インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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十八話

 

六月最終日―――

IS学園は、学年別トーナメントの熱気に包まれていた。

 

「凄い人数だな……」

 

更衣室のモニター越しに観客席を見渡しながら、十秋は呟く。

そこには各国の政府関係者、研究者、企業エージェントなど、普段では考えられないほどの顔ぶれが揃っていた。

 

「有望な三年生を見極めてスカウトしたり、支援している生徒の成長を確認したりするためにね。いろんな国や企業の人間が集まっているんだよ」

 

シャルルが穏やかに説明する。

 

「ふーん……ご苦労なこった」

 

興味なさげに十秋は肩をすくめた。

 

「それに今回は、とある人が来るってことで、例年よりも多いらしいよ?」

 

「とある人?」

 

「うん。あ、ちょうど―――」

 

モニターに映し出されたのは、金髪の少女。

二人の護衛を従え、堂々と現れるその姿に、各国の関係者たちが一斉に頭を下げる。

 

「世界が頭を下げる存在―――ジャンヌ・リオネスだよ」

 

「リオネス……」

 

その名に、十秋は眉をひそめる。

各国に拠点を持ち、テロリストを殲滅する“掃除屋”。

そして同時に、この学園にいるイチカ・リオネスの義姉でもある。

 

「あ、対戦表が発表されるみたい!」

 

(どうせ見る必要はないな)

 

十秋はそう思っていた。

前世の知識では、初戦でラウラと当たるはずだったからだ。

 

だが―――

 

「ラウラとは……決勝戦で当たるね」

 

「―――は?」

 

思わず声が漏れる。

 

改めてモニターを見ると、そこには見覚えのない配置。

 

初戦は別のペア。

そしてラウラとは決勝戦で対峙する組み合わせになっていた。

 

さらに―――

 

「準決勝……あいつとも当たるのか……」

 

イチカ・リオネスの名前がそこにあった。

 

---

 

 

貴賓席。

 

対戦表を眺めながら、ジャンヌは静かに笑みを浮かべる。

 

「うまくやってくれたようね」

 

この組み合わせは偶然ではない。

十秋とラウラを決勝でぶつけ、その前にイチカとも戦わせる―――

意図的に仕組まれた配置だった。

 

「よくそんなこと出来たな、姐さん」

 

エドが呆れたように言う。

 

「ん? ああ、言ってなかったかしら」

 

ジャンヌは軽く肩をすくめる。

 

「更識楯無の“恩賜”を使ったのよ。【鏡花水月】―――完全催眠。最初から対象を外しておけば、このくらい簡単」

 

「……あんたも大概だな」

 

「最初からクライマックスなんて、つまらないじゃない」

 

紅茶を一口含み、ジャンヌは会場を見下ろす。

 

「せいぜい楽しませてちょうだい―――織斑十秋くん」

 

---

 

 

試合は順調に進んでいった。

 

十秋とシャルルのペアも、危なげなく勝ち上がる。

 

「やっぱり……強いね、彼」

 

更衣室でモニターを見つめながら、シャルルが呟く。

 

画面には、イチカ・リオネス。

二対一という不利な状況にもかかわらず、〈雪片二型〉一本で圧倒していた。

 

(次は、あいつか……)

 

十秋の脳裏に、あの屈辱が蘇る。

 

クラス代表就任パーティーにも出られず、授業にもまともに出られなかった原因―――イチカ。

 

「今回は違う……対策はしてきた」

 

拳を握りしめる。

 

「俺が負けるなんて、あり得ない」

 

そうだ―――俺は最強なんだ。

 

「そろそろ僕たちの番だよ」

 

「ああ」

 

二人は立ち上がり、ピットへと向かった。

 

---

 

 

そして―――

 

本日の最大の注目カード。

 

【七つの大罪】

【神童】

 

試合開始のブザーが鳴り響く。

その瞬間―――

「死ねぇッ!!」

十秋の背後に、黄金の波紋が幾重にも展開された。

そこから現れるのは―――ただの武器ではない。

神話において“神すら殺した”武具。

「―――来るか」

一夏が構える。

放たれたのは、紅く禍々しい剣。

「【グラム】!!」

空気を裂き、一直線に迫る。

「っ!」

一夏は横へ跳ぶ。だが―――

掠った。

肩口が裂ける。

「……チッ」

浅い。だが確実に“効いている”。

(再生が遅い……?)

違和感。

その傷は、ただの斬撃ではない。

呪いのように、侵食している。

「どうしたァ!! その程度か!!」

十秋が嗤う。

続けざまに波紋が開く。

「【ヴァジュラ】!!」

雷霆が迸る。

轟音と共に放たれたそれは、一夏の防御を正面から叩き砕いた。

「ぐっ……!」

衝撃が全身を貫く。

(シールドごと貫通……!)

「まだだァ!!」

次に現れたのは、歪な鎌剣。

「【ハルペー】!!」

振るわれた瞬間、空間そのものが裂ける。

「―――ッ!!」

一夏はギリギリで回避するが、頬が切れる。

その傷―――

塞がらない。

(再生を……切断してるのか……!)

「いいねぇ……効いてるじゃねぇか」

十秋は確信する。

この戦い―――勝てると。

「これで終わりだ!!」

さらに波紋が展開される。

現れたのは―――黒き槍。

禍々しく、そして神聖。

「【ロンギヌス】!!」

投擲。

一直線。

必中。

「……」

一夏は動かない。

いや―――動けない。

(回避不能……なら)

覚悟を決める。

「【重金属】!!」

身体を硬化。

だが―――

貫かれる。

「―――ッ!!」

胸を抉る一撃。

鮮血が宙に散る。

「終わりだ」

十秋は勝利を確信した。

だが―――

「……誰が?」

声。

「な……!?」

そこに立っていたのは、一夏。

ロンギヌスを―――掴んでいる。

「封印を解いた代償は高くつくぞ……三下」

槍を握り潰す。

「な、何だと……!?」

十秋の顔が歪む。

あり得ない。

あの槍を止めた?

「いい武装だ」

一夏がゆっくりと歩き出す。

「対神特化……理屈としては完璧だ」

だが―――

「“使い手”が三流だな」

「ッッ!!」

十秋が再び波紋を展開しようとした、その瞬間。

「神器解放」

静かな声。

空気が変わる。

「来い―――【シャスティフォル】」

光が収束し、巨大な霊槍が姿を現す。

その存在だけで、空間が軋む。

「―――は?」

十秋の思考が止まる。

格が違う。

本能が理解する。

「第八形態―――」

槍が変形する。

「“花粒園(パレン・ガーデン)”」

無数の刃が空を埋め尽くす。

「避けてみろ」

次の瞬間―――

嵐。

回避不能の斬撃が、十秋を飲み込んだ。

「がぁぁああああああ!!」

防御も、回避も、意味を成さない。

圧倒的な数と速度。

そして―――質。

(こんなの……勝てるわけ―――)

思考が途切れる。

爆煙。

静寂。

そして―――

勝敗が決した。

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