インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十三話

七月中旬―― 臨海学校初日。

 

IS学園の生徒たちは、大型バスに揺られながら海辺の施設へと向かっていた。

 

窓の外には、次第に広がっていく青い水平線。

 

「おお……見えてきたぞ」

 

十秋が身を乗り出す。

 

「ほんとだ……綺麗だね」

 

隣に座るシャルロットも、柔らかく微笑みながら景色を眺めていた。

 

車内は賑やかだ。

普段の訓練中心の生活とは違い、皆どこか浮かれている。

 

「騒ぎすぎるな」

 

前方から千冬の一言。

 

その一声で、一瞬にして静まり返る車内。

 

「……相変わらずだな」

 

十秋が小声で呟くと、シャルロットが苦笑した。

 

やがてバスは減速し、目的地へと到着する。

 

扉が開いた瞬間――

 

「うわぁぁ!!」

 

歓声が一斉に上がった。

 

白い砂浜、透き通る海、照りつける太陽。

 

「すっげぇな……」

 

十秋も思わず息を呑む。

 

「テンション上がるね」

 

「ああ」

 

軽く体を伸ばしながら周囲を見渡す。

 

――その時だった。

 

(……あれ?)

 

違和感。

 

鈴とラウラの姿はある。

 

だが――距離がある。

 

鈴は女子グループの中で楽しそうにしており、

ラウラは少し離れた場所で、一人静かに海を見ていた。

 

(……近寄ってこねぇな)

 

普段なら鈴は何かしら文句を言いながらでも絡んでくる。

だが今日は視線すら合わせてこない。

 

ラウラも同様に、完全に距離を置いていた。

 

「どうしたの?」

 

シャルロットが首を傾げる。

 

「いや……なんでもねぇ」

 

深く考えるのをやめる。

 

「せっかくだ。遊ぶぞ」

 

「うん!」

 

二人はそのまま砂浜へと向かった。

 

波打ち際では、すでに水遊びが始まっている。

 

「十秋! こっちだ!」

 

箒が手を振る。

 

「おう!」

 

そのまま海へ飛び込む。

 

冷たい水が体を包み込む。

 

「ははっ、気持ちいいな!」

 

「でしょ?」

 

水を掛け合い、泳ぎ、笑い声が広がる。

 

――その様子を。

 

少し離れた場所から、鈴はちらりと見ていた。

 

「……」

 

何か言いたげな顔。

 

だが、すぐに視線を逸らす。

 

「ほら鈴、こっち来なさいよ!」

 

「分かってるわよ!」

 

呼ばれて、無理やり明るく振る舞う。

 

(……今はいいわよ)

 

小さく胸の内で呟く。

 

一方、ラウラもまた――

 

腕を組み、静かに海を見つめていた。

 

(今は……距離を置く)

 

理由は違えど、二人は同じ選択をしていた。

 

 

場面は変わり――ハワイ島。

 

強い日差しの下、イチカたちは専用車で施設へと向かっていた。

 

「……暑いな」

 

「観光じゃないんだから我慢しろ」

 

エドが即座に返す。

 

アルは窓の外を見て、楽しそうにしている。

 

「南国っすねぇ~」

 

やがて車は施設へ到着。

 

中に入ると、すでに関係者たちが待機していた。

 

「ようこそ」

 

白衣の男が前に出る。

 

「今回のIS試験稼働の責任者です」

 

挨拶もそこそこに、すぐに説明が始まる。

 

スクリーンに映る海域図。

 

「試験は明日、ハワイ沖約30キロ地点で実施されます」

 

「護衛は俺一人か?」

 

イチカが確認する。

 

「はい。ただし周辺には部隊を展開します」

 

「“ウサギ”の動きは?」

 

エドが低く問う。

 

「現時点では未確認ですが……」

 

「来る前提で動く」

 

イチカが遮るように言う。

 

「了解しました」

 

空気が引き締まる。

 

「では最後に――」

 

責任者が振り返る。

 

「今回の試験機、およびパイロットをご紹介します」

 

扉が開く。

 

現れたのは、一人の少女。

 

長い髪、無表情。

 

静かに歩み寄る。

 

「……」

 

イチカはわずかに目を細める。

 

(ただ者じゃないな)

 

少女は短く言った。

 

「よろしく」

 

それだけ。

 

アルが小声で。

 

「クール系っすね……」

 

「ラウラとは別ベクトルだな」

 

エドが答える。

 

イチカは少女から目を離さない。

 

(……妙だ)

 

言葉にできない違和感。

 

「明日の護衛、よろしくお願いします」

 

責任者の声で場が締まる。

 

だが――

 

イチカの中では確信に変わっていた。

 

(何かが来る)

 

嵐の前の静けさのように。

 

 

夕暮れが海を茜色に染める頃、一行を乗せたバスは本日の宿である旅館へと到着した。

 

山と海に囲まれた静かな和風旅館。木造の落ち着いた外観に、どこか非日常の気配が漂っている。

 

「へぇ……なかなか風情があるじゃねぇか」

 

十秋は軽く辺りを見回しながら呟く。

 

「日本らしくて、いいね」

 

シャルロットが微笑み、鈴も腕を組みながら頷いた。

 

「まぁ、悪くないわね」

 

ラウラは相変わらず無表情だが、僅かに興味を示している様子だった。

 

そのままチェックインを済ませ、一行は大広間へと通される。

 

 

夕食は豪華な和食膳だった。

 

刺身、焼き魚、天ぷら、鍋物と並び、生徒たちはそれぞれに舌鼓を打つ。

 

「うまっ……!」

 

「日本料理も悪くありませんわね」

 

「これ、どうやって作ってるの……?」

 

賑やかな食事の時間が流れる中、十秋は黙々と食べ進めていた。

 

(まぁ……悪くない)

 

特に感想はないが、不満もない。

 

そんな中――

 

「織斑」

 

不意に名前を呼ばれる。

 

「風呂に行ってこい」

 

声の主は織斑千冬だった。

 

「……は?」

 

「空いているうちに済ませておけ。後で混む」

 

有無を言わせぬ口調。

 

十秋は一瞬訝しげな顔をするが――

 

「……ちっ、分かったよ」

 

特に深く考えず、立ち上がる。

 

(どうせ後でも入るしな)

 

そのまま大広間を後にした。

 

 

十秋が去った後――

 

空気が、変わった。

 

千冬は静かに座ったまま、残された五人へと視線を向ける。

 

箒、セシリア、鈴、シャルロット、そしてラウラ。

 

「さて……」

 

静かな声。

 

だが、その場の全員が背筋を伸ばす。

 

「少し、話をしようか」

 

誰も口を挟まない。

 

「議題は二つだ」

 

一拍置いて、千冬は言う。

 

「織斑十秋。そして――イチカ・リオネス」

 

その名が出た瞬間、空気がさらに張り詰める。

 

 

「まずは十秋だ」

 

千冬は淡々と続ける。

 

「お前たちから見て、あいつはどういう存在だ?」

 

最初に口を開いたのは鈴だった。

 

「……正直に言っていいのよね?」

 

「ああ」

 

「ムカつくわよ、あいつ」

 

即答だった。

 

「自信過剰で、偉そうで……でも」

 

鈴は少し言葉を切る。

 

「実力は本物。だから余計にタチが悪いのよ」

 

次にセシリアが口を開く。

 

「わたくしも同意見ですわ」

 

優雅にカップを置きながら言う。

 

「強さは認めます。ですが――あまりにも“自分本位”すぎます」

 

「周囲を見ていない……いえ、見る気がないのでしょう」

 

シャルロットは少し考えてから言った。

 

「……危うい、と思う」

 

その言葉に、全員が僅かに反応する。

 

「強いけど……バランスが取れてない」

 

「何か一つ崩れたら、一気に壊れそうな……そんな感じ」

 

箒は腕を組み、真剣な顔で言う。

 

「剣としては鋭い。だが……しなやかさがない」

 

「折れれば、それまでだ」

 

最後にラウラ。

 

「戦士としては優秀だ」

 

短く、端的に。

 

「だが、未熟だ」

 

「勝利に固執しているが、“何のために戦うか”が定まっていない」

 

それを聞いた千冬は、わずかに目を細めた。

 

 

「では次だ」

 

「イチカ・リオネスについて」

 

その名前が出た瞬間、空気の質が変わる。

 

緊張――というより、“警戒”。

 

最初に答えたのはラウラだった。

 

「……化け物だ」

 

迷いのない断言。

 

「強さの次元が違う」

 

「技術、反応、判断……全てが異常だ」

 

「だが、それ以上に――」

 

ラウラは一瞬だけ言葉を止める。

 

「“覚悟”が違う」

 

静かに言い切った。

 

シャルロットも続く。

 

「うん……僕もそう思う」

 

「優しいけど……怖い」

 

「なんていうか……迷いがないんだ」

 

セシリアはゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「底が見えませんわね」

 

「どれほどの力を持っているのか……想像もつきません」

 

鈴は少し不満そうに言う。

 

「なんか気に入らないのよね、あいつ」

 

「余裕ありすぎっていうか……全部分かってるみたいな顔して」

 

箒は静かに目を閉じる。

 

「剣ではないな、あれは」

 

「“意思”そのものだ」

 

「何かを成すための、純粋な力」

 

全員の意見を聞いた後――

 

千冬は小さく息を吐いた。

 

 

「なるほどな……」

 

そして、静かに言う。

 

「お前たちの見立ては、概ね正しい」

 

全員が息を呑む。

 

「十秋は“力に振り回されている側”だ」

 

「イチカは“力を使いこなしている側”」

 

対照的な存在。

 

「だからこそ――」

 

千冬の視線が鋭くなる。

 

「あの二人は、いずれ必ず衝突する」

 

誰も否定しない。

 

否定できない。

 

「その時、お前たちはどうする?」

 

問いが落ちる。

 

重く、静かに。

 

誰もすぐには答えられなかった――。

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