸の奥とか、腹の中とか、そのあたりから
「
ステラさんが短く解説を挟んでくれた。
「それを自分の中のどこに集めたいとか、意識すればある程度制御できるから、すぐに放出してしまわないように、溜めて、溜めて……剣を持つ右手に集めていく。それで、攻撃する時に一気に吐き出す」
「そうすると、ババーン! って魔剣技が出る?」
クレールが両手を振り回す大袈裟なしぐさで、魔剣技を表現した。
ババーン、かどうかはともかく、まあ大体合ってる。
「……察するに、魔石と同様の現象。
ステラさんがそう解説して、俺も魔石のことを思い出す。
魔石は
「なるほどー。魔石なら術法が発動するのと同じ原理で、魔剣なら魔剣技が発動するってことなのか。なるほどー」
クレールはやたら「なるほど」を連発してるけど、そんなに意外な解説だったかな……と思って見ていると、その視線に気付いたらしいクレールが、ぽつり。
「まあ、僕もそんなとこだろうと思ってたけどね」
本当かな。
「しかし現存例が少ない。銘入りの魔剣を壊して中を確認するわけにもいかない。よって、私の推測でしかないことに留意する必要がある」
「でも僕が見た感じからしても矛盾はない気がするなー」
独自研究であることを強調したステラさんに対して、クレールは自分の体感から肯定的な発言。
「リオンはどう? 魔剣技と魔石、両方とも使ったことあるでしょ?」
確かに、それはそうだ。でも、近いものだと意識したことはなかったな。思い返してみると、魔剣は魔石とは干渉しないみたいだから、それで完全に別物という感覚だったのかもしれない。魔石は、干渉を避けるために他の魔石と一緒には身に付けないのが普通だ。
ただ、うん。
ステラさんの解説は納得できたから、きっとそういうことなんだろう。
「言われてみれば、似てる気はするよ。だけど、魔剣技の方が身体の負担は大きいな。発動した時の反動が強い感じ。でもこれって普通に叩いた時と同じで、叩く力が強いから反動も大きいってだけのような気もするな」
「なるほどねー」
「俺も自分で使ったのは〈
「興味深い。ぜひそうすべき」
「スレイダーさんの魔剣は異世界のものかもしれないから、参考にならないかも」
「あー、そうかもしれないねー」
「見たことがないので言及は控える」
やっぱり、参考になる例が少ないと議論も深まらないな。
まあ、どうせ暇つぶしの雑談ではあるけど。