インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
「一天を流星が十字に切り裂く時――ブリタニアに至大の脅威が訪れる。
それは古より定められし試練にして、光の導き手と黒き血脈の聖戦の兆しなり」
バルコニーで本を読んでいた少女は、静かにそれを閉じた。
視線を空へ向ける。
一機のヘリが、夜空を横切っていく。
だが――それとは別に、“一点の黒”が残っていた。
やがて、それはゆっくりと近づいてくる。
「任務ご苦労様……イチカ」
黒点の正体は、一人の少年。
ヘリから飛び降りたその身体は落下することなく、宙に留まっていた。
足元には、一振りの槍。
「神木から削り出された神器の一つ。鋼すら凌ぐ強度と、神秘の力を宿す槍――〈霊槍シャスティフォル〉」
少女は微笑む。
「使い心地はどうかしら?」
「……悪くない」
短く答える一夏。
その反応に、少女は満足げに目を細めた。
「では、次の仕事よ」
テーブルの上の封筒を手に取り、軽く投げる。
一夏はそれを受け取った。
「ロシアへ飛びなさい。詳細は現地で通達するわ」
「了解」
「それと――任務が終われば、次まで自由時間をあげる。少しは羽を伸ばしてきなさい」
一夏は無言で頷き、そのまま夜空へと消えた。
静寂。
「セバス」
「はっ」
ティーセットを運んできた執事が応じる。
「例の動きは?」
「依然、変化はございません」
「……そう」
少女は、ある少年を監視していた。
だが、その対象は目立った行動を一切取っていない。
「動くとすれば――高校受験のタイミングね」
織斑十秋。
織斑千冬の弟にして、一夏の双子の片割れ。
そして――転生者。
(どんな“恩恵”を与えられているかは不明……でも、予想はつく)
転生。
それは神の干渉であり、同時に“チート”という名の恩寵を伴う。
(〈催眠〉……いいえ、それはない。なら――)
思考を巡らせる。
(〈王の財宝〉か、〈無限の剣製〉……そのあたりかしら)
調査結果から催眠系の痕跡はない。
ならば、後者。
少女は紅茶に口をつける。
「私たち“転生者”は――物語に干渉するべきではないのよ、織斑十秋」
ジャンヌ・リオネス。
彼女もまた、転生者だった。
だが十秋とは違い、当初は干渉する意思などなかった。
――あの日までは。
家督を継いで最初に行ったのは、世界の調査。
この世界が〈インフィニット・ストラトス〉であることは、すでに把握していた。
だからこそ確認する必要があった。
“他に干渉している者がいないか”を。
そして――結果は最悪だった。
「異物が混じっている。それも、最悪の形で」
転生者は、本来“裏”にいるべき存在。
「表に出た時点で――その時点で終わりなのよ」
ジャンヌは静かに呟く。
「目には目を、歯には歯を」
その瞳に、冷たい決意が宿る。
「物語に干渉する者には――殲滅を」
この世界の膿――“転生者”を、消し去る。
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### ◇
ロシア――モスクワ。
一夏は、カフェでコーヒーを飲んでいた。
『現地到着を確認したわ』
「ああ。それで、どこへ行けばいい」
『慌てなくていいわ。今は待機して頂戴。まだ“役者”が揃っていない』
「役者?」
『ええ』
一夏は小さく息を吐く。
「……後ろにいる奴のことか?」
「へぇ……よく気付いたわね」
背後から声。
振り返ると、水色の髪をした女性が座っていた。
「更識家当主――更識楯無よ」
「イチカ・リオネスだ」
簡潔な自己紹介。
すぐに本題へ移る。
『では、任務の説明に入るわ。データは送信済みよ』
「確認したわ」
ターゲットは、とある施設。
表向きは一般施設。
だが裏では――
「亡国機業……」
楯無が呟く。
『その通り。関連データの回収を依頼するわ』
「敵戦力は?」
『戦闘はイチカに一任します』
「……正気ですか? ISが配備されているとありますが」
『問題ありません』
即答だった。
『イチカの実力であれば、IS程度は脅威になりません』
「……信じがたいわね」
楯無は眉をひそめる。
IS――現代最強の兵器。
それを“程度”と切り捨てるなど、常識ではあり得ない。
だが。
「どうでもいい」
一夏は興味なさげに言い放つ。
「敵は殲滅する。それだけだ」
その一言に、空気が変わる。
楯無は言葉を失った。
(この男……本気で言っている)
リオネス家。
裏社会において、更識家と並ぶ名門。
だが、その性質は真逆。
対処の更識。
殲滅のリオネス。
(……化け物ね)
『作戦開始時刻は00:00』
通信が締めくくられる。
楯無の胸に残る、不安。
だがそれは――
この後、跡形もなく吹き飛ぶことになる。