竜牙の勇者はしばらくお休みします   作:雷神宮燦

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材料が揃った

 さらに数日を経て、魔剣化の材料がほぼ揃った。

 昼の内にステラさんからそう報告を受けていた俺が、夕食の席でみんなにもそのことを伝えると、たちまちお祝いムードになった。

 結局、集め始めてからここまで、一ヶ月くらいかかったかな。必ずしも毎日材料集めをしていたわけじゃないけど、みんなの熱が冷めないうちにここまで来られて良かった。

 材料が揃ったことで、あとは実際に作ってみるという段階になる。

 夕食の後に、ステラさんが今後の作業について話してくれた。

「マンドラゴラとか何に使うのかと思ったけど、魔法陣を描く塗料に混ぜるのか」

「食べるんじゃなかったんですね!」

 ナタリーが意外そうな感じで言った。

 えぇ……あの何か気持ち悪い感じのマンドラゴラを食べる?

 ないな。ないない。

「マンドラゴラ……毒がある植物」

「しっかり焼くとか、塩漬けや酢漬けにでもしたら食べられるのかと思ってたです!」

 うーん。そう言われるとナタリーの言い分もわからなくはないな。

 気持ち悪い感じの顔みたいな部分や手足みたいな部分は包丁でざっくり落としてしまえば、ニンジンと大差ない気もする。

 ……まあ、どっちにしろ毒があるから食べないんだけど。

「マンドラゴラの他にも、魔法に影響する植物の粉末を混ぜ込んで塗料を作る。入手困難だと思っていたパエトの根も確保できた」

「えっ。あったんですか? パエトの根が?」

 ステラさんの説明に驚いたのはマリアさん。

 パエトの根……今では絶滅した植物だと考えられているけど、手に入った。いや、持ってたと言うべきか。

 俺が異界で買って荷物袋に入れてた『活力の球根』が、それだったらしい。そういう商品名で売ってたんだ。他の材料を探して倉庫を確認した時、ステラさんが運良くその球根に気付いて助かった。

 煎じて飲んだら身体の不調が一気に吹き飛ぶような代物で、異界でも結構高かった覚えがある。確か一角獣の角と同じくらいだったし、銘のない魔剣のうちそんなに強くないものなら買えるくらいの金額。

 そう考えると今回の魔剣制作は、金額的には本末転倒のような気がしないでもないな。元々、たぶんそうだろうという予想は、ステラさんから聞いてはいたけども。

「パエトの根、栽培できないでしょうか?」

 マリアさんがステラさんに訊ねた。

 なるほど。栽培したら増やせるかもしれないのか。

「可能性はある。幸い、三個あるうち、魔剣化に使うのはひとつだけ。栽培は残りの球根で試すことになる。栽培について記した本を探し、万全の態勢で臨みたい」

「ぜひ一緒にやらせてください!」

「心強い」

 今となっては他では滅多に手に入らない稀少な植物。案外、将来的に村の産業になりそうなのはこっちかもしれない。

 マリアさんとステラさんは挑戦するつもりみたいだから、俺も応援しよう。

 さて、手順の確認もいよいよ最終段階。

「仕上げに霊気(マナ)を込めることになる。他にも方法はあるが、今回は魔剣化する刃物を放さずに握っておく方法を採用する。完全に定着するまで、霊気(マナ)を通し続ける必要がある」

 ふむ。やっぱりここでも「えいやっ」の掛け声だけで完成、というわけにはいかないらしい。でも握っておくだけならまあ、簡単そうではあるな。

「魔剣化するのはニーナの私物なので、本来ならニーナに任せるべき作業。ただし、長時間の作業となるので、無理にとは言わない」

 ステラさんの言葉がなにやら不穏なので、俺たちは顔を見合わせた。

「それって、どのくらいかかるの?」

霊気(マナ)の量によって仕上がりまでの時間が変わる。試算では、ニーナなら二日かかる」

 訊ねたニーナが、ステラさんの返答に絶句。

「さすがにそれはちょっと厳しいかな……」

 二日の間ずっと何かを持ってるだけでも大変そうなのに、それが刃物。

 そしてそれをやるのがニーナだと、他のみんなの胃袋にもダメージを与えかねないな……。

 それが予想できるから、ステラさんもニーナに勧めないんだろう。

「他の方法もあるって言ってましたよね。それは?」

「……手順書には、死なない程度に突き刺したままにしておく方法も紹介されていた。生け捕りした魔獣等を所有している場合には選択肢のひとつになる。今回は現実的な方法ではないため、除外した」

 それは結構、危険そうな方法だ。そんなことをして魔獣がおとなしくしてるはずないし。結局、完成まで気が休まらない点は同じか。

「ずっと握っておく方法、僕がやるとどのくらいになりそう?」

 クレールが訊ねると、それも想定してあったらしく、ステラさんの返答は早かった。

「私やクレールなら、およそ半日。早朝から始めれば、夜には終わる」

「う。ニーナと比べるとだいぶ短いけど、それでもやっぱり結構長いね。でも、そのくらいならいけるかな……」

 確かに、クレールは俺と一緒に陳情を聞く以外には、特に決まった仕事があるわけじゃない。ときどき、ニーナから手伝いや買い出しを頼まれているけど、それも館の中で暇そうにしてるからだ。

「よし、そこは僕ががんばるよ! 材料集めではあんまり活躍できなかったしね!」

 決意に満ちた目と、両手に握りこぶしで、クレールがそう宣言した。

 でも、気になることもある。

 クレールが刃物をずっと持ってるのって、もしかすると結構あぶな……。

「……何を言いたいのかな?」

 おっと……。うっかり口に出ていたのを聞きつけられたか。

 クレールは握ったままの拳に力を込めて振るわせつつ、不信感を湛えた目で俺を見ている……。

「……クレールが怪我したら嫌だなって」

「ちゃんと気を付けるから大丈夫っ!」

 普通ならまあ、そうそうひどいことにもならないだろうとは、思うけど。

 でも、クレールだからなあ……。ここ数日、特に何もやらかしていないから、そろそろ何かあるんじゃないかという予感がしてしまう。

 と、そこにステラさんが補足。

「鞘に入れても良いし、布で包んでおくのも良い。抜き身である必要は無い」

「だって。じゃあ問題ないね」

 そういうことなら、まあ、大丈夫かな。誰かが見張っ……見守ってれば、重大事故にはならないだろう。多分。

 ステラさんは、やる気に満ちあふれたクレールの顔をしばらく眺めて、思案。

「……私が霊気(マナ)を込める想定で回路を書いていた。クレールのための修正が必要。数日かかるが、予定日には間に合う。そのはず」

「予定日っていうのは、何か理由がある?」

 クレールがステラさんにそう訊ねながら、俺にも視線を送ってきた。でも、日程を決めた覚えはないな。どういうことだろう。

「不慣れな場合は満月の魔力を借りるのが良い、との記述があった。それに従う」

「なるほど」

 そういうことなら、俺も反対する理由はないし、事前に相談されてもその日にしただろうな。月はこっちの都合では動かないし、こっちが合わせるしかない。

「がんばるぞー!」

 クレールが握った拳を突き上げた。

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