竜牙の勇者はしばらくお休みします   作:雷神宮燦

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伝心

「……始める前に聞いておきたいのだけど、絵の題材がさっぱり意味不明な時にはどうしたらいいのかしら」

 言葉は禁止とあらかじめ言われたにも関わらず、レベッカさんがそう言ってしまう絵らしい……。

「えー、そう? そうかなあ?」

 クレールはもう一度自分の絵を見直して、こっちはこっちで首を傾げている。

 どんな絵なんだろう。ここからじゃ見えないけど。

「まあ、その時はー……勘で!」

 勘って。それ、ちゃんと勝負が成立するんだろうか……。

「みんなも考えてね。それじゃ、スタート!」

 その合図を受けて、レベッカさんとヴィカが両手を動かし始めた。二人ともあまり大きな動きはせずに、胸の前で何かの形を作ってみたりしてる。

 レベッカさんが首を傾げてるのは、先に言った通り、お題を理解しきれてないのかな。

 対するヴィカは、なにやら自信ありげな様子。

 でも……その二人の動きを俺が見てもさっぱりわからない。周りで見てるみんなもよくわかってない様子だ。そこはやっぱり、主従なり義姉妹なりの絆がないと理解できないんだろうか、とも思う。ただ、出題者として答えを知ってるステラさんまで小首を傾げているのが気になるな……。

「わかった」

 ペトラが言って、見守っているみんなから「おおっ」とどよめきが上がった。先んじられたペネロペは「なっ!」と呻く。

「はやいね! じゃあペトラの答えは?」

 クレールが訊ねると、ペトラは自信満々に回答。

「ステーキ!」

「全然違うねー。食べ物じゃないんだよー」

 残念。ペトラは「そんなはずない!」と抗議したけど、裁定は覆らない。

「ペネロペはわかった?」

 訊ねられて、ペネロペが頷く。レベッカさんはあまり自信なさそうだったけど、ペネロペは何かの確信がある様子……。

「正解は、パンですわね!」

「食べ物じゃないって言ったよね? はずれだよ!」

 ダメだったか。ペネロペは「ぐぬぬ」と歯ぎしり。

 この場合はどうするのかな。決着が付くまで続けるなら、次の問題が出ることになる?

 いや、その前に答え合わせか。

「正解はー……」

 クレールはそうやって少しもったいぶってから……

「じゃんっ! これ!」

 と、自分の描いた絵をみんなに大公開した。……したのはいいんだけど。

「……何それ」

 俺は、みんなを代表してそう言った。

 何か……端的に言うと、謎の黒い物体だ。

 まあ黒インクしかないから黒いのは仕方ないとはいえ。

 形は、そうだな、丸いものなのはわかる。何かの模様らしきものも描いてある。

 言われれば確かに、肉を焼いたものにも、パンにも見えるな。

 でも食べ物じゃないらしい。

 ……本当に、何なんだろう、これ。

「え。ねこだよ!」

 クレールがそう言って絵を頭上に掲げたから、改めてよく見てみる。

「……?」

 猫? これが?

 まさか竜気(オーラ)の影響とかで俺の目がおかしくなったのかと思って、一応、みんなの顔を見回してみたけど。

 なるほど得心がいった、なんて顔はひとつもなかった。

「……もしかして、僕のすばらしい絵がわからない?」

 クレールが、不満げな声でそう言ったけど。

「少なくとも猫ではないね……」

 俺としては、そう言うほかない。

 絵が得意でないのは個人の資質もあるしあれこれ言うつもりはないけど、この絵が他人にも伝わると思えるのはどういう心の働きなんだろう……。

「レベッカとヴィカは何だと思ってたです?」

 ナタリーがそう質問した。なるほど、それはちょっと気になる。

「悩んだのよね……。でも、最後にはパンだと信じて伝えたわ」

「ですわよね。お姉様のその意思は私にも伝わってきましたもの」

 レベッカさんとペネロペがそう頷き合った。

「私はステーキだと思いました。ペトラは私のことをよく理解してくれています」

「ほら! 私も合ってる!」

 こっちも、お互いの意思疎通はできてたってことになるな。

「なかなかやりますわね」

「ふんっ。お前もな」

 ペネロペとペトラはそう言葉を交わして、お互いの健闘を称え合った。その様子にみんなから拍手が起きて、ついには二人とも矛を収めるに至った。

 ちょっとした衝突はあったけど、このくらいならむしろ、お互いを知るいいきっかけになったかな。

 もしかして、クレールはこうなるところまで計算して……?

「……ねこなのに……」

 というわけでもなさそうだ。まだ自信を失った様子で立ち尽くしてた。

「そう気を落とさないでください。クレールさんの絵からはなんと言いましょうか、こう……どっしりとした安定感を感じましたよ?」

 ヴィカは笑顔でそう言ってクレールを慰めたけど、それって褒めてるのかな。

「この絵、頂いてもよろしいですか? 今日という日の記念品にしたいので」

 そこまで言うなら、ちゃんと褒め言葉だったんだろうな……多分。

 クレールは半ば自棄になった様子で「こんなのでよかったらどうぞ……」と絵を譲っていた。

 それにしても、互いの間に深い理解があれば、身振りだけでも結構伝わるものなんだな。

 ……俺はみんなとどのくらい気持ちを繋げられているだろう。

 みんなは俺を理解しようとしてくれてるけど、それに対して俺はどのくらいみんなのことを理解できてるか。

 同じゲームをやってみればわかるのかもしれないけどね。実際に確かめるのは、ちょっと怖くもあるな。

 それにしても。

「これ、絵にしなくても、レベッカさんとヴィカにはお題を直接伝えれば良かったんじゃない?」

 さっきのルールは、クレールの絵心という不確定要素がちょっと強すぎたよな。

「それは始める前に気付いて言って欲しかったよ……」

 そう言われてもね。

 結局これ、誰が勝ったのかはわからなかったけど……クレールが負けたのだけは、確からしい。

 

 ちなみにその絵はヴィカが本当にもらっていって――

 その日の夕食の席で、題名は『ステーキでもパンでもなくねこ』に決まった、と教えてくれた。

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