インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
(おいおい……まじかよ!!)
エドの背筋に、はっきりとした“恐怖”が走った。
目の前の男――イチカ・リオネス。
それはもはや、人の枠に収まる存在ではなかった。
七つの大罪の神器。
それだけでも規格外だというのに――
「力そのものまで持ってやがるのかよ……!」
呟きは、半ば呆然としたものだった。
---
「……さて」
イチカは短く息を吐くと、アルを閉じ込めていた〈完全なる立方体〉を解除した。
直後、〈魔剣ロストヴェイン〉を顕現させる。
「来い」
低く呟くと同時に、分身が一体――実像として切り出される。
その分身はすぐさま別の神器を展開。
「〈完全なる立方体〉」
空間が歪み、再構築される。
今度は――
本体のイチカ、エド、アル。
三者すべてを閉じ込める形で、完全な隔離空間が構築された。
「準備は整った」
ロストヴェインを肩に担ぎ、イチカは静かに言う。
「始めるぞ」
---
「ふざけんなぁ!!」
アルが吠える。
『Boost!!』
爆発的な加速。
紅蓮の龍が一直線に突っ込む。
「さっきは不覚を取ったが、今度は――」
言い切る前に。
「遅い」
イチカが消えた。
次の瞬間には――アルの懐。
「――がっ!?」
拳がめり込む。
空気が弾け、内臓を揺らす衝撃。
さらに追撃。
蹴りが叩き込まれ、アルの身体はそのまま壁面へと激突した。
「ぐっ……!!」
「アル!!」
エドが叫ぶ。
だが、止まらない。
---
〈覇龍〉という限界突破形態。
それを発動してなお――
イチカは、その“さらに上”にいた。
しかも。
(ロストヴェインで分身して……力は分散してるはずだろ……!?)
それでもなお、圧倒している。
常識が通用しない。
---
「イチカ……やっぱり、封印を解いたのね」
外から戦況を見ていたジャンヌが、小さく呟く。
その瞳には、驚愕と――確信。
「魔人化状態……闘級は……」
一瞬、言葉が詰まる。
「……120万オーバー」
もはや、数値の意味を成していない。
「このままじゃ……本当に、地形ごと消し飛ぶわね」
乾いた笑みが零れる。
---
「チッ……!」
エドは歯を食いしばる。
(やべぇ……時間がねぇ)
〈覇龍〉の維持時間。
それが、限界に近づいていた。
アルも同様だ。
「くっそ……!」
どれだけ強化しても、届かない。
圧倒的な差。
---
そして――
限界は訪れる。
バキン、と音を立てるように。
二人の〈覇龍〉が強制解除された。
龍の鎧が砕け、消失する。
「……はは、マジかよ……」
エドはその場に崩れ落ちた。
アルも同様に、膝をつく。
もう、動けない。
完全な――敗北だった。
---
「終わりだな」
イチカが歩み寄る。
ロストヴェインを振り上げる。
「さっさと止めを刺しな」
エドが吐き捨てる。
「あぁ――」
振り下ろされる、その刃。
だが――
「ルーラー権限、執行」
静かな声。
その瞬間。
ロストヴェインが、霧のように消失した。
「……!?」
同時に。
イチカの魔力が――“消えた”。
「お嬢……どういうつもりだ?」
振り向く。
そこには、静かに立つジャンヌの姿。
「止めは待って」
「必要ない。ここで潰すべきだ」
「ダメよ」
きっぱりと。
「今、死なせるには惜しい人材だから」
---
ジャンヌはゆっくりと歩み寄る。
霊装はすでに解除されている。
戦う意思はない。
エドの前にしゃがみ込み――
手を差し出した。
「私の弟になりなさい」
「……は?」
予想外。
あまりにも突飛な提案。
「ふざけんなァ!!」
怒声が響く。
だが、その視線が――わずかに揺れた。
次の瞬間。
エドの意識が途切れる。
「……気絶、か」
イチカが呟く。
「話し合いにならなそうだったから、強制的にね」
ジャンヌは肩をすくめる。
「最初から素直に頷くとは思ってないわ」
---
遠くで、サイレンが鳴り始めていた。
「そろそろ限界ね」
ジャンヌが空を見上げる。
「これだけ暴れたもの。結界も、足止めも持たないわ」
「……だろうな」
イチカも同意する。
---
「そういえばイチカ、転移使えたわよね?」
「使えるが……今は封じられてる」
「あ、そうだった」
軽く舌を出す。
「解除するわ。ルーラー権限、解放」
縛りが解ける。
魔力が戻る。
「これでいい?」
「あぁ」
---
イチカはエドを担ぐ。
ジャンヌはアルを抱える。
「帰るわよ」
「了解」
次の瞬間。
空間が歪み――
四人の姿は、その場から消えた。
残されたのは、崩壊した街並みと――
戦いの痕跡だけだった。