インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
六月最終日―――
IS学園は、学年別トーナメントの熱気に包まれていた。
「凄い人数だな……」
更衣室のモニター越しに観客席を見渡しながら、十秋は呟く。
そこには各国の政府関係者、研究者、企業エージェントなど、普段では考えられないほどの顔ぶれが揃っていた。
「有望な三年生を見極めてスカウトしたり、支援している生徒の成長を確認したりするためにね。いろんな国や企業の人間が集まっているんだよ」
シャルルが穏やかに説明する。
「ふーん……ご苦労なこった」
興味なさげに十秋は肩をすくめた。
「それに今回は、とある人が来るってことで、例年よりも多いらしいよ?」
「とある人?」
「うん。あ、ちょうど―――」
モニターに映し出されたのは、金髪の少女。
二人の護衛を従え、堂々と現れるその姿に、各国の関係者たちが一斉に頭を下げる。
「世界が頭を下げる存在―――ジャンヌ・リオネスだよ」
「リオネス……」
その名に、十秋は眉をひそめる。
各国に拠点を持ち、テロリストを殲滅する“掃除屋”。
そして同時に、この学園にいるイチカ・リオネスの義姉でもある。
「あ、対戦表が発表されるみたい!」
(どうせ見る必要はないな)
十秋はそう思っていた。
前世の知識では、初戦でラウラと当たるはずだったからだ。
だが―――
「ラウラとは……決勝戦で当たるね」
「―――は?」
思わず声が漏れる。
改めてモニターを見ると、そこには見覚えのない配置。
初戦は別のペア。
そしてラウラとは決勝戦で対峙する組み合わせになっていた。
さらに―――
「準決勝……あいつとも当たるのか……」
イチカ・リオネスの名前がそこにあった。
---
◇
貴賓席。
対戦表を眺めながら、ジャンヌは静かに笑みを浮かべる。
「うまくやってくれたようね」
この組み合わせは偶然ではない。
十秋とラウラを決勝でぶつけ、その前にイチカとも戦わせる―――
意図的に仕組まれた配置だった。
「よくそんなこと出来たな、姐さん」
エドが呆れたように言う。
「ん? ああ、言ってなかったかしら」
ジャンヌは軽く肩をすくめる。
「更識楯無の“恩賜”を使ったのよ。【鏡花水月】―――完全催眠。最初から対象を外しておけば、このくらい簡単」
「……あんたも大概だな」
「最初からクライマックスなんて、つまらないじゃない」
紅茶を一口含み、ジャンヌは会場を見下ろす。
「せいぜい楽しませてちょうだい―――織斑十秋くん」
---
◇
試合は順調に進んでいった。
十秋とシャルルのペアも、危なげなく勝ち上がる。
「やっぱり……強いね、彼」
更衣室でモニターを見つめながら、シャルルが呟く。
画面には、イチカ・リオネス。
二対一という不利な状況にもかかわらず、〈雪片二型〉一本で圧倒していた。
(次は、あいつか……)
十秋の脳裏に、あの屈辱が蘇る。
クラス代表就任パーティーにも出られず、授業にもまともに出られなかった原因―――イチカ。
「今回は違う……対策はしてきた」
拳を握りしめる。
「俺が負けるなんて、あり得ない」
そうだ―――俺は最強なんだ。
「そろそろ僕たちの番だよ」
「ああ」
二人は立ち上がり、ピットへと向かった。
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◇
そして―――
本日の最大の注目カード。
【七つの大罪】
対
【神童】
試合開始のブザーが鳴り響く。
その瞬間―――
「死ねぇッ!!」
十秋の背後に、黄金の波紋が幾重にも展開された。
そこから現れるのは―――ただの武器ではない。
神話において“神すら殺した”武具。
「―――来るか」
一夏が構える。
放たれたのは、紅く禍々しい剣。
「【グラム】!!」
空気を裂き、一直線に迫る。
「っ!」
一夏は横へ跳ぶ。だが―――
掠った。
肩口が裂ける。
「……チッ」
浅い。だが確実に“効いている”。
(再生が遅い……?)
違和感。
その傷は、ただの斬撃ではない。
呪いのように、侵食している。
「どうしたァ!! その程度か!!」
十秋が嗤う。
続けざまに波紋が開く。
「【ヴァジュラ】!!」
雷霆が迸る。
轟音と共に放たれたそれは、一夏の防御を正面から叩き砕いた。
「ぐっ……!」
衝撃が全身を貫く。
(シールドごと貫通……!)
「まだだァ!!」
次に現れたのは、歪な鎌剣。
「【ハルペー】!!」
振るわれた瞬間、空間そのものが裂ける。
「―――ッ!!」
一夏はギリギリで回避するが、頬が切れる。
その傷―――
塞がらない。
(再生を……切断してるのか……!)
「いいねぇ……効いてるじゃねぇか」
十秋は確信する。
この戦い―――勝てると。
「これで終わりだ!!」
さらに波紋が展開される。
現れたのは―――黒き槍。
禍々しく、そして神聖。
「【ロンギヌス】!!」
投擲。
一直線。
必中。
「……」
一夏は動かない。
いや―――動けない。
(回避不能……なら)
覚悟を決める。
「【重金属】!!」
身体を硬化。
だが―――
貫かれる。
「―――ッ!!」
胸を抉る一撃。
鮮血が宙に散る。
「終わりだ」
十秋は勝利を確信した。
だが―――
「……誰が?」
声。
「な……!?」
そこに立っていたのは、一夏。
ロンギヌスを―――掴んでいる。
「封印を解いた代償は高くつくぞ……三下」
槍を握り潰す。
「な、何だと……!?」
十秋の顔が歪む。
あり得ない。
あの槍を止めた?
「いい武装だ」
一夏がゆっくりと歩き出す。
「対神特化……理屈としては完璧だ」
だが―――
「“使い手”が三流だな」
「ッッ!!」
十秋が再び波紋を展開しようとした、その瞬間。
「神器解放」
静かな声。
空気が変わる。
「来い―――【シャスティフォル】」
光が収束し、巨大な霊槍が姿を現す。
その存在だけで、空間が軋む。
「―――は?」
十秋の思考が止まる。
格が違う。
本能が理解する。
「第八形態―――」
槍が変形する。
「“花粒園(パレン・ガーデン)”」
無数の刃が空を埋め尽くす。
「避けてみろ」
次の瞬間―――
嵐。
回避不能の斬撃が、十秋を飲み込んだ。
「がぁぁああああああ!!」
防御も、回避も、意味を成さない。
圧倒的な数と速度。
そして―――質。
(こんなの……勝てるわけ―――)
思考が途切れる。
爆煙。
静寂。
そして―――
勝敗が決した。