インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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改めて内容確認を行いました所、前半部分が抜けていたので、再度修正いたしました。


二十二話

七月上旬。

イチカはリオネス家のリムジンに揺られ、街外れにある屋敷へと向かっていた。

 

タッグマッチトーナメント終了から数日後――届いたのは、ジャンヌからの簡潔な連絡。

 

『至急、リオネス家に戻って来てくれる?』

 

(お嬢が要件も書かずに呼ぶとはな……)

 

珍しいこともある、と小さく息を吐いたところで、車は静かに減速し、やがて門前で停止した。

 

扉が開く。

 

「ここが……」

 

ラウラが低く呟く。

 

「そうだ。直接来るのは二度目だがな」

 

「僕たちまで来てよかったの?」

 

シャルロットが少し不安そうに尋ねるが、イチカは肩をすくめた。

 

「構わん。連れて来いと言われている」

 

屋敷の正門前には、すでに一人の男が待っていた。

執事服に身を包んだ青年――セバスだ。

 

「お待ちしておりました、イチカ様」

 

「悪いな」

 

「お嬢様がテラスにてお待ちです」

 

案内されるまま中へ入ると、左右に並ぶメイドたちが一斉に頭を下げる。

 

「「「お帰りなさいませ、イチカ様」」」

 

その光景に、ラウラとシャルロットは言葉を失った。

 

(これは……軍の儀礼どころじゃない……)

(完全に“別世界”だ……)

 

「行くぞ」

 

平然と歩くイチカの背を、二人は慌てて追った。

 

――二階、テラス。

 

白いパラソルの下、優雅に紅茶を楽しむ少女がいた。

 

「いらっしゃい。待ってたわ」

 

ジャンヌ・リオネスはゆっくりと立ち上がり、柔らかく微笑む。

 

「お、お招きありがとうございます……」

 

「気にしないで。あなたたちとも話したかったの」

 

その笑顔に、シャルロットは一瞬息を呑む。

 

だが――

 

「…………」

 

ラウラだけは、微動だにしなかった。

 

明らかな警戒。

 

「そんなに構えなくてもいいのよ?」

 

「……無理だな」

 

短く返す。

 

「ここは……普通じゃない」

 

使用人たちから漂う気配。

そして、目の前の少女――ジャンヌ。

 

(勝てない……)

 

本能が、そう告げていた。

 

「まあ、すぐ慣れるわよ」

 

軽く流すジャンヌに、ラウラはさらに眉をひそめた。

 

「それより、本題だ」

 

イチカが口を挟む。

 

「あら、せっかちね」

 

くすりと笑い、ジャンヌは席に着いた。

 

全員がテーブルを囲む。

 

エドが無言で紅茶を配る。

 

「急に呼んでごめんなさいね。直接話す必要があったの」

 

「構わん。それで?」

 

「もうすぐIS学園は臨海学校よね?」

 

「ああ」

 

「その日に――ハワイ沖で行われるIS試験稼働の護衛をお願いしたいの」

 

一瞬、空気が変わる。

 

「……護衛?」

 

ラウラが思わず反応した。

 

IS関連の試験。それも海上。

通常、外部戦力など入らない。

 

「“ウサギ”が動いてるの」

 

ジャンヌの一言で、イチカの目が細くなる。

 

「……なるほどな」

 

それ以上は聞かない。

 

「引き受ける」

 

「ありがとう」

 

ジャンヌは満足そうに微笑んだ。

 

「緊急時は制圧して構わないわ。許可は取ってあるから」

 

その言葉に、ラウラとシャルロットは顔を見合わせる。

 

(完全に国家案件だ……)

(軽く聞いていい話じゃないよね、これ……)

 

「あなたたちは気にしなくていいわよ」

 

ジャンヌは軽く言い、話題を変えた。

 

「それじゃあ次――アル、出てきなさい」

 

「バレてたっすか!?」

 

テラスの手すりから、ひょこっと赤髪の青年が顔を出す。

 

「はじめまして! アル・リオネスっす!」

 

勢いよく飛び出してきた彼に、二人は一歩引いた。

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

「少しは落ち着け」

 

後ろからエドがため息混じりに言う。

 

「兄貴も!?」

 

「兄弟だ」

 

イチカが短く補足する。

 

「白いのが兄、エドだ」

 

「雑すぎない!?」

 

アルが抗議するが、誰も気にしない。

 

そんなやり取りを横目に、イチカはふと周囲を見回した。

 

「……咲夜はどうした?」

 

その名に、ジャンヌの表情がわずかに曇る。

 

「少し前に任務に出したの。異変の調査でね」

 

「それで?」

 

「解決はしたわ。でも――“切り札”を使った」

 

イチカの目が細くなる。

 

「……ああ」

 

理解した。

 

「あれの代償か」

 

ジャンヌは静かに頷く。

 

「今は、まだ目を覚ましていないわ」

 

テラスに、わずかな沈黙が落ちた。

 

風がカップの紅茶を揺らす。

 

「……そうか」

 

イチカはそれだけ言った。

 

それ以上は、何も聞かなかった。

テラスに流れた沈黙。

 

それを破ったのは――ラウラだった。

 

「……一つ、いいか」

 

視線は、赤髪の青年――アルへと向けられている。

 

「貴様……ただの人間ではないな」

 

その言葉に、アルはきょとんとした顔をする。

 

「え? バレたっすか?」

 

あまりにも軽い反応。

 

だが、ラウラの表情は真剣そのものだった。

 

「その気配……異常だ。ISとは別系統の力……」

 

軍人として鍛えられた感覚が、警鐘を鳴らしている。

 

「ねぇねぇ、もしかして――」

 

アルは身を乗り出す。

 

「オレと戦いたい感じっすか?」

 

図星だった。

 

「……ああ」

 

短く、だがはっきりと頷くラウラ。

 

ジャンヌが楽しそうに笑う。

 

「あら、いいわね」

 

「姐さん!?」

 

「模擬戦よ。壊しすぎないなら許可するわ」

 

即決だった。

 

イチカは腕を組みながら一言。

 

「アル、加減しろよ」

 

「分かってるっすよ~」

 

軽い返事。

 

だが、その目は少しだけ鋭くなっていた。

 

 

リオネス邸・専用訓練場。

 

「ここなら問題ない」

 

エドが壁にもたれながら言う。

 

ラウラは中央へ。

 

「――展開」

 

黒い光が弾け、シュヴァルツェア・レーゲンが姿を現す。

 

完全武装。

 

対するアルは――何も纏わない。

 

「じゃあ、いくっすよ?」

 

軽く構えるだけ。

 

「来い」

 

ラウラが踏み込む。

 

初動から最大加速。

 

プラズマ手刀がアルを捉える――

 

ガギィン!!

 

「なっ……!?」

 

止められた。

 

素手で。

 

「おお、結構重いっすね」

 

アルは手を振りながら笑う。

 

(あり得ない……!)

 

ISの打撃を、生身で。

 

ラウラは即座に距離を取る。

 

「ならば――AIC!」

 

不可視の力場がアルを拘束する。

 

空間そのものを停止させる絶対防御。

 

「おー、これが噂のやつっすか」

 

アルは興味深そうに周囲を見る。

 

「でも――」

 

ピシッ、と音がした。

 

「効かないっすね」

 

バキン!!

 

AICが砕け散る。

 

「っ!?」

 

ラウラの瞳が見開かれる。

 

その瞬間――

 

アルの背後に“赤い魔法陣”が浮かび上がった。

 

ドクン、と脈打つような気配。

 

「――Boost」

 

一言。

 

それだけで、空気が変わる。

 

「なに……それは……」

 

ラウラが思わず呟く。

 

イチカが静かに口を開く。

 

「赤龍帝の籠手――ブーステッド・ギア」

 

「……龍?」

 

「そう。神話級の存在だ」

 

アルの腕に、赤い籠手が現れる。

 

それはただの武装ではない。

 

“生きている”。

 

「赤龍帝――ドライグ」

 

ジャンヌが補足する。

 

「かつて神や魔王と並び称された存在。その力は“倍化(ブースト)”」

 

「倍化……?」

 

「一定時間ごとに力を倍にする能力よ」

 

アルがにかっと笑う。

 

「簡単に言うと――時間が経つほど強くなるってことっす!」

 

次の瞬間。

 

「Boost」

 

さらに一段、気配が跳ね上がる。

 

「……っ!」

 

ラウラの本能が危険を告げる。

 

「来るっすよ」

 

消えた。

 

次の瞬間――

 

「がっ!!」

 

腹部に衝撃。

 

ラウラの体が吹き飛ぶ。

 

地面を抉りながら停止。

 

(速い……! さっきより明らかに……!)

 

「Boost」

 

さらに倍化。

 

空気が震える。

 

「くっ……まだだ!!」

 

ラウラは立ち上がる。

 

突撃。

 

今度はフェイントを織り交ぜる――

 

「いい動きっすね!」

 

アルは笑いながら対応する。

 

だが。

 

「Boost」

 

さらに加速。

 

完全に“上”に行った。

 

「終わりっす」

 

腕を掴まれる。

 

そのまま――

 

叩きつける!!

 

轟音。

 

土煙。

 

静寂。

 

「……そこまで」

 

ジャンヌの声。

 

アルはすぐに手を離す。

 

「大丈夫っすか?」

 

軽く声をかける。

 

ラウラは地面に倒れたまま――

 

「……はは……」

 

小さく笑った。

 

「なんだ……あれは……」

 

立てない。

 

だが、意識はある。

 

「だから言っただろ」

 

イチカが近づく。

 

「こいつらは“規格外”だ」

 

ラウラはゆっくりとアルを見る。

 

「……赤龍帝……か」

 

その瞳に宿るのは、恐怖ではない。

 

「いい……力だ」

 

むしろ――闘志。

 

アルは少し驚いた顔をした後、笑った。

 

「またやるっすか?」

 

「……次は、勝つ」

 

即答だった。

 

ジャンヌはその様子を見て、満足そうに微笑む。

 

「いい刺激になったみたいね」

 

ラウラは何も答えなかった。

 

ただ――

 

アルを真っ直ぐ見据えていた。

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