インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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九話

IS学園―――第三アリーナ外。

 

十秋は一夏とセシリアの試合には興味を示さず、気怠そうに歩いていた。

 

「どうせ結果なんて見えてるしな」

 

自販機の前に立ち、コインを入れようとしたその時―――

 

ピピッ―――

 

端末が鳴る。

 

「……千冬姉か」

 

通話を開く。

 

「今、外にいます。もしかして―――」

 

『すぐに戻って来い』

 

短く、それだけ言って通信は切れた。

 

「は?」

 

あまりにも一方的な指示に、十秋は眉をひそめる。

 

「試合終わったのか……? まさか、あの程度で負けたわけじゃねぇよな?」

 

軽く舌打ちをしながら、踵を返す。

 

 

第三アリーナ―――入口。

 

「来たか」

 

「……何があったんだよ」

 

戻って来た十秋は、すぐに異変を感じ取る。

 

妙に静まり返った空気。

そして―――モニターに映る光景。

 

「……は?」

 

そこに映っていたのは、ボロボロに破壊されたアリーナの一部と―――撤収されるセシリアの機体だった。

 

「おい、どういうことだよ……」

 

「オルコットは棄権だ」

 

「は?」

 

「機体が戦闘不能レベルで損傷した。これ以上の戦闘は不可能だ」

 

淡々と告げる織斑千冬。

 

「……ふざけんなよ。あいつが負けたって言うのか?」

 

信じられない、と言わんばかりにモニターを睨む十秋。

 

「事実だ」

 

「……誰にだよ」

 

その問いに対する答えは、すぐに示された。

 

「リオネスだ」

 

「―――は?」

 

「繰り上がりで、お前の相手は奴になる」

 

数秒の沈黙。

 

そして―――

 

「……舐めてんのか?」

 

十秋の口元が歪む。

 

「どこの馬の骨か知らねぇ奴が、セシリアに勝った? そんな訳ねぇだろ」

 

「なら、自分の目で確かめろ」

 

千冬はそれ以上何も言わなかった。

 

「……いいぜ」

 

十秋はゆっくりと前へ出る。

 

「雑魚がどんな手使ったか知らねぇけど―――」

 

右手を掲げる。

 

「ぶっ潰して証明してやるよ」

 

黄金の鍵が現れる。

 

「来い―――《英雄王》」

 

光が弾け、専用機が装着される。

 

 

第三アリーナ―――内部。

 

十秋がアリーナに降り立った瞬間、観客のざわめきが広がる。

 

だが、それ以上に目を引いたのは―――

 

「……あ?」

 

上空。

 

そこにいたのは、一人の男。

 

空中で静かに佇み、自分を見下ろしている。

 

「てめぇが……リオネスか」

 

返事はない。

 

ただ、見下ろしているだけ。

 

それが―――十秋の神経を逆撫でする。

 

「……その目、気に入らねぇな」

 

イラつきが一気に膨れ上がる。

 

(俺を見下してる……?)

 

あり得ない。

 

自分が“上”の存在であるはずなのに。

 

「いい度胸だな……雑種が」

 

背後に黄金の波紋が展開される。

 

「試合開始まで待つ必要なんてねぇよなぁ!!」

 

『待ってください! まだ―――』

 

山田先生の制止も聞かず―――

 

「死ねぇ!!」

 

武器の雨が放たれる。

 

だが―――

 

一夏は動かない。

 

迫り来る刃。

 

その瞬間。

 

カキン―――ッ!!

 

一夏の腕が動く。

 

「……は?」

 

一本、掴む。

 

さらに―――

 

ギィンッ!!

 

もう一撃を弾く。

 

爆煙の中、無傷で立つ一夏。

 

「……おいおい」

 

静かに呟く。

 

「フライングかよ。行儀悪ぃな」

 

「な……!?」

 

十秋の表情が歪む。

 

「なんで当たってねぇんだよ……!!」

 

一夏は軽く肩を回す。

 

「ウォーミングアップにもならねぇな」

 

その一言で―――

 

十秋の中の何かが、完全に切れた。

 

「殺す……」

 

空気が変わる。

 

「殺してやるよ……雑種がぁ!!」

 

怒声と共に、十秋の背後に無数の黄金の波紋が展開される。

 

そこから現れるのは、剣、槍、斧―――あらゆる武器。

 

「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎきれるか!!」

 

一斉に射出。

 

空気を裂き、武器の嵐が一夏へと襲い掛かる。

 

だが―――

 

「遅ぇな」

 

一夏は、ただ一言そう呟いた。

 

次の瞬間。

 

カンッ! ギィンッ! ガキィンッ!!

 

迫る武器を、掴み、弾き、叩き落とす。

 

それも―――一切無駄のない動きで。

 

「は?」

 

十秋の動きが一瞬止まる。

 

(なんで……見えてる!?)

 

ただの反射ではない。

完全に“見切っている”。

 

「おいおい、その程度なのかよ」

 

一夏は欠伸を噛み殺しながら言う。

 

「欠伸が出てしまうぞ」

 

その態度が―――決定的だった。

 

「痴れ者がぁ!!」

 

十秋の怒りが爆発する。

 

「天に仰ぎ見るべきこの我に不敬な態度をとは!!」

 

波紋がさらに増える。

 

密度が上がる。

 

「その不敬は万死に値する!!」

 

そして―――

 

一本の剣を手に取る。

 

三つの円筒が連なった、異質な形状。

 

「……やっとか」

 

一夏の目が、わずかに細まる。

 

(あれは……)

 

ただの武器ではない。

 

自分の持つ“神器”と同じ類。

 

「肉片一つ残さず死ねぇ!!」

 

円筒が回転を始める。

 

空間が歪む。

 

「《天地乖離す開闢の星》!!」

 

暴風が発生する。

 

圧倒的なエネルギーの奔流が、一夏へと放たれる。

 

アリーナ全体が揺れる。

 

観客席から悲鳴が上がる。

 

だが―――

 

「何言ってんだ?」

 

一夏は動かない。

 

ただ、剣を構える。

 

中心に五つの穴が空いた、反りのある片刃の剣。

 

「お前の負けだよ」

 

静かに告げる。

 

「負け犬」

 

「な―――!?」

 

その瞬間。

 

一夏は剣を振るった。

 

「《全反撃》」

 

―――世界が、反転する。

 

暴風が、跳ね返る。

 

それどころではない。

 

倍以上の威力へと変換され、逆流する。

 

「ふざけるなぁ!!」

 

十秋は咄嗟に防御を取る。

 

だが、遅い。

 

完全に、自分の攻撃に呑み込まれる。

 

轟音。

 

爆発。

 

そして―――

 

ピ――――――ッ!!

 

無情なブザー音。

 

シールドエネルギー、ゼロ。

 

 

煙が晴れる。

 

そこに立っていたのは、一夏ただ一人。

 

「……終わりだな」

 

静かに、そう呟く。

 

地面には、倒れ伏す十秋。

 

かつての“無敗”は、見る影もなかった。

 

「くそ……なんで……」

 

震える声。

 

だが、その問いに対する答えは―――

 

「簡単な話だ」

 

一夏はゆっくりと降り立つ。

 

「お前が弱いからだ」

 

「っ……!!」

 

「力に溺れてるだけの三流が、最強気取ってんじゃねぇよ」

 

その言葉は容赦なく突き刺さる。

 

「俺は……最強なんだ……」

 

「違うな」

 

即答だった。

 

「お前はただの―――」

 

一瞬の間。

 

そして。

 

「井の中の蛙だ」

 

完全な否定。

 

十秋の思考が止まる。

 

「現実見ろよ」

 

一夏は背を向ける。

 

「ここは、お前の都合のいい世界じゃねぇ」

 

そのまま歩き出す。

 

もう、振り返らない。

 

アリーナに残されたのは―――

 

敗北だけだった。

 

 

観客席上部。

 

「ふふ……」

 

その一部始終を見ていた少女が、静かに笑う。

 

ジャンヌ・リオネス。

 

「いいわね……完璧よ」

 

扇子で口元を隠しながら、愉しそうに目を細める。

 

「これでようやく理解したでしょ?」

 

誰に向けた言葉でもない。

 

「自分が“主役”じゃないってことを」

 

旗が、わずかに揺れる。

 

「さぁ―――」

 

その瞳は、次を見据えていた。

 

「ここからが本番よ、転生者」

 

物語は、ここから本当に動き出す。

 

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