インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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十一話

IS学園―――一年一組。

 

「はーい。と言う訳で……一年一組代表はセシリア・オルコットさんに決定です!」

 

第三アリーナでの決闘から次の日。

ショートホームルームにて、山田先生の明るい声が教室に響いた。

 

教室内はどこか微妙な空気に包まれていた。

 

「まぁ……そうなるよね」

「昨日のアレ見ちゃうと……」

 

ひそひそとした声が飛び交う。

 

一夏は窓際の席で頬杖をつき、興味なさそうに外を眺めていた。

そしてもう一人―――問題児である織斑十秋の席は空席だった。

 

昨日の戦闘でシールドエネルギーを完全に削り切られ、医療室送り。

本日は欠席である。

 

そして当の本人―――セシリアは。

 

「……」

 

腕を組みながら、静かに立っていた。

 

(本来なら……わたくしが正面から勝つべきでしたのに……)

 

あの日の戦いが脳裏をよぎる。

 

どれだけ攻撃しても跳ね返される《全反撃》。

能力そのものに干渉する《魔剣ロストヴェイン》。

 

あれは戦いではなかった。

 

―――一方的な蹂躙。

 

その結果、機体は大破し、試合続行不可能。

 

『リオネス。お前が相手しろ』

 

織斑千冬の一言で、一夏が代理出場。

 

そして―――十秋を叩き潰した。

 

「クラス代表はセシリア・オルコットで異存はないな?」

 

「はーい」

 

誰も異議を唱えない。

 

あの場にいた全員が理解していたからだ。

 

―――実力差という“現実”を。

 

 

だが、その裏で。

 

一夏は―――その日から授業に姿を見せなくなった。

 

 

数時間後、同じ教室。

 

「あのー……山田先生」

 

一人の生徒が手を挙げる。

 

「リオネスくんは……どうしたんですか?」

 

当然の疑問だった。

 

昨日の試合で圧倒的な力を見せた張本人が、いきなり来なくなったのだ。

 

「あ、えっと……」

 

山田先生は言葉に詰まる。

 

(答えられない……)

 

上から―――正確には学園長から。

 

『彼のことは気にせず、授業を進めてください』

 

そう通達されていた。

 

理由も説明もなく。

 

「……体調不良、でしょうかね?」

 

曖昧な返答しか出来なかった。

 

当然、納得する者はいないが―――それ以上は踏み込めなかった。

 

 

そして当の本人は―――屋上にいた。

 

フェンスに寄りかかり、空を見上げる一夏。

 

「……」

 

授業の喧騒とは無縁の、静かな空間。

 

その時だった。

 

「授業サボって何しているのかな?」

 

軽い声と共に、気配もなく現れる人影。

 

「……」

 

一夏は振り向かない。

 

「返事なしかぁ……つれないなぁ」

 

現れたのは、更識楯無だった。

 

「む。黙りですか……なら―――」

 

指をくねくねと動かしながら、一夏に近づく。

 

「話させざるを得ないようにするまでです!」

 

「……はぁ」

 

一夏は小さくため息を吐く。

 

「別に俺が何をしようが構わんだろ。それより、用件はそれだけか?」

 

あっさりと折れた。

 

「あれ、もう降参? つまらないなぁ……」

 

楯無は肩を落とす。

 

「で? 本題は?」

 

「もう、せっかちねぇ」

 

くるっと一回転してから、楯無は口を開く。

 

「貴方の主人……ジャネットちゃんが学園上層部に話を通してることは、もう知ってるわよ?」

 

「そうかい」

 

ジャンヌが既に手を回していることは、一夏も理解していた。

 

もちろん―――交渉ではなく“脅迫”だが。

 

「それでね?」

 

楯無は少しだけ声のトーンを変える。

 

「二組に転入生が来たの、知ってる?」

 

「転入生……」

 

IS学園での転入。

 

それは―――

 

試験+国家推薦。

 

つまり、国家代表候補生クラスの人材ということ。

 

「名前は確か―――」

 

楯無は軽く言う。

 

「鳳鈴音、だったかしら?」

 

―――その瞬間だった。

 

「……っ」

 

空気が、変わる。

 

一夏から漏れ出した“何か”。

 

それは殺気という言葉では足りない、純粋な“死”の圧力だった。

 

「っ!?」

 

楯無は反射的に能力を発動。

 

一瞬で屋上の出入口まで後退する。

 

だが―――

 

足が動かない。

 

(なによ……これ……)

 

心臓が握り潰されるような感覚。

 

呼吸すらままならない。

 

(こんなの……今まで一度も……)

 

視線の先。

 

一夏はゆっくりと立ち上がる。

 

「ふふ……」

 

小さな笑い。

 

「ははは……!」

 

徐々に大きくなる。

 

「そっか……そっかそっかそっか……」

 

楯無は―――運が良かった。

 

この時、一夏の“顔”を見ていなかったのだから。

 

もし見ていたら―――

 

精神が壊れていたかもしれない。

 

やがて、殺気が収まる。

 

だが。

 

楯無はその場から動けなかった。

 

「……マジで、生きた気がしないわ……」

 

全身が震えている。

 

一夏は何も言わず、そのまま屋上を去っていった。

 

 

それから数十分後。

 

ようやく立ち上がる楯無。

 

「……はぁ」

 

深く息を吐く。

 

「一体……何なのよ」

 

思い出すだけで寒気が走る。

 

「鳳鈴音……ね」

 

あの名前を出した瞬間だけだった。

 

「……関わりたくないけど」

 

視線を細める。

 

「知る必要がありそうね」

 

ゆっくりと歩き出す楯無。

 

その背中には、まだわずかな震えが残っていた。

 

 

数日後―――第二アリーナ。

 

観客席は生徒で埋め尽くされていた。

 

クラス対抗戦当日。

 

(デモンストレーションだと?)

 

ピットでモニターを見つめる十秋は、眉をひそめる。

 

(こんなの……原作にはなかったはずだ)

 

隣にはセシリア、箒、山田先生、そして千冬。

 

「では、指定の位置に着いて下さい」

 

山田先生のアナウンス。

 

モニターに映る―――四機のIS。

 

「……四人?」

 

違和感。

 

本来は一対一のはず。

 

だが。

 

「……あれは何だ?」

 

箒が気付く。

 

画面中央。

 

何かが揺らめいている。

 

「水……?」

 

その“水”は、ゆっくりとアリーナ中央に降り立つ。

 

そして―――弾けた。

 

現れたのは、一機のIS。

 

「な……!?」

 

十秋は思わず立ち上がる。

 

(なんで……あの女が……!!?)

 

そこにいたのは―――

 

生徒会長、更識楯無。

 

観客席が沸く。

 

楯無は軽く手を振る。

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

四機に囲まれながらも、余裕の笑み。

 

そして―――ランスではなく、日本刀を構える。

 

「砕けろ―――『鏡花水月』」

 

霧が広がる。

 

次の瞬間。

 

「なっ……!?」

 

同士討ち。

 

混乱。

 

そして、一方的な殲滅。

 

「勝者―――更識楯無」

 

圧倒的勝利。

 

沈黙の後、観客席が爆発する。

 

「……なんだよ、これ」

 

十秋は歯を食いしばる。

 

(こんな技……知らねぇぞ)

 

原作との乖離。

 

それでも―――

 

指輪を握る。

 

(関係ねぇ……俺にはこれがある)

 

そして。

 

「オルコット。準備しろ」

 

「は、はい!」

 

クラス対抗戦、第一試合が―――始まろうとしていた。

 

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