「魔石みたいなものってことは、術力が強いと術法も強くなるのと同じように、
クレールの疑問に、ステラさんは思案顔。
「事例や資料が少ないので、確かなことは言えない」
とすると、魔剣技を使っていた俺の経験から言うしかないな。
「そこは多分、そうだと思うよ。やっぱり気持ちが入ってる時の方が魔剣技も強かったし」
「リオンの
「それは
「えー。そこまで厳密にしなくてもいいんじゃない?」
「数少ない事例だからこそ、よく検証しなければいけない」
話している内に、ステラさんも魔剣技への興味が強くなったみたいだ。ただの雑談じゃなくなってる……。
俺としても、魔剣技の詳しい仕組みがわかったらもしかすると、
その検証のためにもっと戦ってくれと言われると、今はちょっと困るな……。
「あーあ。僕も〈真竜の牙〉で魔剣技が使えたら、試してみるのになー。
クレールのその言葉に、ステラさんが頷いた。
「貴方の魔法の才能は認める。私の次くらいにすごい」
「ステラが、僕の次くらいにすごいんだよ!」
「……私の次くらいにすごい」
二人とも相手をすごいと褒めているけど、自分の方が上だというのは譲れないらしい。まあ、二人はそのくらい仲良しだって言う話……多分。
「ステラは強情だなー」
ため息をついたクレールが「やれやれ」とでも言い出しそうな表情と身振りでそんなことを言うと、ステラさんもほんの少し、本当にほんの少しだけ、口の端を上げて応じた。
「強情さの一番は貴方に譲る」
「!」
クレールは返す言葉を失って、口をあんぐりと開けている。
これはクレールの負けだな。これ以上熱くなる前に止めよう。
「まあまあ二人とも、そのくらいに。……そうだ。魔法が発達してた古王国時代にはきっと、術力が強い人が多かったんだと思うけど、同じように
話をそらすために俺がそうまくし立てると、二人もそれ以上の応酬はしなかった。元々、じゃれ合いみたいなものだったんだろうけどね。
クレールはしばらく「うーん」とうなってから。
「
なるほど。そもそもの身体の造りが違うという解釈か。
古い伝説で主役になっているような、力のある人は、例えば……神の子孫だとか、天使と悪魔のハーフだとか、異界から来た上位種だったりとか、そういう話がついているもの。昔はそういう人が案外多くいて、代を重ねるごとに普通の人間と変わらなくなっていってる、というのはあるかもしれない。
俺は……霊峰の聖竜から、そういう特別な血は全くないって断言されたけどね……。
それにしても、気になるのはクレールだ。
「? どうしたの? 僕の顔をじーっと見て」
クレールも本人が言うように、一番かどうかはともかく、術力は強い方だと思う。
もしかすると……。
うーん。やっぱり、参考にはならないな。
考えてみれば古王国時代って千年以上前だから、さすがにクレールよりもさらに昔の人だ。
「……ねえリオン? いま、僕を昔の人扱いしなかった?」
おっと、ばれたか。案外鋭い。
「…………」
クレールは無言で俺を見つめている――というか、睨んでいる……。
「……クレールの術力は本当にすごいなと思って」
「ほんとにそれだけ?」
くっ。いつもならこれで大体、クレールの方から退いてくれるのに。
こうなったら仕方ない。最後の手段。
「……ははは」
「笑ってごまかされたっ!」
これ以上は何と言っても角が立ちそうだから、ごまかせるものならごまかしておこう。
クレールはなおも俺を追求しようとしたけど、そこにちょうどステラさんが割り込んだ。
「古王国時代の人間は、おそらく
なるほど。使う人がいない道具を作っても仕方ない。それはそうだ。
「もう昔の話はしなくていいよ!」
クレールがご機嫌斜めな様子でそう言ったので、この話はここまで。
「では、魔剣技の話に戻す」
そうだ。その話だった。
それにしても、ステラさんは魔術士だから魔剣を使うわけでもないのに、どうして急に魔剣技について興味を惹かれたんだろう。
と思ったけど、ステラさんが続けて話したことで、何となくわかった。
「魔剣技が魔石を介した術法の発動と同様の現象であると仮定すると、魔石を制作できる環境があれば、魔剣技を付与することができる可能性もある」
魔剣を作るというのがもうほぼ現実のものになったからかもしれない。
その先のこととして、魔剣技のある銘入りの魔剣を作ることにもいつかは挑戦したいってことなんだろう。
その気持ちはわかるな。
「魔石って、作れるんですか? ええっと……今の技術で」
古王国時代には可能だったことが、今も可能とは限らない。でも、魔剣が作れるならもしかして、という期待もある。
だけど、ステラさんは首を左右に振った。
「今の私には無理」
やっぱり無理なのか。ただ、将来的には可能かもしれない、という言い方だ。
どういうことなのか、クレールと一緒に、続く言葉を待っていると。
「魔石は、石の内部……外から見えない部分に、非常に緻密に、立体的に、魔法回路が刻まれている。その刻印作業は魔石の外部から、その石を破壊せずに、術力の強弱のみで行わなければならない。これには高度な術力制御技術と、多大な集中力を要する。平面の層が二、三ある程度ならまだしも、複層球形回路は、古王国でも多くは制作されなかったほど、非常に難易度が高い。よって、今の私では挑戦したとしても成功の見込みはない」
うん、うん。説明を聞いても何が何だかよくわからなかったけど、ともかく困難だってことだけはわかった……。
「なるほどー。なるほどねー」
クレールはしきりに頷いてるけど、本当にわかってるのかな。
「複層球形回路の理論書は僕も読んだことあるけど、確かに難しそうだったね。父様は、冗長になっても平面回路に描き直した方が扱いやすそうだって言ってた。僕もそう思うよ。でも発動が遅くなっちゃうのかなー」
「おそらくそう。使用時の負担も大きくなると推測される。どの程度の差が出るかは術法による」
「でも魔石の大きさのこともあるし、あんまり非効率的な回路だと入りきらないのかな?」
「高精細にすれば納めること自体は可能であるはず。ただし、それではいずれにせよ高度な術力制御が必要になる。また、そうして製造された魔石は、外部からの干渉の影響が大きくなると予想される。端的に言うと、使いにくくなる。最終的な仕上がりに関しては、複層球形回路が最適解」
「なるほどねー」
……うん、クレールもわかって話してるみたいだ。俺はよくわからないけど。
「逆に魔石自体を人間が持ち運べないほどの大きさにすれば、今の私の技術でも制作できる可能性はある。その大きさならばおそらく、制作時に多少制御を誤っても破綻はしないと期待される」
「そっかー。それは試してみる価値ありかも!」
「ただし、材料費が膨大になる。師匠の研究によれば、現在入手可能な素材で魔石として利用できるものは限られる。比較的身近なものでは、サファイアが該当する」
「人間が持ち運べない大きさの、サファイアかー。リオンはどう思う?」
「無理かな。まず見付からないと思うし、あったとして、手が届く値段とは思えないよ」
「だよねー」
「残念だが、理解している」
結局、今は魔石を作ることはできないって結論になった。
魔剣に魔剣技を付けられるようになるのは、まだまだ先の話か。