そんな風にとりとめもないことを話しながら過ごすことしばし。
次に食堂に来たのはマリアさんだった。
「レベッカさん、お薬、持ってきましたよ」
「ああ、ありがとうございます」
マリアさんの言葉に、レベッカさんが椅子から立ち上がって頭を下げた。
そして、そのレベッカさんの目の前のテーブルに、小さな革袋が二つ、置かれた。
「こちらが痛み止めで、こちらは吐き気止め。症状が出始めたと思ったら、一回に一粒だけ、飲んでください。どちらも強いお薬なので、一度飲んだら次は半日以上、間を空けるようにしてくださいね」
「はい」
レベッカさんも素直に頷いて、袋を手に取った。
その中身を確認するのを俺も横から見ていると、革袋にはたくさんの丸薬が入っていた。レベッカさんはそれを元の袋に戻して、その袋を、自分の腰のベルトに繋いだ。
「痛み止めの薬って、どこか痛むんですか」
「頭痛の薬よ。ときどきあるの」
レベッカさんはそう言って苦笑しながら、額を押さえてみせた。
「そういえば、前に聞いたな。頭が痛くなって、気分が悪くなるんだって。それで両方の症状に薬を出してもらったんですね」
呟くと、不思議そうな顔をされた。
「言ったかしら。まあ、知られてまずいことでもないけど」
おっと……。もしかしたら、その話をしたのは異世界の方のレベッカさんとだったかな。まったく同じとも限らないし、気を付けないとな。
それにしても、改めて思い返すとレベッカさんはよく頭を抱えてる。いろいろと気苦労が多いんだろう。今は特にペネロペのこととか。
「頭痛自体が酷くなることは滅多にないんだけどね。でもやっぱり、集中力も落ちるし」
ふむ。少なくとも俺がレベッカさんと一緒に戦っていた時には、頭痛を理由に途中離脱されたことは、なかったな。
……頭痛を理由に同行自体を断られたことはあったけど。
ただ大体、アゼルさんがいた時だったから……単純に気持ちの問題だけじゃなくて、何かこう、空気が合わない、みたいなのがあるんだろうと諦めてた。
「頭痛に効く薬もあるのか。知らなかったな」
俺も頭痛は時々あった。記憶を失ってた時のことで、最近はほとんどないけど。
あの頃に痛み止めを持ってたら使ったかもしれない。
「レベッカさんの頭痛は前兆があるそうなので、その時に飲めばちょうど頭の痛みが出始める頃に、痛み止めの成分が効いてくると思いますよ」
とは、マリアさんの解説。
前兆がある頭痛もあるのか。これから頭痛になるってわかるのは、便利なような、逆に不安なような。
「大変そうだ」
ありきたりだけど、俺の感想としてはそんな感じ。
「でも薬があればそれを飲めば治まっちゃうから、だいぶ気が楽になるわね」
レベッカさんが力なく笑う。そんなに酷くはならない、と言ってもやっぱりつらい時もあるんだろう。
「法術で治せればいいのに」
怪我なら〈
「一応、一時的にだけど、痛みは抑えられるわよ」
「あれ、そうなんですか」
レベッカさんの指摘に、俺はちょっと間抜けな返事をしてしまった。
「外傷のない痛みには、だいたい〈
そう答えたのはマリアさん。マリアさんは魔術の方が得意で、例に挙がったふたつは法術だ。マリアさんと逆に法術が得意なミリアちゃんなら、どっちも使えるはずだ。
「私は〈
なるほど。頭痛を治そうとして頭痛を強めるのは、本末転倒だな。
「でもこれは強い薬ですから、使いすぎはだめですよ」
「はい」
レベッカさんも薬のことに関してマリアさんに意見するつもりはないらしい。
「特級お腹空いたです!」
「いっぱい身体を動かしたからねー。夕食、楽しみだなー」
「んっんー! 今日はおにくだと思うなっ!」
「お肉ですか。お肉は好きですわ」
と、演し物の練習に区切りを付けたみんなが、ぞろぞろと食堂にやってきたので、レベッカさんの頭痛の話は終わり……
「あ、ハスターは木の実を食べたいんだって」
「きゅい」
「ぎゃーっ! ネズミっ! どこかへもってって!」
おっと……。終わってなかった。
食堂の大騒ぎに、レベッカさんはため息を吐きながら、右手で頭を押さえることになった。