インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
### ◇ 十秋サイド
IS学園へ帰投してから、すぐに夏休みへと突入した。
―――だが。
「……結局、何も起きなかったな」
自室で一人、天井を見上げながら呟く十秋。
本来なら起きるはずだった“福音事件”。
それは影も形もなく、ただ平穏なまま終わった。
(箒は紅椿を受け取った……)
(流れは一致している……なのに―――)
そこから先が、繋がらない。
(……考えても無駄か)
小さく舌打ちする。
どれだけ思考を巡らせても、答えは出ない。
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そして―――
夏休みは、あっという間に終わった。
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新学期初日。
教室は久々の再会で騒がしかった。
「よっ、十秋。ちゃんと宿題やったの?」
鈴が軽く肘で小突いてくる。
「当然だ」
「へぇ~、珍しいじゃない」
そんな軽口を交わしていると―――
ガラッ。
教室の扉が開く。
一瞬で空気が変わる。
「はーい、おはようみんな♪」
現れたのは―――生徒会長、更識楯無。
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「……なんでここに」
十秋は眉をひそめる。
楯無が一年の教室に来る理由など、普通はない。
だが―――
彼女の視線は、真っ直ぐこちらに向いていた。
「ちょっと用事があってね?」
にこやかな笑顔。
だが、その奥に何かを感じる。
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「織斑十秋くん、ちょっといい?」
「……何の用だ」
教室中の視線が集まる中、十秋は立ち上がる。
「ふふっ、そんな警戒しなくても大丈夫よ」
軽く笑いながら、楯無は言う。
「あなたに“特別指導”してあげようと思って」
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放課後。
第三アリーナ。
「……は?」
十秋は思わず声を漏らした。
「だから言ったでしょ? 特別指導♪」
その隣には―――
「え、ちょっと!? なんであたしも!?」
「わ、わたくしまで……!?」
凰鈴音とセシリアの姿。
完全に巻き込まれていた。
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「チームとしての底上げ、ってやつよ」
楯無は楽しそうに言う。
「どうせなら、まとめて鍛えた方が効率いいでしょ?」
「勝手に決めるな……」
呆れたように呟く十秋。
だが―――
「いいじゃない。強くなりたいんでしょ?」
その一言で、空気が変わる。
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「……当然だ」
十秋の目が鋭くなる。
「わたくしもですわ」
「負けっぱなしなんてゴメンよ」
箒と鈴も同じだった。
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「うん、いい目してる」
楯無は満足そうに頷く。
「じゃあ―――始めましょうか」
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訓練は、想像以上に過酷だった。
「遅い遅い! そんな動きじゃ当たるわよ!」
楯無の指示が飛ぶ。
次の瞬間―――
ドォンッ!!
鈴が吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
「反応は悪くない。でも甘い」
冷静な評価。
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「セシリア、射撃に頼りすぎ。距離を詰められたらどうするの?」
「くっ……!」
即座に懐に潜り込まれ、制圧される。
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「箒ちゃんは真面目すぎ。動きが読まれるわ」
「なっ……!」
フェイントに引っかかり、体勢を崩す。
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圧倒的。
それが、更識楯無という存在だった。
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だが―――
「もう一回!」
「次は当てる!」
「負けませんわ!」
三人の目は、折れていなかった。
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数日後。
「……変わったな」
十秋はぽつりと呟く。
目の前では、箒と鈴が連携訓練を行っている。
以前とは比べ物にならない動き。
無駄が減り、判断が速い。
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「でしょ?」
いつの間にか隣に立っていた楯無が笑う。
「人はね、ちゃんと導けば伸びるのよ」
「……随分と面倒見がいいんだな」
皮肉気に言う十秋。
だが楯無は気にしない。
「可愛い後輩だもの」
軽くウインクする。
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「……」
十秋は黙ってその光景を見る。
確かに―――
二人は変わった。
強くなっている。
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(だが……)
胸の奥に残る違和感は、消えない。
(やっぱり、何かがおかしい)
物語のズレ。
そして―――
この女。
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「……何を企んでいる」
小さく呟く。
それに対し、楯無はただ笑うだけだった。
「さあ? どうかしらね♪」
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その笑顔の裏にあるものを―――
十秋は、まだ知らない。