インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
EXー1
リオネス家―――
「地下闘技場?」
「はい」
バルコニーで静かに読書をしていたジャンヌのもとに、一つの報告が届いた。
それは“全戦無敗”の男の存在。
試合回数は―――既に四桁を超えている。
「十中八九……転生者ね」
ジャンヌは本を閉じ、わずかに視線を落とす。
常識的に考えて、あり得ない。
地下闘技場――それも元プロや裏社会の人間が集まる“何でもあり”の場所で、無敗を維持するなど。
「これが資料です」
差し出された書類に目を通した瞬間、ジャンヌの手が止まる。
「……この子が?」
写真に写っていたのは、まだ幼さを残す赤毛の少年だった。
「はい。年齢は十八とのことです」
「確定ね。しかも身体強化系……」
年齢と実績がまるで釣り合っていない。
それだけで十分だった。
「それと、もう一点」
執事は続けて、もう一枚の資料を差し出す。
「この子は?」
「先ほどの少年の兄です。現在はマネージャーとして関わっているようです」
「兄弟で地下闘技場……しかもストリートチルドレン」
ジャンヌの目が細くなる。
ISの普及以降、各国で社会構造は歪み、取り残された子供たちは裏社会に流れる。
この兄弟も、その例外ではなかった。
「能力の詳細は不明ですが、何らかの異能を所持しているのは確実です」
「でしょうね。一日で何千万も稼ぐ子が、無事でいられるはずがないもの」
ジャンヌはしばし思考する。
(イチカを行かせたいところだけど……今は学園)
動かせる戦力は限られている。
この案件、見送るという選択肢もあった。
だが――
視線が、資料の“場所”へと落ちる。
フランス。
「……致し方ないわね」
小さく息を吐き、ジャンヌは立ち上がる。
「私が出向きます」
「……!」
執事の表情がわずかに揺れる。
「たまには身体も動かしたいの」
「……承知しました。すぐにご用意いたします」
二人はそのままヘリポートへと向かった。
---
◇
フランス――地下闘技場。
「兄貴、今日のファイトマネーどれくらいだ?」
「喜べ。ついに一億を超えた」
「マジで!?」
赤毛の少年――アルが目を輝かせる。
「今日はいい飯だな」
「決まりだな!」
銀髪の青年――エドの後ろを、アルは軽い足取りでついていく。
二人は転生者だった。
だが、恵まれた環境ではない。
気がついた時には、既に路上にいた。
家も、親も、名前すら曖昧なまま。
ただ、生き延びるために戦い続けた。
そして十五歳の時――アルはその力を解放し、この地下闘技場の頂点へと立った。
「――そこのお二人さん」
呼び止める声。
女の声だった。
この場所では、明らかに異質。
「悪いが、今は食事に行くところでな」
エドは振り返らずに答える。
「あら、少しぐらい良いじゃない」
「明日もいる。用があるならその時に――」
立ち去ろうとした、その瞬間。
「それは残念ね――転生者さん?」
ピタリ、と足が止まる。
空気が変わる。
ゆっくりと振り返るエドの視線の先――
そこにいたのは、この場に似つかわしくない金髪の少女だった。
「こんばんは。エドさんと……アルくん」
「……」
完全に見透かされている。
「うおおおおおおおお!! おっ●――」
「黙れ!!」
一瞬で台無しになる空気。
「……弟が失礼を」
「いいわ。慣れてるから」
ジャンヌはくすりと笑う。
「私はジャンヌ・リオネス。よろしくね、転生者さん」
「……エドだ。後ろのが弟のアル」
「よろしくっす!!」
今度は普通だった。
「それで? 何の用だ」
「確認よ。この世界のこと、理解してる?」
「ISの世界だろ」
「えぇ。そしてここはフランス」
その一言で、エドは全てを理解する。
「……ああ、なるほどな」
「安心して。あの子には関わらない」
「それでも信用はできない、か」
「ええ。不確定要素は排除する主義なの」
静かに、しかし確実に。
殺気が満ちる。
「アル」
「……あー、やっぱそうなる?」
「敵だ」
「はぁ……俺、女殴る主義じゃないんだけどなぁ」
「状況を見ろ」
ジャンヌは槍を顕現させる。
「じゃあ条件いい?」
「言ってみなさい」
「勝ったら、そのおっ●――」
「いいわよ」
「いいのかよ!?」
エドが頭を抱える。
「勝てばいいだけの話でしょう?」
その余裕が、逆に恐ろしい。
「よっしゃあ!!」
アルの空気が変わる。
「〈禁手〉――発動!!」
赤い光が弾ける。
腕に宿る異形の籠手――
「それがあなたの力?」
「そう! 〈赤龍帝の籠手〉――ブーステッド・ギア!!」
それは“赤龍帝”の力。
かつて神や魔王と並び称された存在――
その力を宿す神器。
一定時間ごとに倍加し続ける“力の暴力”。
「……なるほど」
ジャンヌの目が細まる。
(厄介ね)
だが、同時に。
(面白い)
「あなたに敬意を表して――」
空気が張り詰める。
「私も全力でいくわ」
光が収束する。
現れたのは――聖女の装い。
「……おい、まさか……」
エドの顔が強張る。
「その姿……ジャンヌ・ダルクか!」
「正解」
微笑むジャンヌ。
「さあ――始めましょう」
槍を構え、
戦場が、静かに火を噴いた。