インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十四話

翌日―― 臨海学校二日目。

 

この日の本来の目的である、IS装備の実働実験が開始された。

 

海岸沿いに設営された簡易フィールドには、各企業から提供された試験装備が並び、生徒たちはそれぞれ担当の機材を手にデータ収集へと取り掛かっていく。

 

「その装備、出力もう少し上げてみて!」

 

「ログちゃんと取ってる!? 後で提出だからね!」

 

教師陣の指示が飛び交う中、生徒たちは慣れない装備に悪戦苦闘しながらも、真剣に取り組んでいた。

 

 

一方――専用機持ちのメンバーは別行動となっていた。

 

織斑千冬の指示により、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして十秋が一箇所に集められている。

 

「お前たちは通常の実験には参加しない」

 

「専用機はデータの性質が異なるからな。別途管理する」

 

淡々とした説明。

 

その時だった。

 

「やっほー!」

 

場の空気をぶち壊すような、間の抜けた明るい声。

 

全員の視線が一斉に向く。

 

そこにいたのは――

 

「束……姉さん!?」

 

箒が目を見開く。

 

白衣を翻し、軽い足取りで現れたのは、篠ノ之束だった。

 

「久しぶりだねー、ほーちゃん♪」

 

「な、何しに来たんだここに!?」

 

動揺を隠せない箒に対し、束はニコニコと笑いながら――

 

「プレゼント、持ってきたよ」

 

そう言って、指を鳴らす。

 

 

次の瞬間。

 

空間が歪み、紅い機体が姿を現す。

 

「――っ!」

 

息を呑む一同。

 

鮮烈な紅。

 

流線型のフォルムに、日本刀を思わせるシルエット。

 

「これが……」

 

「“紅椿”だよ」

 

束が軽く言う。

 

「ほーちゃん専用機。今作った」

 

「今!?」

 

ツッコミが複数から飛ぶが、束は気にしない。

 

「はい、乗って乗って♪」

 

半ば強引に箒は機体へと誘導される。

 

「ま、待て! まだ調整が――」

 

「終わってるよ?」

 

即答。

 

そのまま機体が起動する。

 

 

「……っ!」

 

紅椿が軽やかに浮上する。

 

「すごい……!」

 

箒の顔が一気に輝く。

 

思い通りに動く機体。

 

違和感のない操作感。

 

まるで自分の身体の一部のような一体感。

 

「どう? どう? ほーちゃん!」

 

「……最高だ」

 

思わず漏れる本音。

 

そのまま軽く飛行し、斬撃を繰り出し、基本動作の確認を行う。

 

完全に浮かれていた。

 

 

その様子を見ながら――

 

十秋は一人、内心で別のことを考えていた。

 

(……そろそろ来るはずだ)

 

福音事件。

 

山田先生が駆け込んできて、緊急事態が発生し――

 

そこから物語が大きく動くはず。

 

(ここまでは原作通りだ)

 

束の登場。

 

紅椿の受け渡し。

 

ここまでは完全に一致している。

 

(なら、この後――)

 

しかし。

 

 

――来ない。

 

 

時間だけが過ぎていく。

 

山田先生は現れない。

 

緊急事態も起こらない。

 

そのまま――

 

「では、本日の実験はここまでとする」

 

千冬の一言で、終了が告げられた。

 

 

(はぁあああああああああああああああああああああああああ!?)

 

十秋の心の中で絶叫が響く。

 

(なんでだ!? なんで来ない!?)

 

(福音は!? 暴走は!? イベントは!?)

 

完全に想定外。

 

(おかしい……絶対におかしい……!)

 

(流れは同じはずだろ!?)

 

だが、現実は何も起きなかった。

 

(クソッ……!)

 

答えは出ない。

 

そして――

 

その理由に、十秋が辿り着くことはなかった。

 

 

場面は変わり――

 

 

ハワイ沖。

 

青い海の上に設置された巨大な実験フィールド。

 

ここでは予定通り、ISの稼働実験が行われていた。

 

「各機、データ正常。問題なし」

 

「エネルギー推移も安定しています」

 

管制からの報告。

 

イチカは静かに空中に浮かびながら、それを聞いていた。

 

(順調すぎるな……)

 

違和感。

 

だが、任務は問題なく進んでいる。

 

(……いや)

 

その瞬間だった。

 

 

――警報が鳴り響く。

 

 

「なっ!?」

 

「対象機、出力異常! 制御不能!」

 

「福音が――暴走しています!!」

 

 

イチカの目が鋭くなる。

 

(来たか)

 

 

白銀の機体――福音。

 

その出力が急激に上昇し、周囲の空間が歪む。

 

暴走。

 

完全な制御喪失。

 

「対象、離脱します!」

 

「止められません!」

 

その瞬間――

 

「逃がすか」

 

イチカが動いた。

 

 

「〈完全なる立方体〉」

 

静かな詠唱。

 

次の瞬間。

 

空間が閉じる。

 

透明な壁が形成され、福音とイチカを完全に隔離する。

 

外界から遮断された戦場。

 

「これで外には出られない」

 

完全封鎖。

 

逃げ場はない。

 

 

「――――!!」

 

福音が咆哮のような駆動音を上げる。

 

即座に攻撃。

 

超高速のビームが放たれる。

 

だが――

 

「遅い」

 

イチカは消えるように回避。

 

一瞬で間合いを詰める。

 

「終わらせるぞ」

 

神器が展開される。

 

圧倒的な力。

 

圧倒的な速度。

 

 

戦いは――

 

戦いと呼ぶにはあまりにも一方的だった。

 

 

攻撃は全て見切られ、

 

反撃は全て直撃する。

 

福音の装甲が削れ、機能が一つずつ停止していく。

 

「抵抗は無意味だ」

 

最後の一撃。

 

中枢へと叩き込まれる。

 

「制圧完了だ」

 

 

福音は完全に沈黙した。

 

 

「……終わりか」

 

静かに呟くイチカ。

 

〈完全なる立方体〉が解除され、外の空気が流れ込む。

 

「対象機、停止確認!」

 

「暴走、完全に収束!」

 

管制の声が響く。

 

だが――

 

イチカはそれを聞き流しながら、ただ一言。

 

「……こんなもんか」

 

一撃。

 

核心部へ叩き込まれた衝撃により、福音は完全に沈黙した――かに見えた。

 

推進器停止。光も消える。

 

「対象機、機能停止確認――」

 

管制が安堵しかけた、その時。

 

 

――バチッ。

 

 

「……?」

 

イチカの眉が僅かに動く。

 

沈黙していた福音の機体内部から、異様な“音”が鳴る。

 

次の瞬間――

 

 

ドクン。

 

 

心臓の鼓動のような振動。

 

「なっ――!?」

 

管制が再び悲鳴を上げる。

 

「対象機、再起動!! いや違う――構造変化を確認!!」

 

 

福音の装甲が、崩れる。

 

いや――“剥がれる”。

 

白銀の外殻が内側から押し破られ、黒いフレームが露出する。

 

それはもはや、先ほどまでの福音ではなかった。

 

 

「……第二段階か」

 

イチカの目が細くなる。

 

 

翼が展開する。

 

だがそれは、機械的なものではない。

 

粒子で構成された“光の翼”。

 

空間を歪ませるほどの高密度エネルギー。

 

 

「対象、出力数値……測定不能!!」

 

管制が叫ぶ。

 

「危険です!! 撤退を――」

 

「不要だ」

 

イチカが遮る。

 

その視線は、完全に“戦闘”へと向いていた。

 

 

「面白い」

 

わずかに口元が上がる。

 

 

福音が“消える”。

 

先ほどとは比べ物にならない速度。

 

完全な瞬間移動に近い加速。

 

 

――直後。

 

イチカの背後に出現。

 

斬撃。

 

空間そのものを切り裂く一閃。

 

 

ガキィン!!

 

 

「ほう」

 

イチカは振り向きもせず、片手でそれを受け止めていた。

 

だが――

 

「さっきよりはマシだな」

 

衝撃は確実に増している。

 

 

福音はそのまま連続攻撃へ移行。

 

斬撃、突進、粒子砲。

 

全てが同時に襲いかかる。

 

 

「いいねぇ」

 

イチカの姿がぶれる。

 

だが今回は――

 

完全回避ではない。

 

敢えて受ける。

 

敢えて弾く。

 

 

ドンッ!!

 

拳と刃がぶつかる。

 

衝撃波が〈完全なる立方体〉内部を震わせる。

 

 

(出力……桁が違う)

 

福音は“進化”していた。

 

単なる暴走ではない。

 

戦闘に適応し、強化されている。

 

 

「なら――こっちも上げるか」

 

イチカの周囲に魔力が収束する。

 

空気が重くなる。

 

 

神器、再展開。

 

先ほどよりも明確に“力”を引き出す。

 

 

「第二ラウンドだ」

 

 

福音が再び突っ込む。

 

今度は正面から。

 

速度、威力、全てが最大。

 

 

「来い」

 

イチカは避けない。

 

踏み込む。

 

 

衝突。

 

 

空間が軋む。

 

衝撃が箱の内側を暴れ回る。

 

 

「――ッ!!」

 

福音が押し込む。

 

だが――

 

「甘い」

 

イチカが力を返す。

 

一気に押し返し、体勢を崩させる。

 

 

「遅いんだよ」

 

至近距離。

 

零距離。

 

拳を叩き込む。

 

 

装甲が砕ける。

 

内部フレームが露出する。

 

 

だが――

 

「――――!!」

 

福音は止まらない。

 

むしろ笑うかのように、さらに出力を上げる。

 

 

「……完全に“中身”が主導権を握ってるな」

 

イチカは確信する。

 

これはもう、ISではない。

 

“何か”だ。

 

 

福音が両翼を広げる。

 

空間が歪む。

 

エネルギー収束。

 

 

「来るか」

 

イチカは構える。

 

 

次の瞬間――

 

極大の光が放たれる。

 

箱の中を埋め尽くすほどの一撃。

 

回避不能。

 

 

「なら――」

 

イチカは一歩踏み込む。

 

真正面から。

 

 

「ぶち抜く」

 

 

光と衝突。

 

 

轟音。

 

閃光。

 

衝撃。

 

全てが混ざり合い、空間が悲鳴を上げる。

 

 

そして――

 

爆発。

 

 

煙が晴れる。

 

そこに立っていたのは――

 

「……いいね」

 

無傷のイチカ。

 

 

その視線の先。

 

第二形態となった福音は――

 

まだ、立っていた。

 

 

「まだ終わらねぇか」

 

イチカが笑う。

 

 

「なら――」

 

拳を握る。

 

 

「徹底的にやるぞ」

 

 

戦闘は、さらに激化していく――。

 

 

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