インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
IS学園―――一年一組。
「はーい。と言う訳で……一年一組代表はセシリア・オルコットさんに決定です!」
第三アリーナでの決闘から次の日。
ショートホームルームにて、山田先生の明るい声が教室に響いた。
教室内はどこか微妙な空気に包まれていた。
「まぁ……そうなるよね」
「昨日のアレ見ちゃうと……」
ひそひそとした声が飛び交う。
一夏は窓際の席で頬杖をつき、興味なさそうに外を眺めていた。
そしてもう一人―――問題児である織斑十秋の席は空席だった。
昨日の戦闘でシールドエネルギーを完全に削り切られ、医療室送り。
本日は欠席である。
そして当の本人―――セシリアは。
「……」
腕を組みながら、静かに立っていた。
(本来なら……わたくしが正面から勝つべきでしたのに……)
あの日の戦いが脳裏をよぎる。
どれだけ攻撃しても跳ね返される《全反撃》。
能力そのものに干渉する《魔剣ロストヴェイン》。
あれは戦いではなかった。
―――一方的な蹂躙。
その結果、機体は大破し、試合続行不可能。
『リオネス。お前が相手しろ』
織斑千冬の一言で、一夏が代理出場。
そして―――十秋を叩き潰した。
「クラス代表はセシリア・オルコットで異存はないな?」
「はーい」
誰も異議を唱えない。
あの場にいた全員が理解していたからだ。
―――実力差という“現実”を。
◇
だが、その裏で。
一夏は―――その日から授業に姿を見せなくなった。
◇
数時間後、同じ教室。
「あのー……山田先生」
一人の生徒が手を挙げる。
「リオネスくんは……どうしたんですか?」
当然の疑問だった。
昨日の試合で圧倒的な力を見せた張本人が、いきなり来なくなったのだ。
「あ、えっと……」
山田先生は言葉に詰まる。
(答えられない……)
上から―――正確には学園長から。
『彼のことは気にせず、授業を進めてください』
そう通達されていた。
理由も説明もなく。
「……体調不良、でしょうかね?」
曖昧な返答しか出来なかった。
当然、納得する者はいないが―――それ以上は踏み込めなかった。
◇
そして当の本人は―――屋上にいた。
フェンスに寄りかかり、空を見上げる一夏。
「……」
授業の喧騒とは無縁の、静かな空間。
その時だった。
「授業サボって何しているのかな?」
軽い声と共に、気配もなく現れる人影。
「……」
一夏は振り向かない。
「返事なしかぁ……つれないなぁ」
現れたのは、更識楯無だった。
「む。黙りですか……なら―――」
指をくねくねと動かしながら、一夏に近づく。
「話させざるを得ないようにするまでです!」
「……はぁ」
一夏は小さくため息を吐く。
「別に俺が何をしようが構わんだろ。それより、用件はそれだけか?」
あっさりと折れた。
「あれ、もう降参? つまらないなぁ……」
楯無は肩を落とす。
「で? 本題は?」
「もう、せっかちねぇ」
くるっと一回転してから、楯無は口を開く。
「貴方の主人……ジャネットちゃんが学園上層部に話を通してることは、もう知ってるわよ?」
「そうかい」
ジャンヌが既に手を回していることは、一夏も理解していた。
もちろん―――交渉ではなく“脅迫”だが。
「それでね?」
楯無は少しだけ声のトーンを変える。
「二組に転入生が来たの、知ってる?」
「転入生……」
IS学園での転入。
それは―――
試験+国家推薦。
つまり、国家代表候補生クラスの人材ということ。
「名前は確か―――」
楯無は軽く言う。
「鳳鈴音、だったかしら?」
―――その瞬間だった。
「……っ」
空気が、変わる。
一夏から漏れ出した“何か”。
それは殺気という言葉では足りない、純粋な“死”の圧力だった。
「っ!?」
楯無は反射的に能力を発動。
一瞬で屋上の出入口まで後退する。
だが―――
足が動かない。
(なによ……これ……)
心臓が握り潰されるような感覚。
呼吸すらままならない。
(こんなの……今まで一度も……)
視線の先。
一夏はゆっくりと立ち上がる。
「ふふ……」
小さな笑い。
「ははは……!」
徐々に大きくなる。
「そっか……そっかそっかそっか……」
楯無は―――運が良かった。
この時、一夏の“顔”を見ていなかったのだから。
もし見ていたら―――
精神が壊れていたかもしれない。
やがて、殺気が収まる。
だが。
楯無はその場から動けなかった。
「……マジで、生きた気がしないわ……」
全身が震えている。
一夏は何も言わず、そのまま屋上を去っていった。
◇
それから数十分後。
ようやく立ち上がる楯無。
「……はぁ」
深く息を吐く。
「一体……何なのよ」
思い出すだけで寒気が走る。
「鳳鈴音……ね」
あの名前を出した瞬間だけだった。
「……関わりたくないけど」
視線を細める。
「知る必要がありそうね」
ゆっくりと歩き出す楯無。
その背中には、まだわずかな震えが残っていた。
◇
数日後―――第二アリーナ。
観客席は生徒で埋め尽くされていた。
クラス対抗戦当日。
(デモンストレーションだと?)
ピットでモニターを見つめる十秋は、眉をひそめる。
(こんなの……原作にはなかったはずだ)
隣にはセシリア、箒、山田先生、そして千冬。
「では、指定の位置に着いて下さい」
山田先生のアナウンス。
モニターに映る―――四機のIS。
「……四人?」
違和感。
本来は一対一のはず。
だが。
「……あれは何だ?」
箒が気付く。
画面中央。
何かが揺らめいている。
「水……?」
その“水”は、ゆっくりとアリーナ中央に降り立つ。
そして―――弾けた。
現れたのは、一機のIS。
「な……!?」
十秋は思わず立ち上がる。
(なんで……あの女が……!!?)
そこにいたのは―――
生徒会長、更識楯無。
観客席が沸く。
楯無は軽く手を振る。
「それじゃ、始めましょうか」
四機に囲まれながらも、余裕の笑み。
そして―――ランスではなく、日本刀を構える。
「砕けろ―――『鏡花水月』」
霧が広がる。
次の瞬間。
「なっ……!?」
同士討ち。
混乱。
そして、一方的な殲滅。
「勝者―――更識楯無」
圧倒的勝利。
沈黙の後、観客席が爆発する。
「……なんだよ、これ」
十秋は歯を食いしばる。
(こんな技……知らねぇぞ)
原作との乖離。
それでも―――
指輪を握る。
(関係ねぇ……俺にはこれがある)
そして。
「オルコット。準備しろ」
「は、はい!」
クラス対抗戦、第一試合が―――始まろうとしていた。