インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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十六話

IS学園―――第二アリーナ

 

一夏がシャルルの秘密を知ってから、数日。

 

アリーナでは、生徒たちが自主練習のためにISを展開していた。

平穏な光景――のはずだった。

 

「ねぇ……ちょっと見てよ、あれ……!」

 

「ドイツの第三世代型よ……まだ本国で試験段階って聞いてたけど……」

 

ざわめきが広がる。

 

十秋はその視線の先へと目を向けた。

 

「……あいつか」

 

そこに立っていたのは、転校生――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

漆黒のISを纏い、ただ静かに佇んでいる。

 

次の瞬間、開放回線で声が響いた。

 

「――おい」

 

「……なんだよ」

 

十秋は気だるそうに応じる。

だが、その展開は“知っている”。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い――私と戦え」

 

「……断る。理由がない」

 

「貴様に無くとも、私にはある」

 

その言葉で、十秋は全てを理解する。

 

ドイツ。織斑千冬。

 

――思い当たるのは一つ。

 

第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』決勝戦。

 

誘拐事件。

選ばれた弟と、見捨てられた弟。

 

「……貴様がいなければ、教官は二連覇を成し遂げていた」

 

ラウラの声には、明確な怒りが込められていた。

 

「だから私は――貴様の存在を認めない」

 

その言葉は、憎悪というよりも信念だった。

 

だが。

 

「……悪いな。今はやる気ねぇ」

 

十秋は肩をすくめる。

 

「トーナメントもあるだろ。また今度だ」

 

背を向け、立ち去ろうとする。

 

「逃げる気か……」

 

ラウラの声が低くなる。

 

「ならば、戦わざるを得ないようにしてやる!!」

 

瞬間、漆黒のISが戦闘形態へと移行する。

 

だが――

 

「!? 何だ――!」

 

ラウラのセンサーが異常を捉える。

 

上空から、高速接近する反応。

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

彼女がいた位置に、一本の槍が突き刺さる。

 

「勝手に戦争を始めるんじゃねぇよ。小娘」

 

槍は宙を舞い、主の手へと戻る。

 

そこに立っていたのは――

 

「貴様は……」

 

「イチカ・リオネス、だな」

 

ラウラは即座に識別する。

 

「我々の戦いに介入するな」

 

「普段なら止めねぇよ」

 

一夏は淡々と言う。

 

「だが今はダメだ。やるならトーナメントでやれ」

 

「貴様に指図される筋合いはない!!」

 

ラウラが銃口を向ける。

 

一夏もまた、〈霊槍シャスティフォル〉を構える。

 

――その瞬間。

 

「そこの生徒! 何をしている!!」

 

アリーナに教師の声が響いた。

 

一瞬の沈黙。

 

「……ふん。興が削がれた」

 

ラウラは舌打ちし、武装を解除する。

 

「今日は引いてやる」

 

そのまま背を向け、アリーナゲートへと去っていった。

 

一夏もまた、逆方向へ歩き出す。

 

「おい!!」

 

十秋が声を荒げる。

 

「俺の問題に口出ししてんじゃねぇ!!」

 

一夏は足を止めず――

 

「キャンキャン吼えるなよ、最弱」

 

冷たく言い放つ。

 

「寝言は寝て言え」

 

「っ……!!」

 

十秋の怒号を背に、一夏はそのまま去っていった。

 

---

 

## ◇

 

## IS学園―――寮棟・通路

 

アリーナの一件の後。

 

一夏はいつものように屋上へ向かっていた。

 

その途中――

 

「何故ですか!!」

 

鋭い声が響く。

 

一夏は足を止め、物陰に身を潜めた。

 

視線の先には――ラウラと、織斑千冬。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある」

 

「この極東の地で、何の役目があると言うのですか!!」

 

ラウラの声は激しかった。

 

「お願いです、教官! ドイツに戻ってください!

ここでは、その力が活かされていない!」

 

千冬は静かに聞いている。

 

「この学園の連中は、ISを遊び道具と勘違いしている……!

そんな連中に時間を割くなど――」

 

「そこまでにしておけ」

 

低い声が割り込む。

 

「っ……!」

 

ラウラの身体が一瞬で強張る。

 

圧倒的な“格”。

 

「少し見ない間に偉くなったな」

 

千冬の声は冷たい。

 

「十五で選ばれた気になるとは、たいしたものだ」

 

「わ、私は……」

 

ラウラの声が震える。

 

それは恐怖か、あるいは――

 

「話は終わりだ。寮に戻れ」

 

「……はい」

 

短く答え、ラウラは去っていく。

 

足早に、逃げるように。

 

静寂。

 

「……さて」

 

千冬が呟く。

 

「そこの男子。盗み聞きか? 趣味が悪いな」

 

「はぁ!? 何でそうなるんだよ!」

 

別の物陰から飛び出したのは、十秋だった。

 

「千冬ね――」

 

バシンッ!!

 

乾いた音が響く。

 

「学校では“織斑先生”だ」

 

「いてぇな……!」

 

「さっさと戻れ。復習でもしてろ」

 

千冬は腕を組む。

 

「そのままだと、トーナメント初戦敗退だぞ」

 

「……わかってるよ」

 

「そうか」

 

わずかに浮かぶ笑み。

 

それは、ほんの一瞬だけ“姉”の顔だった。

 

十秋が去り、場には再び静寂が戻る。

 

その時。

 

「――あいつらは気付かなかったが」

 

千冬が、ぽつりと呟く。

 

「私の目は誤魔化せないぞ……一夏」

 

その言葉に、一夏は足を止めた。

 

(……見抜かれていたか)

 

完璧に消したはずの気配。

 

それすら見抜くか。

 

「教えてくれ」

 

千冬の声は、静かだった。

 

「モンド・グロッソで……何があった?」

 

あの日。

 

全てが狂った日。

 

そして――一夏が“変わった”日。

 

だが。

 

「…………」

 

一夏は答えない。

 

ただ、無言のままその場を去った。

 

「……行ったか」

 

千冬は小さく呟く。

 

その声は、どこか寂しげだった。

 

まるで――

 

ただ、弟と向き合いたいだけのように。

 

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