インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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二十七話

### ◇ 十秋サイド

 

IS学園へ帰投してから、すぐに夏休みへと突入した。

 

―――だが。

 

「……結局、何も起きなかったな」

 

自室で一人、天井を見上げながら呟く十秋。

 

本来なら起きるはずだった“福音事件”。

それは影も形もなく、ただ平穏なまま終わった。

 

(箒は紅椿を受け取った……)

 

(流れは一致している……なのに―――)

 

そこから先が、繋がらない。

 

(……考えても無駄か)

 

小さく舌打ちする。

 

どれだけ思考を巡らせても、答えは出ない。

 

---

 

そして―――

 

夏休みは、あっという間に終わった。

 

---

 

新学期初日。

 

教室は久々の再会で騒がしかった。

 

「よっ、十秋。ちゃんと宿題やったの?」

 

鈴が軽く肘で小突いてくる。

 

「当然だ」

 

「へぇ~、珍しいじゃない」

 

そんな軽口を交わしていると―――

 

ガラッ。

 

教室の扉が開く。

 

一瞬で空気が変わる。

 

「はーい、おはようみんな♪」

 

現れたのは―――生徒会長、更識楯無。

 

---

 

「……なんでここに」

 

十秋は眉をひそめる。

 

楯無が一年の教室に来る理由など、普通はない。

 

だが―――

 

彼女の視線は、真っ直ぐこちらに向いていた。

 

「ちょっと用事があってね?」

 

にこやかな笑顔。

 

だが、その奥に何かを感じる。

 

---

 

「織斑十秋くん、ちょっといい?」

 

「……何の用だ」

 

教室中の視線が集まる中、十秋は立ち上がる。

 

「ふふっ、そんな警戒しなくても大丈夫よ」

 

軽く笑いながら、楯無は言う。

 

「あなたに“特別指導”してあげようと思って」

 

---

 

放課後。

 

第三アリーナ。

 

「……は?」

 

十秋は思わず声を漏らした。

 

「だから言ったでしょ? 特別指導♪」

 

その隣には―――

 

「え、ちょっと!? なんであたしも!?」

 

「わ、わたくしまで……!?」

 

凰鈴音とセシリアの姿。

 

完全に巻き込まれていた。

 

---

 

「チームとしての底上げ、ってやつよ」

 

楯無は楽しそうに言う。

 

「どうせなら、まとめて鍛えた方が効率いいでしょ?」

 

「勝手に決めるな……」

 

呆れたように呟く十秋。

 

だが―――

 

「いいじゃない。強くなりたいんでしょ?」

 

その一言で、空気が変わる。

 

---

 

「……当然だ」

 

十秋の目が鋭くなる。

 

「わたくしもですわ」

 

「負けっぱなしなんてゴメンよ」

 

箒と鈴も同じだった。

 

---

 

「うん、いい目してる」

 

楯無は満足そうに頷く。

 

「じゃあ―――始めましょうか」

 

---

 

訓練は、想像以上に過酷だった。

 

「遅い遅い! そんな動きじゃ当たるわよ!」

 

楯無の指示が飛ぶ。

 

次の瞬間―――

 

ドォンッ!!

 

鈴が吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!」

 

「反応は悪くない。でも甘い」

 

冷静な評価。

 

---

 

「セシリア、射撃に頼りすぎ。距離を詰められたらどうするの?」

 

「くっ……!」

 

即座に懐に潜り込まれ、制圧される。

 

---

 

「箒ちゃんは真面目すぎ。動きが読まれるわ」

 

「なっ……!」

 

フェイントに引っかかり、体勢を崩す。

 

---

 

圧倒的。

 

それが、更識楯無という存在だった。

 

---

 

だが―――

 

「もう一回!」

 

「次は当てる!」

 

「負けませんわ!」

 

三人の目は、折れていなかった。

 

---

 

数日後。

 

「……変わったな」

 

十秋はぽつりと呟く。

 

目の前では、箒と鈴が連携訓練を行っている。

 

以前とは比べ物にならない動き。

 

無駄が減り、判断が速い。

 

---

 

「でしょ?」

 

いつの間にか隣に立っていた楯無が笑う。

 

「人はね、ちゃんと導けば伸びるのよ」

 

「……随分と面倒見がいいんだな」

 

皮肉気に言う十秋。

 

だが楯無は気にしない。

 

「可愛い後輩だもの」

 

軽くウインクする。

 

---

 

「……」

 

十秋は黙ってその光景を見る。

 

確かに―――

 

二人は変わった。

 

強くなっている。

 

---

 

(だが……)

 

胸の奥に残る違和感は、消えない。

 

(やっぱり、何かがおかしい)

 

物語のズレ。

 

そして―――

 

この女。

 

---

 

「……何を企んでいる」

 

小さく呟く。

 

それに対し、楯無はただ笑うだけだった。

 

「さあ? どうかしらね♪」

 

---

 

その笑顔の裏にあるものを―――

 

十秋は、まだ知らない。

 

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