もしかしたら途中で合流できるかもしれないと思っていたけど、そんなこともなく、目的地である一軒家までたどり着いた。
ここは魔女の店。
まじないや占いの他に怪我や病気の治療も行っていて、薬草に詳しいマリアさんは、その知識を買われてここに手伝いに来ている。ナタリーはそのマリアさんを迎えに来たはずだけど……。
普段ならもう店を閉めている時間だというのに、煌々と明かりが灯っている。
どうしたんだろう。
疑問を抱えたまま、様々なハーブの植えられた前庭を抜けて店に近付くと、ちょうど外に出てきた白衣姿のマリアさんと目が合った。
「あら、リオンさん。おかえりなさい」
数日の旅行から戻ってきた俺だから、マリアさんの「おかえりなさい」は合ってるけどね。
俺が迎えに来たつもりのところに言われたから、ちょっと笑ってしまった。
マリアさんは、ミリアちゃんのお姉さん。
俺より歳上だけど、正確に何歳かは聞いていない。訊ねていいものかどうか迷っていたら、なんとなく機会を逃している。でもたぶん、四つか五つくらい上ってところだ。
魔法の才能はミリアちゃんほどではないけど、元々が魔女の家系らしく、特に薬草に関する知識が豊富。その分野では、ステラさんもマリアさんに教えを請うほどだ。
あと、その……。
スタイルが良い。そして美人。
普段は他人と胸の大きさを見比べて勝った負けたと呟いているクレールも早々に張り合うのをやめて「うわー、母性に吸引されるー」と抱きついていたりする。ちょっとうらやましい。当然のことながら、俺にはそんなことをする勇気はない。
ミリアちゃんが自分は将来美人になると確信しているのも、マリアさんがいるからだ。
そんなマリアさんだけど、よく見れば、今は少し疲れた表情をしている。
「何かあったんですか?」
「ええ、ちょっと……急な患者さんがいらっしゃって。命に関わるほどではないんですけど、治療は早いほうがいいだろうということになりまして」
言いながら、マリアさんは俺の横を過ぎて、ハーブ畑の方に向かった。そして、手にしたランタンの明かりを頼りに、次々とハーブを摘み取っていく。さすがの手際だ。
「俺にも何か手伝えることがあれば、言ってください」
「ありがとうございます。でもここの薬草は毒があるものも多いので……お気持ちだけで」
そう言われると手は出せない。確かに、専門の知識がある人がやるべき仕事だ。
「それに、患者さんはもう落ち着いたので、大丈夫ですよ。ナタリーちゃんもたくさん手伝ってくれましたし」
……なるほど、それでか。
二人がなかなか戻ってこなかった理由ははっきりした。
そして、この場にはもう俺の出番はないってこともわかった。
「リオン! 来てたですか!」
と、ちょうどナタリーがやってきた。両手で持っているのは大きな水桶。井戸に行って水を汲んでたみたいだ。
「うん。二人がなかなか帰ってこないから」
「お手数をおかけして申し訳ないです! あたしはこのとおり元気です!」
確かにいつも通りの元気の良さだ。
それに間を置かず。
「患者さんが休んでるから静かにね」
自分の唇に人差し指を当てて、マリアさんがナタリーを窘める。
「そうでした……!」
慌てて声を落としたナタリーの様子に、マリアさんは小さく頷く。
そしてどうやらここでの作業は終わったようで、マリアさんはハーブの入った籠を手に立ち上がった。
「ナタリーちゃん。ここの手伝いはもう十分ですから、その水をおばさまに届けたら、リオンさんと一緒に帰ってもいいですよ」
その言葉にナタリーは「わかっ……!」と大声で返事をしようとして、慌てて中止した。
「わかったです。そうするです」
「手伝ってくれてありがとう。帰り道、気を付けてくださいね」
「マリアさんは?」
「私はもう少し残ります。明日からのお薬を用意しておかないといけませんし。ミリアのこと、お願いしてもいいでしょうか」
俺の質問に、マリアさんはひどく申し訳なさそうな顔でそう答えた。
「伝えておきます」
俺がそう請け合うと、マリアさんは安堵の表情。
「ありがとうございます。お願いしますね」
あとはナタリーが戻ってくるのを待って、帰るだけ……。
……っと、そうだ。忘れるところだった。
「これ、ニーナがマリアさんにって持たせてくれたんですが」
ニーナが大慌てで用意してくれたお弁当。中身は、パンと、薄切りのハムとチーズ。手をかけずにすぐに食べられるものだってことだった。
「あら。ありがとうございます。助かります」
マリアさんが一人で食べるには多めのような気がするけど……ナタリーと、もしかしたら俺もこれを食べる可能性があったのか。それならこの量も納得。
「ニーナちゃんにもお礼を言っておいてください」
「わかりました」
そうこうしているうちにナタリーも戻ってきた。
そして俺のことをじーっと見ていて……。
「ナタリーもがんばったね」
そう言って頭を撫でると、ナタリーは目を細めた。尻尾があればぶんぶん振ってそうな感じ。
「よしっ! 帰りましょう!」
と元気に拳を突き上げたナタリーは、すぐにマリアさんから窘められた。