インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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十五話

IS学園―――生徒会室

 

「邪魔するぞ」

 

ノックもそこそこに、生徒会室の扉が開かれる。

現れたのは――イチカ・リオネスだった。

 

「申し訳ありません、生徒会長。お止めしたのですが……」

 

制止しようとした生徒会役員の先輩が、困ったように頭を下げる。

 

しかし当の本人は、そんなことなど意に介さず、堂々と室内へ足を踏み入れていた。

 

楯無と一夏は、しばし無言で視線を交わす。

 

「……少し、二人にしてくれるかしら」

 

「わかりました」

 

楯無の一言で、役員たちは素直に退室する。

扉が閉まり、室内には二人だけが残った。

 

「あなたの方から来るなんて、珍しいわね」

 

「手に負えない依頼が来たからな」

 

その言葉に、楯無の表情がわずかに変わる。

 

「最強無欠のあなたが、そんなことを言うなんてね」

 

「最強だろうが、弱点くらいはある」

 

淡々とした口調。だが、その言葉には事実が含まれていた。

ジャンヌの権限による能力無効化、あるいは封印――完全ではない。

 

「興味はあるけど……まあいいわ。それで?」

 

楯無は椅子に背を預け、足を組む。

 

「あの人から、どんな依頼が来たのかしら?」

 

「転校生の話は聞いているか?」

 

「ええ。一組に来た二人のことでしょう?」

 

楯無はすぐに資料を取り出し、一夏へと差し出す。

 

一夏はそれを受け取り、ページをめくる。

 

「シャルル・デュノア……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

三人目の男性操縦者。

そして現役軍人。

 

いずれも国家代表候補生。

 

「……なるほどな」

 

一夏は資料を閉じる。

 

「これなら、どうにかなる」

 

「あら、もういいの?」

 

「必要な情報は揃った。あとは自分でやる」

 

資料を返し、そのまま踵を返す。

 

「それじゃあな」

 

そのまま何の迷いもなく生徒会室を後にした。

 

---

 

扉の外。

 

「楯無お嬢様……あの方は……」

 

待機していた生徒会役員――布仏虚が問いかける。

 

「本当の意味での“世界最強”よ」

 

楯無は静かに言った。

 

「もしまた来たら、止めなくていいわ。通してあげて」

 

「は、はあ……」

 

納得しきれない表情のまま、虚は頷く。

 

「世界最強……ね」

 

その言葉から連想される人物は一人。

 

だが楯無の中で、その称号は別の男に向けられていた。

 

---

 

## ◇

 

## IS学園―――大浴場

 

「面倒な依頼だな……」

 

一夏は小さく呟く。

 

生徒会室を訪れてから三日。

ジャンヌからの“意味不明な依頼”――転校生と風呂に入る、という任務を遂行するため、わざわざ大浴場に足を運んでいた。

 

時間は利用終了間際。

他の生徒がいないことも確認済みだ。

 

「お嬢は何を考えてるんだか……」

 

湯気の立ち込める浴場で、一人きりのはずだった。

 

――その時。

 

カラカラ……

 

脱衣所の扉が開く音。

 

ぴた、ぴた、とタイルを踏む足音。

 

(……来たか)

 

一夏は僅かに目を細める。

 

そして――

 

「え?」

 

「…………」

 

現れたのは、シャルル・デュノアだった。

 

だが、その姿は資料の“彼”ではない。

 

――彼女だった。

 

明らかに女性の体つき。

隠しようのない事実。

 

一瞬、時間が止まる。

 

「――っ!?」

 

叫ぼうとした瞬間。

 

一夏は即座に能力を発動する。

 

「……今叫ぶと、一番困るのはあんただろ」

 

シャルルは自分の声が出ていないことに気付く。

音を遮断されている。

 

「まさか、女とはな」

 

「……っ!」

 

驚きと動揺。

だが、それ以上に混乱が大きい。

 

「仕方ない」

 

一夏は短く言うと――

 

瞬間、姿が消えた。

 

「え……?」

 

次の瞬間。

 

脱衣所の方で扉の音がする。

 

視線を向けると――そこに、一夏の背中があった。

獅子の紋様が刻まれた背中。

 

「な、なんで……」

 

理解が追いつかない。

 

「……」

 

一夏は振り返ることもなく、そのまま立ち去った。

 

残されたのは、混乱するシャルルだけ。

 

「……今の人って……」

 

脳裏に浮かぶのは、教室の空席。

 

「まさか……イチカ・リオネス……?」

 

噂だけの存在。

 

その本人と、最悪のタイミングで遭遇してしまったのだった。

 

---

 

## ◇

 

## IS学園―――屋上

 

一夏は脱衣所を出ると同時に、屋上へ転移する。

 

そして、すぐに通信を繋いだ。

 

『あら、早いわね。彼女に会ったのかしら?』

 

「……やっぱり知ってたか」

 

『当然でしょ』

 

悪びれもない声。

 

一夏は軽く舌打ちする。

 

「で、目的は何だ」

 

『簡単よ。あの子を守りなさい』

 

「……あいつからか」

 

『ええ。近いうちに接触してくるわ』

 

ジャンヌの声は冷静だった。

 

『こっちである程度は手を回す。でも、現場はあなたに任せるわ』

 

「……了解だ」

 

一夏は短く答える。

 

『くれぐれも、やり過ぎないようにね?』

 

その一言を残し、通信は切れた。

 

静寂。

 

夜空を見上げ、一夏はため息をつく。

 

「……もう少し、まともなやり方はなかったのかよ」

 

最悪の初対面。

 

だが、それすらもどうでもよくなる。

 

「やることは変わらない」

 

そう呟き、一夏は空を見上げ続けた。

 

――こうして、波乱の一日は終わる。

 

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