インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~   作:ぬっく~

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EX-8

ゴトゴトと車輪の音に身体を揺らせながら、一夏はその時が来るまで、窓の外で流れる茜色の街の光景を眺め続けていた。

馬車が止まる。

馬の嘶きが響く中、高級な作りの扉を開け、一人先に外へ。

着慣れない礼服―――いわゆる燕尾服を身に纏う一夏は、これまた上品な革靴を鳴らして、地面に降り立つ。

一夏は振り返り、次に降りてくる少女に手を貸す。

嬉しそうに微笑みながら馬車から出てくるのは、ジャンヌだ。

一夏と同じように正装のドレスで身を包み、普段よりずっと綺麗で華々しい。

 

「ありがとう、イチカ」

 

「いえ」

 

地面に降りたジャンヌが笑いかけてくる。

続々と集まる高級そうな箱馬車、正装している何人もの美男美女、止めに大富豪の豪邸。

本日は【グラディウス・ファミリア】が主催するパーティー。

 

「さぁ、行くよ、イチカ!」

 

「はい」

 

ジャンヌの格好は白色のドレスで、沢山のレースとフリルをあしらっている。しっかり谷間が強調されてしまっているのは立派な胸をもつ彼女故だろうか。正直、視線に困ることもしばしばだ。

とある国の王女様……と言うのはまた違うかも知れないが、今のジャンヌには可憐さと美しさが同居している。

一夏は、ジャンヌをエスコートし、見上げる程高い建物の中へと入った。

 

 

 

 

玄関ホールは建物の外観に負けず劣らず絢爛豪華だった。

金銀の光が太い柱や燭台に散らばっていて目が眩しい。吹き抜けの造りはとても開放感がある。壁際に鎮座している彫刻は神様を模した物だろうか、男神様と女神様が一体ずつある。

ホールを抜けて、豪奢な大階段を上がった先にパーティーを行う大広間はあった。

既に賑わっている大広間はもはや語る必要がない程豪勢だった。高い天井にシャンデリア、沢山の長卓には普段食べられないような料理がずらりと並べられており、背が高い窓の外は、バルコニーになっている。

日暮れが終わり、外の景色は宵闇が満ちた。

 

「―――諸君、今日はよく足を運んでくれた!」

 

と、高らかな声が響き渡った。

室内にいる全ての人たちの目が向かう先に、一人の男性がいる。

きっとあの人が今回のパーティーの主催者のアルメスだろう。

パーティーの主催者らしく盛装するアルメスの声は良く通っていた。

 

「今日の夜は長い。ぜひ楽しんでいってくれ!」

 

それから口上に耳を貸していると、不意に。

賓客を見渡していたアルメスの視線が、こちらを射抜いたような気がした。

 

「ん? あぁ、アルメスのことが気になるのね」

 

ジャンヌの言葉に「えぇ」と一夏は頷き返す。

 

「アルメスは、とにかく色恋沙汰の話題が尽きない奴でね……後はそう―――()()()()

 

ジャンヌが最後に口にした言葉に、一夏は少し嫌な感じを感じ取る。

ざわっっ、と広間の入り口から起こった大きなどよめき。

 

「あら……大物の登場ね」

 

音の出どころを見つめ、ジャンヌはおどけるように言う。

衆目を根こそぎ集めているのは、美しいドレスを身に纏った金髪にエメラルドグリーンの瞳の女性を従えた、パープル色の髪の少女だった。

 

「―――レミリア。それに【剣聖】アルトリア」

 

レミリア・スカーレットこと【スカーレット・ファミリア】は―――【リオネス・ファミリア】と並ぶ最強勢力の派閥。裏社会の頂点に降臨するこの二強の派閥は裏社会の双頭と比喩される程だ。

視線の先の少女は、そんな【ファミリア】の当主。

レミリアの登場を境に、場は一気に盛り上がる。

その時、紅の瞳がこっちを捉えた。

ピタリと動きを止めたレミリアは、じっとこっちを見つめていたかと思うと……微笑んだ。

コツ、コツ、と靴を鳴らして歩み出す。見えない壁があるかのように少女の前からは人込みが散り、道がどんどん開けていく。

金髪の美女の従者を引き連れる少女は、間のなく一夏たちの前で足を止めた。

 

「……やあ、レミリア。何をしに来たのかしら?」

 

「別に、挨拶をしに来ただけよ? 珍しい顔ぶれが揃っているものだから―――ね?」

 

そう言って、レミリアは一夏に流し目を送る。

吸い込まれそうな瞳にごくりと喉を鳴らすと、レミリアは笑みを深めた。

自然な動作ですっと手を差し伸べ、頬を撫でてくる。

 

「―――今夜、私に夢を見させてくれないかしら?」

 

「―――っ」

 

見せるかァ!!

 

レミリアが尋ねてくると同時に、ジャンヌが吠えた。

頬に添えている手を叩き落とし、真っ赤になって激昂する。

 

「うふふ。ジャンヌの機嫌を損ねてしまったようだし……もう行くわ。それじゃあ」

 

一方で、レミリアは可笑しそうに微笑む。

ジャンヌの反応を一頻り楽しんだ後、あっさりと身を引く。

激昂するジャンヌを置いて、背を向ける。「アルトリア」と側にいた従者に声をかけ、彼女は歩み出した。

 

「―――早速、彼女が仕掛けて来たわね」

 

嵐が過ぎ去ったような間を置き、今度は別の方向から声がかかる。

 

「あら、更識」

 

そこには水色のドレスを身に纏った、更識楯無がいた。

そして、その隣には。

薄緑のドレスを身に纏った、楯無の従者の布仏虚がいた。

 

「いつの間に来たのかしら?」

 

「意気揚々と会場入りしたらあのお子ちゃまに全部持ってかれたのよー!?」

 

どうやら、楯無たちはちょうど今来た所らしい。レミリアとのやりとりがあって、広間に入室したことに気付けなかったらしい。

 

 

 

 

それからしばらく、一夏はジャンヌに連れられ、知人だと言う【ファミリア】の前で挨拶をして回った。人の良さそうな女性や男性に紹介され、言葉を交わしていく。

やがてパーティーが始まって、二時間程経った頃、一夏とジャンヌは人の流れから外れ、邪魔にならないように壁際に設けられたの席に移動する。

 

「ふぅ……」

 

席に座った途端、ジャンヌは吐息が漏れる。

 

「一つ……聞きたい事がある」

 

「……アルトリアのことでしょ?」

 

ひと段落着いた時、一夏はずっと感じていた疑問をジャンヌに問う。

レミリアが連れていた従者―――アルトリアと呼ばれる女性のことだった。

彼女から何故か、一夏たちと同じ【恩賜】が感じ取れたのだ。

 

「イチカは知らなくて当然ね。あの娘には、私の【恩賜】が与えられているわ」

 

その言葉に、一夏は驚く。

門外不出であるはずの【恩賜】が出ていたのだ。

 

「今思うと―――本当にムカつくわ!」

 

何やら、愚痴をこぼしながら説明し始める。

要約するとジャンヌの父―――ジャック・リオネスがレミリア・スカーレット個人に大きな借りを作っていたらしい。

当主が代替わりして少し経った頃、リオネス家の噂を嗅ぎ付けて来たのだ。

そして、ジャックの借りをいいことに、レミリアはジャンヌにあることを要求してくる。

 

『貴女が子供たちに与えている【恩賜】と呼ばれる物を寄越しなさい』

 

もちろん、ジャンヌはその要求を拒否する。

借りを作ったのは、あくまでも父であり娘である自分には関係のない、と言ったらしい。

しかし、レミリアは引き下がらなかった。

しまいには、裏社会のゲームを持ち出して来たのだ。

それもジャンヌは拒否する。

そのゲームは大勢の【ファミリア】の目の前で行われるゲームであり、ジャンヌは【恩賜】を曝け出すことを危惧してしたのだ。

そのため、ジャンヌはそのゲームを挑まれても決して参加しなかった。

ついには、【ファミリア】同士の戦争にまで持ってかれ、ジャンヌは降参する。

当時の戦力はLeve.4のガランが一人だけであり、レミリアの返答は資金による暴力を用意してきたのだ。流石のジャンヌも勝つことは出来ない。

もちろん、ジャンヌはタダで引き下がる訳がなく、一つだけ条件を付けたのだ。

 

『あんたの所にいる中で、最も最高の一人に【恩賜】を与えてあげる』

 

ジャンヌはレミリアの屋敷に赴き、部下から使用人まで全てを確認し、一人の見習いメイドの少女に目が留まったのだ。

その少女のレベル適性がなんと―――Leve.5だったそうだ。

その時、思わず息を呑んでしまったらしい。

人生で初めてLeve.5の適性を持つ者を見つけてしまったのだ。

ジャンヌはその娘を連れかえ、【恩賜】を与えた。

それからは、その娘はレミリアの専属の護衛になったらしい。

 

「その次には、イチカが欲しいって、ふざけたことを言い出したのよ、あの小娘!!」

 

もちろん、その要求は拒否。

戦争になっても、高Levelの【恩賜】持ちが多数いる。こっちが勝つ見込みがあるので、レミリアは大人しく引き下がった。

今回、頬を撫でてきたのはそういう意味だったらしい。

 

『どんな手段を使ってでも、あなたを私の物にしたい』

 

ある意味では、一夏はとんでもない女に目を付けられたらしい。

 

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