インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十一話

「ふぅ……」

 

日が沈み、静寂に包まれたIS学園の屋上。

その一角に、イチカは一人佇んでいた。

 

ラウラのIS暴走により、学年別トーナメントは中止。

だが、参加者全員の戦闘データは収集済みであり、企業側としては十分な成果だったらしい。

 

その詫びとして、上位四組にはジャンヌから高級レストランの招待状が送られたという。

 

「とんでもない一日だったな……」

 

ソロで決勝まで勝ち上がり、さらにはVTシステム搭載機との戦闘――。

振り返れば、常識外れの連続だった。

 

「そこにいたんだ……」

 

屋上の扉が開く音と共に、声が届く。

 

「デュノアか……」

 

気配だけで誰かを察したイチカは、振り向きもせずに答えた。

 

「リオネスさんに教えてもらったの」

 

「そうか……――って、おい」

 

隣に来たシャルルを何気なく見た瞬間、イチカは思わず目を見開く。

 

ジャージ姿を想像していたが――そこにいたのは、女性用の寝巻き姿だった。

 

「あの後、リオネスさんと会ってね。会社への援助と、政府への説得をしてくれることになったの」

 

「お嬢がそこまでするとはな……珍しい」

 

ジャンヌが“援助”に回るのは異例だった。

彼女は基本的に“買収”で物事を動かす人間だ。

 

「もう、あの人の指示に従う必要はなくなったから」

 

「そうか。で――」

 

「シャルロット」

 

言葉を遮るように、彼女は名乗る。

 

「シャルロット・デュノア。それが本当の名前」

 

「……それがお前の真名か」

 

偽りを脱ぎ捨てたその瞳は、初めて会った時とはまるで違っていた。

迷いがなく、真っ直ぐだった。

 

「で? 本題はそれだけじゃないんだろ」

 

イチカは淡々と問い返す。

 

「うん。ジャンヌさんにも言ったんだけど……私、貴方の側にいてもいい?」

 

「……何で俺なんだ?」

 

特別な接点があったわけではない。

それでも彼女は、迷いなくそう言った。

 

「秘密」

 

にっと笑い、シャルロットはイチカの肩に頭を預ける。

 

「A secret makes a woman woman」

 

「……」

 

イチカは小さく息を吐き、コーヒーを一口啜る。

 

(女は秘密を纏ってこそ美しくなる、か……)

 

思わず苦笑する。

 

ほんの数度しか会っていない相手にここまで踏み込むとは、変わった奴だ――と。

 

やがて、シャルロットの呼吸が静かに整う。

 

「……寝たか」

 

イチカは軽く抱き上げ、そのまま自室へと転移する。

ベッドに寝かせると、何事もなかったかのように部屋を後にした。

 

---

 

 

---

 

翌朝。

 

ホームルームは、異様なほど騒がしかった。

 

屋上にいるイチカにも、そのざわめきは届いてくる。

 

「シャルロット・デュノアです。改めてよろしくお願いします」

 

スカート姿のシャルロットが丁寧に一礼する。

 

その瞬間――教室は騒然となった。

 

まさかの“女の子”だったという事実に、誰もが驚きを隠せない。

 

――バンッ!!

 

「そこにいたか!」

 

屋上の扉が勢いよく開かれる。

 

現れたのは、銀髪に眼帯の少女――ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「HRはいいのか?」

 

「そんなものに興味はない。私は――」

 

言いかけた次の瞬間。

 

ラウラは、寝転がっていたイチカの上に馬乗りになる。

 

「お前にしか興味がない!」

 

「……そうか」

 

あまりに唐突な行動に、さすがのイチカもわずかに動揺する。

 

「ISは問題ないのか?」

 

「うむ。コアは無事だった。予備パーツで再構築済みだ」

 

「そうか。あんだけ派手に――」

 

言いかけた、その瞬間。

 

「――っ!?」

 

ラウラの顔が近づき、唇が重なる。

 

完全な不意打ちだった。

 

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

 

宣言するラウラ。

 

「……俺から唇を奪ったのは、お前が初めてだ」

 

イチカはラウラの腰に手を回し、ゆっくりと身体を起こす。

 

「だが、俺はお前の嫁になる気はない」

 

「む……」

 

頬を膨らませるラウラ。

 

その反応に、イチカは軽く肩をすくめる。

 

「ただし、勝手に付いてくるなら好きにしろ」

 

そう言い残し、出口へと歩き出す。

 

ラウラは当然のようにその後ろについた。

 

「なら、好きにさせてもらうぞ」

 

――この日を境に。

 

イチカの隣には、常にラウラの姿があるようになった。

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