インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
「それでは一度休憩を挟み、午後から決勝戦および第三位決定戦を開始します」
放送部のアナウンスが響き、生徒や来賓たちは一斉に席を立った。
その中で、ジャンヌ・リオネスたちは他とは異なり、出口ではなく選手控室へと続く通路へ足を向ける。
そして―――
「これはこれは……かの有名な“ブリュンヒルデ”。織斑千冬さんではありませんか」
「……ジャンヌ・リオネス」
空気が一瞬で張り詰める。
その場にいたエドとアルですら、千冬から漏れ出る怒気をはっきりと感じ取った。
いつでも動けるよう構えようとする二人。
だが―――
「いいわ」
ジャンヌが静かに制した。
「この程度で力を使う必要はないわ」
「しかし……」
「問題ない。もし何かあれば、困るのは向こうよ」
その一言で、二人は動きを止める。
事実、千冬は今にも手を出しそうだった。
だが理性で抑えている。
ここで動けば―――国際問題。
「……返してくれ」
「ん?」
「一夏を―――返してくれ」
それは、千冬の本音だった。
あの日から失われた日常。
再会すれば戻ってくると信じていた。
だが―――
「……ふっ」
エドが吹き出す。
「ズレてるにも程があるな」
「ええ。本当に何も知らないのね」
「兄貴が“縛られてる”とか思ってるのか? ありえねぇよ」
三者とも、同じ結論。
ジャンヌは歩み寄り、千冬の耳元で囁く。
「彼は“自分の意思”でここにいるのよ」
静かな声。
「あなたが何を言おうと―――戻ることはないわ」
通り過ぎる。
残されたのは―――
「……一夏」
理解できない。
何が間違っていたのか。
何が足りなかったのか。
その答えに―――彼女が辿り着くことはなかった。
---
◇
決勝戦。
組み合わせは―――
イチカ vs ラウラ&箒。
「ようやくだな」
ラウラ・ボーデヴィッヒが低く呟く。
「決着をつける時が来た」
「ああ」
イチカ・リオネスは静かに応じる。
開始まで―――5、4、3、2、1。
開始。
「―――『無慈悲な太陽』」
瞬間。
小さな太陽が生成され、ラウラへ投擲される。
「……ふん」
ラウラは右手を突き出す。
AIC―――停止結界。
太陽が空中で静止する。
「挨拶代わりだ」
「なら―――返礼だな」
「『炸裂する傲慢』」
次の瞬間。
太陽が膨張。
ラウラは即座に離脱。
―――爆発。
爆煙の中から、レール砲が飛来。
「甘い」
イチカは斧で弾き飛ばす。
「その程度じゃないだろ?」
瞬間加速。
距離を詰める。
振り下ろし―――
回避。
即座に砲撃。
だが読まれている。
空中回避。
「私を忘れるな!」
背後。
篠ノ之箒の斬撃。
「遅い」
受け止める。
圧倒的出力差。
押し潰される。
警告音。
「邪魔だ!」
ラウラがワイヤーで箒を排除。
そのまま突撃。
「……なら」
イチカは斧を消す。
無手。
「舐めているのか!」
「違うな」
殴り合い。
純粋なインファイト。
だが―――
異変。
ラウラの動きが鈍る。
膝が落ちる。
「何をした……!」
「軽いな」
イチカは笑う。
「『強欲』だ」
能力の奪取。
身体能力そのものを奪う。
ラウラは立ち上がるが、明らかに劣化している。
それでも―――
突撃。
殴り合い再開。
---
◇
貴賓席。
「身体能力の奪取ね」
ジャンヌが淡々と告げる。
「普段使わないから分かりにくいけど」
エドが頷く。
「これで勝負は決まりだな」
ジャンヌも同意する。
「ええ。もう時間の問題―――」
その時。
警報。
---
◇
戦場。
ラウラは追い詰められていた。
(何が起きている……)
攻撃は当たらない。
一方的に打たれる。
(負ける……?)
意識が揺らぐ。
だが―――
(認めない)
その瞬間。
何かが“応える”。
『―――力を望むか』
声。
『変革を求めるか』
心が叫ぶ。
強さを。
絶対を。
《Valkyrie Trace System》―――起動。
「―――ああああああああ!!」
絶叫。
電撃。
ISが―――崩壊し、再構築される。
異形。
「……雪片?」
イチカが呟く。
完全な模倣。
「なんだ……これは……」
『緊急事態発生! 試合中止!』
会場は混乱に包まれる。
だがその存在は―――動かない。
「……」
イチカは迷う。
記憶が流れた。
ラウラの想い。
千冬への感情。
(見捨てるか……?)
答えは出ない。
その時―――
「イチカ」
振り返る。
そこにいたのは―――
ジャンヌ。
「彼女を助けたい?」
問い。
静かで、残酷な問い。
「もう一度聞くわ」
視線が交差する。
「あなたは―――どうしたいの?」