インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十五話

空は、既に赤から紫へと変わっていた。

 

ハワイ沖―――広大な海域の上空で、戦闘は未だ終わらない。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

荒い呼吸を繰り返すイチカ。その全身には無数の裂傷と打撲痕が刻まれていた。

ISのシールドエネルギーは既に危険域。だが、それでも彼は一歩も退かない。

 

対するは―――第二形態へと移行した福音。

 

「……ッ!」

 

その姿は、もはや“兵器”の枠を逸脱していた。

白銀の装甲は有機的に変質し、羽はより巨大に、そして禍々しく展開されている。

内部から脈打つような光が漏れ、まるで“生きている”かのようだった。

 

『対象、再構築完了。戦闘継続』

 

無機質な声。しかし、その奥には明らかな“狂気”が混ざっている。

 

「完全に……暴走してやがるな……!」

 

イチカは血を吐き捨てるように呟く。

 

---

 

次の瞬間。

 

ドォンッ!!

 

音すら置き去りにする速度で、福音が突っ込んできた。

 

「っ!!」

 

ギデオンを構え、受ける。

 

ガギィィィンッ!!

 

衝突の衝撃で海面が大きく波打つ。

水柱が数十メートル級で巻き上がる。

 

「ぐっ……!!」

 

押される。完全に押し負けている。

 

第二形態となった福音は、単純な出力だけでなく、反応速度までもが桁違いに跳ね上がっていた。

 

「まだだ……ッ!」

 

イチカは咄嗟に後方へと“瞬間移動”。

 

直後―――

 

ズガァァァァン!!

 

先程までいた空間が、光の奔流で消し飛ぶ。

 

「……レーザーまで強化かよ」

 

冗談じゃない、と吐き捨てる。

 

---

 

だが、反撃に移る。

 

「来い……シャスティフォル!!」

 

神器が輝き、形態変化。

 

「第四形態―――《光華》!」

 

無数の光弾が展開される。

 

「撃ち抜けぇぇぇ!!」

 

一斉射撃。

 

空を埋め尽くす光が福音へと殺到する。

 

しかし―――

 

「なっ……!?」

 

福音は、その全てを“正面から突破”した。

 

爆発を突っ切り、煙を裂き、一直線にイチカへ迫る。

 

「嘘だろ……!」

 

回避が間に合わない。

 

ズドンッ!!

 

直撃。

 

イチカの身体が海面へと叩き落とされる。

 

---

 

バシャァァァァン!!

 

海面に巨大な衝撃が走る。

 

水中に沈みながら、イチカの意識が一瞬揺らぐ。

 

(……まだだ……終われねぇ)

 

沈みながら、歯を食いしばる。

 

(約束しただろ……)

 

ジャンヌの顔が浮かぶ。

 

(守るって……)

 

ラウラの顔も。

 

(助けるって……)

 

そして―――

 

(全部背負うって決めたんだ)

 

目を開く。

 

---

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

水中から一気に浮上。

 

そのまま福音へ突撃する。

 

「いい加減―――黙ってろぉぉぉ!!」

 

ギデオンを振りかぶり、渾身の一撃。

 

ゴォォォンッ!!

 

直撃。

 

だが―――

 

「……ッ!?」

 

手応えが浅い。

 

装甲が“再生している”。

 

「再生……だと……!?」

 

福音の装甲が、傷を塞ぐように蠢いている。

 

---

 

『戦闘データ取得率、上昇』

 

『最適化、完了』

 

「ふざけんなよ……!」

 

学習し、進化している。

 

戦えば戦うほど、こちらの手を読まれていく。

 

---

 

そして。

 

福音の胸部が開く。

 

「―――やべぇな、あれ」

 

膨大なエネルギーが収束していく。

 

空間が歪む。

 

海がざわめく。

 

「来るか……!」

 

イチカは構える。

 

逃げ場はない。

 

避ければ背後の艦隊が消し飛ぶ。

 

(なら―――受けるしかねぇ)

 

---

 

「来いよ……!」

 

ニヤリと笑う。

 

「全部受け止めてやる……!!」

 

ギデオンとシャスティフォルを同時展開。

 

全出力解放。

 

「これが―――俺の全力だぁぁぁぁ!!」

 

---

 

次の瞬間。

 

福音の極大砲撃が放たれる。

 

---

 

世界が白く染まった。

 

視界も、音も、全てが消し飛ぶ。

 

―――その中心で。

 

「……っ、が……!」

 

イチカは両腕でギデオンを構え、正面から砲撃を受け止めていた。

 

シールドは既に崩壊。

装甲は焼け、肉が裂け、血が蒸発する。

 

「ぐっ……ああああああッ!!」

 

歯を食いしばる。だが、膝が沈む。

 

押される。

 

(……無理か……?)

 

一瞬、そんな考えがよぎる。

 

だが―――

 

(ふざけるな)

 

その思考を、自ら叩き潰す。

 

(ここで止まるくらいなら―――最初から全部背負ったりしねぇ)

 

---

 

ドクン。

 

心臓が大きく脈打つ。

 

ドクン、ドクン―――

 

血が沸騰するように熱くなる。

 

「……はは」

 

イチカの口元が歪む。

 

「そうか……まだ、残ってたな」

 

---

 

封じていた力。

 

使えば“戻れなくなる”可能性すらある力。

 

それでも―――

 

「上等だ」

 

目が、変わる。

 

右は赤。左は金。

 

そしてその奥に、黒い闇が宿る。

 

---

 

「―――解放する」

 

静かな声。

 

だが、その一言で空気が変わった。

 

---

 

「魔神王の力を」

 

---

 

瞬間。

 

轟音と共に、砲撃が“弾け飛んだ”。

 

「―――なにっ!?」

 

福音のセンサーが異常を検知する。

 

あり得ない現象。

 

直撃していたはずのエネルギーが、内側から破壊されたのだ。

 

---

 

白煙の中から、ゆっくりと一つの影が歩み出る。

 

「……効かねぇよ、そんなもん」

 

イチカだった。

 

だが、その姿は先程までとは別物。

 

全身に黒い紋様が浮かび上がり、魔力が“可視化”されている。

周囲の空間が歪み、海面すら波打つ。

 

重圧。

 

それだけで、場の全てを支配する存在感。

 

---

 

『……脅威度、再設定』

 

『対象―――危険度:最上位』

 

福音が、初めて“警戒”を示す。

 

---

 

「来いよ」

 

イチカは片手を軽く上げる。

 

「第二ラウンドだ」

 

---

 

次の瞬間。

 

消えた。

 

音もなく。

 

「―――ッ!?」

 

福音が反応する前に―――

 

ズドォンッ!!

 

その巨体が横殴りに吹き飛ぶ。

 

「が……っ!?」

 

空中でバランスを崩す福音。

 

「遅ぇんだよ」

 

背後に、イチカ。

 

既に回り込んでいる。

 

---

 

「はぁッ!!」

 

蹴り。

 

ただの蹴り。

 

それだけで―――

 

バキィィィン!!

 

装甲が砕ける。

 

---

 

「再生すりゃいいと思ってんだろ?」

 

冷たい声。

 

「なら―――追いつかねぇ速度で壊すだけだ」

 

---

 

怒涛の連撃が始まる。

 

拳、蹴り、肘、膝。

 

その全てが“兵器以上”。

 

衝撃が空気を裂き、音が遅れて響く。

 

ドゴォン! バギィ! ガンッ!!

 

福音は防御も反撃も間に合わない。

 

---

 

『損傷増大―――修復、追いつかず』

 

『戦闘継続、困難』

 

初めての“破綻”。

 

---

 

「終わりだ」

 

イチカが手をかざす。

 

黒い魔力が収束する。

 

「消えろ」

 

---

 

振り下ろす。

 

その瞬間。

 

空間ごと叩き潰す一撃が、福音を直撃した。

 

---

 

轟音。

 

衝撃。

 

そして―――静寂。

 

---

 

海上には、砕けた福音の残骸が浮かんでいた。

 

再生は、もう起きない。

 

完全沈黙。

 

---

 

「……終わり、か」

 

イチカは小さく息を吐く。

 

だが、その力はまだ消えていない。

 

黒い紋様は残り、魔力も渦巻いたまま。

 

---

 

(……やりすぎたか)

 

自覚はあった。

 

この力は、あまりにも“強すぎる”。

 

---

 

ゆっくりと空を見上げる。

 

夜空が広がっていた。

 

---

 

戦いは終わった。

 

だが―――

 

イチカの中で、何かが確実に“変わった”のだった。

 

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