インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
「―――諸君、宴は楽しんでいるかな?」
主催者である、アルメスが登場した。
従者たちと共にジャンヌたちの元へ足を運び、正対する形になる。
いつの間にか舞踏の演奏は止まっており、その声は思いのほか響いた。
「盛り上がっているようならば何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」
ジャンヌたちが動きを止める中、他の招待客も自然と集まり、アルメスを中心に円が出来上がる。
適当な言葉を並べた後、【グラディウス・ファミリア】のアルメスに目を向けた。
「遅くなったが……ジャンヌ。先日は私の部下が世話になった」
「……えぇ、こちらこそ」
笑みを浮かべているアルメスに、ジャンヌは返事をしつ怪訝な表情をする。
一先ず事を荒立てないようジャンヌが話をつけようとすると。
アルメスは最初からみなまで言わず、発言を被せてきた。
「
次には、そう要求される。
耳を傾けていた一夏も、ご自身も固まる中、直ぐにジャンヌは激怒した。
「言いがかりも程々にしてもらいたいわね。私の部下にも怪我させておいて、一方的に見返りを要求せれる謂れはないわ」
「だが私の部下であるボブは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰って来た……私の心は悲しみで砕け散ってしまいそうだった!」
まるで演劇を見ているかのように、アルメスは胸を押さえ、かと思うと両腕を広げて大袈裟に嘆く。左右に控えていた従者たちは泣く素振りを見せ、極めつけによろよろとジャンヌたちの側に歩み寄ってくる影があり、「おぉ、ボブ!」とアルメスはソレに駆け寄った。
ボブと呼ばれた小柄な影、【グラディウス・ファミリア】の部下は……全身を包帯でぐっるぐる巻きにしたミイラ状態で、呻いた。
「痛えぇ、痛えよぉ~」
「茶番もいい加減にしてもらいたい……」
「一発でノックダウンした野郎が言う台詞じゃねぇだろが」
震えて見上げてくるジャンヌに、真っ赤になって叫ぶ。
流石にこれは脚色し過ぎだ、と。
「更に、先に仕掛けて来たのはそっちらだと聞いている。証人も多くいる、言い逃れは出来ない」
パチン、と指を弾くと、ジャンヌたちを取り囲む円から複数の【ファミリア】のボスとその部下が歩み出て来る。
証人……あの時居た『ボンゴレ』の客? 一夏の記憶には無かったが、彼らは皆口を揃えてアルメスの言葉を肯定し、そして低劣な笑みを浮かべた。
偽者か、あるいは本当に当時居合わせたのか……どちらにせよ、今出て来るなんて上手く出来過ぎている。
嫌な予感が胸の中に芽生え始めていた。
「待ちなさい、アルメス。貴方の部下に最初に手を出したのはうちの部下よ? ジャンヌだけを責めるのは筋じゃないでしょう?」
「あぁ、タテナシ、美しい表情だ。だが無理しなくていい、ジャンヌの部下が君の部下をけしかけていただろうことは、火を見るよりも明らかだ」
何だったら証人に問いただしてもいい、とアルメスは楯無の訴えも軽く一蹴した。楯無は両目を細める。
誰がやったと言えば誰がやっていないと言う、完璧なイタチごっこだった。そして、この場では事前に味方を用意していたアルメスの方が発言力は強い。
「部下を傷付けられた以上、大人しく引き下がる訳にはいかない。【ファミリア】の面子にも関わる……ジャンヌ、どうあっても罪を認めないつもりか?」
「くどい! そんなもの認めないわ!」
言い分をはねのけるジャンヌに、アルメスの顔が―――醜悪に歪む。
端麗な容姿には相応しくない嫌らしい笑みを深め、口角を吊り上げた。
「ならば仕方ない。ジャンヌ―――君に『ウォーゲーム』を申し込む!」
【ファミリア】ともども、一夏は目を見開いた。
―――『ウォーゲーム』。
対戦対象の間でルールを定めて行われる、決闘。部下を駒に見立てて盤上遊戯のごとく、対立する【ファミリア】と【ファミリア】が己の要求を通すためぶるかり合う総力戦。
言わば、『代理戦争』。
勝利をもぎ取った【ファミリア】は敗北した【ファミリア】から全てを奪う、命令を課す殺生与奪の権利を得る。通常ならば部下を含めた派閥の資産を全て奪うことが通例だ。
ジャンヌから教えてもらった知識を鮮明に思いかした一夏は、あっという間に言葉を失った。
一夏にジャンヌと【恩賜】を受けた者がうじゃうじゃいる派閥が、血筋だけが取り柄の【グラディウス・ファミリア】とウォーゲーム?
全くもって話になっていない。
『アルメスの馬鹿がやらかしたァ―――!!』
『すっっげー虐め』
『逆に見てみたい』
一方で、アルメスの宣言を受けて、周囲はにわかにざわついていた。
極楽好きの【ファミリア】は早速ニヤニヤと笑い出し、面白くなってきたとばかりに囃し立てる。
色めき立ってアルメスの宣言を支持する人坦の輪。一夏と楯無が四方を見渡していると、黙っているアルベールと、目を見張るシャルロットと目が合った。
「我々が勝ったら……君を、ジャンヌ・リオネスを嫁にもらう」
愕然としているジャンヌに、アルメスが更に要求を重ねた。
なに!? と思わず目を剝いた一夏の隣で、ジャンヌは盛大な歯ぎしりをする。
「最初からそれが狙いかっ……!」
ジャンヌたちが言っていることを理解すると、アルメスは。
欲望だけを一途に煮詰めたような、そんなおぞましい笑みを浮かべた。
「―――あぁ、その顔だよ」
ぞっっ、と。
肌が泡立ち、顔色を無くす。
アルメスの熱い視線がジャンヌを締め取り、立ち竦んでしまう。
生まれてこのかた味わったことない猛烈な悪漢を。
「この変態めぇ……!!」
ジャンヌは親の仇を見るように、アルメスを睨め付ける。
「変態とはひどいな、ジャンヌ」
「本当に欲しいのは【恩賜】だろがァ!!」
リオネス家だけが持つ【恩賜】は、どの【ファミリア】が喉から手が出る程欲しい物であった。
その為に、裏社会では高額な懸賞金がかけられている。
しかし、未だに誰一人としてその力を入手した者はいない。
「いちゃもんを付けられた酒場の一件から何まで、アルメスの計略ね。私を奪う為、全部!」
嵌められたと悟るジャンヌは、極楽好きの【ファミリア】を味方につけつつあるアルメスを忌々しげに見上げる。ジャンヌたちの少ない味方である楯無やシャルロットは盛り上がる周囲に狼狽し、アルベールは口を結び沈痛な面持ちを作っていた。
「それでジャンヌ、答えは?」
「受ける義理はないわ!」
返答を要求するアルメスに、ジャンヌははっきりと突っぱねる。
ウォーゲームに持ち込まれてしまえば、【恩賜】が表に出てしまい、その価値がばれてしまう。
ジャンヌは断固拒否する。
「後悔しないかい?」
「するわけないじゃない。イチカ、帰るわよ」
にやつくアルメスに怒声を飛ばし、ジャンヌは一夏の手を掴む。
つまらん、と不興を買った【ファミリア】たちの人込みを強引に割って進み、全身を怒らせながら大広間を後にした。
ジャンヌに手を引っ張れながら、後ろを振り返る。
遠ざかっていく冷めやらぬ饗宴の会場と、こちらを見送る【ファミリア】の従者の存在は。
まだ終わりではない、と暗に語りかけてくるかのようだった。