竜牙の勇者はしばらくお休みします   作:雷神宮燦

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お嬢様なら

 西の客室はまあまあ気に入ってもらえたらしい。馬車の御者がエントランスに積んでいった荷物を、俺とヴォルフさんで手分けして客室に運び込む。なかなかの量だ。中身はほとんど服で、これでもかなり減らしてきたらしいけど。まあ、お姫様のご旅行というとこのくらいにはなるか。

 さすがにこの頃になると館のみんなも来客に気付いて集まってきた。

 西の客室はこの館の個室としては一番広いとはいえ、みんなが入ってくると密度がすごいな。

「お客さん? 泊まるの? どこの人?」

 訊いてきたのはクレール。

「ヴォルフさんの知り合いの娘さんで、しばらく預かることになったんだ。ヴィカと、侍女のペトラ」

 嘘は言ってない。その『ヴォルフさんの知り合い』が王様だってことを言ってないだけで。

 ヴォルフさんも「どうかよろしく頼む」と頭を下げた。

 みんな、思うところはあるかもしれないけど、反対はなかった。見た感じ、好奇心が勝ってるかな。それぞれ口々に自己紹介をしてた。

「どこかで会ったことがある気がするです!」

「あたしも! どこだろ?」

 ナタリーとミリアちゃんがそう言ってるのが聞こえて、少しひやひやする。この二人は雷王都市に住んでたから、ヴィカのことを知っててもおかしくないな。マリアさんもそうだ。表情を見る限り……気付いてるかもしれないな、マリアさんは。

「ねー、リオン。ヴィカってたぶん、結構お嬢様だよね?」

 クレールはヴィカのことをよく知らないはずだけど、そんな風に言ってきた。

「どうして?」

「侍女がいるってだけで、ほぼ間違いないよ。それにこの荷物の量。そして、あんな馬車で来たってことなら、完全に確定だよね」

 見れば、ヴィカが乗ってきたあの馬車はまだ前庭に停まっていた。ヴォルフさんが出てくるのを待ってるのか。あの御者も本当はヴォルフさんの部下の騎士だって言ってたしな。

「……まあ、本人から言い出すまではあまり詮索しないってことで」

 クレールは子供っぽいところもあるけど、本当に子供なわけじゃないから、そのくらいの分別は期待してもいいだろう。

「ま、僕が指摘するまでもなく、夕食の席でおのずと明らかになると思うよ。決定的な証拠が現れるよ、きっとね」

 ……よくわからないことを言うなあ。

 

 ヴォルフさんは「くれぐれもよろしく頼むぞ」ともう何度目だかわからないようなことを言い残して、あの馬車と一緒に村へと降りていった。夕食にも誘ったけど、一緒に居るとヴィカが羽を伸ばせないだろうからと断られた。仕方ないか。村の酒場の料理がおいしいことは伝えておいた。

 その後の夕食の席。

 これまで以上に大人数になったから、急遽テーブルを継ぎ足して対応した。

 素性を知ってると申し訳ないけど、ヴィカとペトラは継ぎ足された部分に座ってもらった。案の定、ペトラからはものすごく睨まれたけど。ヴィカの方はにこにこしていて、気にした様子は見られない。少なくとも、今のところは。

「いい匂い……」

 運ばれてきた料理を前にして、ヴィカが呟いた。

「お口に合うかどうか」

 ニーナは緊張してる様子。それはまあ、そうだろう。お姫様が自分の料理を食べていったい何て言うか、気にならないはずがない。

 そのせいかな。心なしか、今日の料理は普段より豪華なような。

 でも品数が多いだけか。それぞれの料理は普段通りだ。海で獲れる魚、森で採れる茸や木の実、それに畑で育てた野菜。そういうのを使った料理で、そんなに特別なものじゃない。

 まあ、なんてことない普通の食材でも、ニーナにかかれば美味しく調理されてしまうんだけど。

 食前のお祈りを済ませてから、食べ始め。

 量が多いのに感激してるのは、たぶん一番はナタリーだろうな。最初からかなりのハイペースで食べてる。最終的な量でいうとクレールやミリアちゃん、それにペネロペも結構食べるけどこの三人の食べる速さは、ナタリーと比べたらゆっくりだ。

 さて、肝心のヴィカはというと……

「温かくて、とても美味しいです」

 微笑と共にそう言ったので、ニーナもやっと安心したみたいだ。ヴィカの隣ではペトラも自分の分を食べている。無言だけど、相当気に入ったらしいのは伝わってくるな。

 この二人の所作は、並ぶと特にだけど、ヴィカの上品さが際立つ。スプーンでスープをすくって口に運ぶ、というだけでもこれほど差が出るのかと驚くくらい。侍女のペトラだって、これでも普通の人と比べたら上品な方なのにな。

 館の住人だと、クレールやフューリスさんも上品な食べ方をする方だけど、さすがに現役のお姫様には一歩譲る感じになるか。

 なるほど、クレールが言ってた『お嬢様であることは夕食の席でおのずと明らかになる』って、こういうことか。

 こういうマナーは一朝一夕に身に付くものじゃない。きっと幼い頃から教育されてきたんだろう。そういうところで、育ちの良さは出てしまうわけだ。

 俺は……まだこれから身に付く可能性は、あるな。……多分。

 

「この後は食器を洗うんですよね。手伝わせてください」

 夕食の後、ヴィカがにこにことそんなことを言ったので、少し扱いに困った。本人が希望したとはいえ、お姫様にやらせていいものなんだろうか。結局、ニーナが「今日は初日だから、お客様としてゆっくりしててください」と理由をつけて諦めさせてたけど、その理由は明日には使えない。どうしたものかな……。

 片付けもある程度済んでから、特に急ぎの用事がなく居残ったみんなで食後のお茶を楽しんでいると……

「あてが外れたなあ……」

 クレールが、どことなくしょんぼりした様子で呟いた。

「お嬢様なら絶対に『美味ですわねー』って言うと思ったのに……」

 そこか。

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