館を警備していた騎士のひとりが俺を訪ねてきて、来客があることを告げた。
前庭に出ると、そこには多くの荷物を積んだ馬車と、その荷台に寄りかかって立つ銀髪の女商人がいた。
「よう、領主様。また同居人が増えたそうだな?」
春祭りの時以来、久しぶりに会うユウリィさんだ。
まあ、邪神との戦いが終わった後には会ってないくらいの仲間もいるから、それと比べれば、よく顔を見る方か。
「確かに、春祭りの頃からは何人か増えてますね」
フューリスさん、クルシス、ヴィカ、ペトラ……の四人か、春祭りより後に来たのは。同居人、というくくりだからネスケさんやヴォルフさんは除外。
「でも、みんな一時滞在の予定ですよ」
俺がそう言うと、ユウリィさんはにやにやと笑った。
「そうなのか? 村ではまた嫁が増えたらしいって話になってたがな?」
「それ、言ってるのはどうせ親方でしょう……」
親方はあの賭けの胴元に近い位置にいて、村の人たちをかなり煽ってるらしい……というのは、魔女の店で村の噂に接する機会の多いマリアさんからの情報。
親方はヴィカと会ったことはないはずだけど、フューリスさんとは一緒にお酒を飲む仲だし、ペトラも最近はニーナについて村に降りることも増えてるから、話くらいは聞いてるのかもなあ。
俺から訊ねると逆に口を滑らせてしまいそうだから、確認はできていないけど。
「それにしても、物々しい雰囲気だな? ここに来るのに坂を登ろうとしたら、呼び止められて荷物検査だ。おかげでえらく時間がかかっちまった」
俺をここに呼んだのも、館の誰かじゃなくて雷王都市の騎士だった。館に近付く人、特に村の外から来た商人なんかは、なかなか厳しい検査があっただろう。
事が事だから仕方がないとはいえ、迷惑を掛けてしまったな。
「この迷惑料は誰に請求すればいい? 領主様か、それとも、あんたの館にいる雷王都市のお偉いさんか?」
俺からは何も言ってなくても、すぐにわかってしまうか。
騎士たちは鎧に紋章を刻んでいる。元々、識別のためにつけている物だ。そこから雷王都市の関係者が館にいることを推測するのは、ユウリィさんくらいの商人なら容易なことだろう。
「それは、どうしてもと言うなら俺の方に請求してください。特別な通行許可証を渡してなかった俺の失策です」
そう言うしかない。実際ユウリィさんは重要な取引相手だし、館の住人と同じ程度にすんなり通行できていいはずだ。
「ふぅん? そうしてかばうとは、相手はよほどの大物らしいな? とすると……」
「ああ、ええっと、決してかばって言ってるわけではないんですが……」
……うーん。こうして話し続けるのは危ない気がするな。一応、ヴィカが雷王都市の王女だってことは秘密なのに、見破られてしまいそうだ。
「やあユウリィ。元気そうだね」
そこにちょうどそう声を掛ける人が現れて、ユウリィさんが思考を中断したから、俺としては助かった……ってところだ。
「ああ、フューリス。あんたも元気そうで何よりだな? あんな物を注文するくらいだから、もっと悲愴な顔をしているのかと思ってたぜ」
「それは、ご期待に沿えず申し訳なかったね」
どこか似たところのある二人が、俺を挟んでそんな言葉の応酬をした。
似てるっていうのは、俺より背が高いところとか、短めに整えた髪とか、あとは、話が回りくどいことがあるところか……。
横で見てると言葉にちょっとトゲを感じることもあるけど、二人ともそんな言葉遊びを楽しんでるみたいだから、仲が悪いってわけじゃないはずだ。
「早速だけれど、私が頼んだ品について聞かせてくれるかい? 届くのはいつ頃になりそうかな。ニコルは、しばらく待ってくれと言っていたけれど」
フューリスさんが言ってるのには、俺も心当たりがあった。本当は数日しか滞在せずまた旅に戻るつもりだったフューリスさんが、その品物が届くのを待つために滞在を延長してるんだ。
かなり貴重な品だとは聞いてるけど、それが何なのかは、実はよく知らない。
「そいつなら持ってきた」
「えっ、もうかい?」
フューリスさんがそんなに驚くのは珍しい。というくらいの驚きようだった。
すぐに立ち直ってはいたけど、でも、やっぱり納得がいかない様子ではある。
「……少し待っておくれ。それはおかしいのではないかな。だってね、私は確かに注文を出したけれど、それはお店にいるニコルに伝えたのであって、ユウリィ、君はそのことを今日聞いたのではないかと思うのだけれど」
確かに、フューリスさんがここに来たのは春祭りの後で、春祭りまで滞在していたユウリィさんとは入れ違い。そのせいで、品物が届くまでは時間がかかりそうだ、というのはフューリスさんも覚悟していた。
それが、もう用意出来ている?
ユウリィさんは困惑する俺たちを鼻で笑って、種明かしをしてくれた。
「ニコルはオレがどの宿に泊まるか知っているからな? 泊まる予定の宿に手紙を送る程度の手間を、あいつが惜しむはずもないだろう?」
「それは……なるほど、道理ではあるね」
どこにいるかわからない人に手紙は届かない、と思ってたのが間違いだったわけだ。ステラさんの師匠もそうだけど、住処が定まらない人はその人なりに、親しい人との連絡手段は確保してるものなんだな。
「気付かなかったのが恥ずかしいよ。どうも少しばかり、一人でいることに慣れすぎていたみたいだね」
フューリスさんも基本的には旅の人だけど、商人であるユウリィさんほどには、他人と関わらなくても平気だったのかもしれない。自分の事情になるべく他人を巻き込まないように、あえてそうしていた面もあると思うけど。
「それで、こいつだ」
言って、ユウリィさんは荷台から小さな荷物を取り出した。
何か、棒……みたいなものだ。長さは、俺の指先から肘あたりまで、くらいかな。真っ赤な布に包まれていて、それが何なのかはっきりとはわからない。
それを手渡されたフューリスさんが布を剥ぐと……
ぞわっ、と、空気が震えた。