インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十話

「助けたいの?」

 

避難指示が出され、周囲が慌ただしく動く中――

ジャンヌは真っ先にイチカの元へと現れていた。

 

まさか、この場に彼女がいるとは思ってもいなかったイチカは、わずかに目を見開く。

 

「お嬢……」

 

「イチカは、彼女を助けたいの?」

 

状況など意に介さず、ジャンヌはもう一度問いかける。

 

その声音には迷いがなく、ただ答えだけを求めていた。

 

「……はい」

 

短く、しかし確かな意志を込めた返答。

 

それを聞いたジャンヌは、満足げに微笑む。

 

「そっか。なら――力を貸してあげる」

 

その背後に、赤い羽の紋章が浮かび上がる。

 

「ジャンヌ・リオネスが令呪を以て命じる。必ず彼女を助けなさい」

 

一つ目の令呪が光を放ち、消える。

 

「重ねて、令呪を以て命じる。必ず命令を遂行しなさい」

 

二つ目。

 

「さらに重ねて、令呪を以て命じる。必ずラウラ・ボーデヴィッヒを救いなさい」

 

三つ目。

 

三重の命令が、イチカの存在そのものに刻み込まれる。

 

「Yes, my master」

 

低く応じたイチカは、最低限の展開でISを起動する。

 

その動きに一切の迷いはなかった。

 

「準備はいいか? デカブツ」

 

両端が尖った四節棍を展開し、黒く変質したISへと歩み寄る。

 

一歩、間合いへ踏み込む。

 

同時に振り下ろされる刀。

 

「ふん!」

 

四節棍で弾き返す。

 

二歩目。

 

再び襲いかかる斬撃も、冷静にいなす。

 

恐怖を持たぬ機体は、ただ機械的に攻撃を繰り返すが――それでは足りない。

 

「あんな至近距離でよくやるよな……」

 

観戦していたエドが思わず呟く。

 

最初は目で追えていたはずの攻防が、今では音だけが遅れて届くほどの速度域に達していた。

 

「令呪を三重に重ねているもの。すでに人の領域は超えているわ」

 

ジャンヌは静かに告げる。

 

「時間の問題ね」

 

さらに一歩。

 

突き出された刀を――自らの腕と背で受け止め、そのままへし折る。

 

「……そろそろ終わりにするか」

 

右手に魔力を集中させる。

 

そして――

 

一瞬で、内部から“何か”を引き抜いた。

 

「――っ」

 

イチカの手に握られていたのは、菱形の立体結晶。

 

ISコアだった。

 

「ぎ……が……」

 

コアを失った機体は維持できず、崩壊を始める。

 

その中から倒れ込んできたラウラを、イチカは静かに抱き留めた。

 

「……全く。いい寝顔しやがって」

 

気絶した彼女を見下ろし、ぽつりと呟く。

 

---

 

 

---

 

「う……ぁ……」

 

ぼんやりとした意識の中で、ラウラは目を覚ました。

 

「目が覚めたか」

 

視界に入ったのは、椅子に腰掛け缶コーヒーを飲むイチカの姿だった。

 

「私……は……?」

 

起き上がろうとした瞬間、全身に激痛が走る。

 

「無理するな」

 

イチカは軽く指で額を押し、ラウラをベッドに戻した。

 

「ほら、これも返しておく」

 

枕元に置かれる、菱形の結晶――シュヴァルツェア・レーゲンのコア。

 

「何が……あったのだ……?」

 

ラウラは真っ直ぐにイチカを見つめる。

 

治療のため外された眼帯の下、金色の左目が静かに光っていた。

 

「……VTシステム、知ってるか?」

 

「知っている……だが、それは……」

 

「IS条約で禁止された代物だ。お前の機体に積まれてた」

 

ヴァルキリー・トレース・システム。

 

過去の覇者の動きを再現する禁忌の技術。

 

その代償はあまりにも大きい。

 

「私が……望んだからか」

 

呟きは小さかった。

 

「偽物とはいえ、全く相手にならなかったけどな」

 

イチカは肩をすくめる。

 

三重の令呪があったとはいえ、それでもなお差は歴然だった。

 

「……なあ」

 

ラウラが、ぽつりと問いかける。

 

「何故、お前はそんなにも強い?」

 

「覚悟の違いだろ」

 

即答だった。

 

「覚悟……」

 

「あの人に救われた。その願いを叶えるためなら、全部捨てる覚悟がある」

 

その言葉に、ラウラは理解する。

 

自分との決定的な差を。

 

「……そうか」

 

静かに目を閉じる。

 

「勝てるわけがないな」

 

不思議と、心は軽かった。

 

「じゃあ、俺は行く」

 

イチカは立ち上がる。

 

「もう行くのか……」

 

「ああ。お姫様が呼んでるんでな」

 

扉に手をかける。

 

その背に、ラウラは声をかけた。

 

「また……会えるか?」

 

一瞬の沈黙。

 

「さあな。お前が望めば、な」

 

振り返ることなく、イチカは去っていく。

 

扉が閉まり――静寂が戻る。

 

「望めば……か」

 

差し込む夕日が、ラウラの頬を淡く染めていた。

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