インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
『グラディウス・ファミリア』が主催するパーティーから一夜が明け、翌朝。
現地で予約したホテル。
「全く、アルメスめっ。よくも抜け抜けとウォーゲームなんかっ……」
一方でジャンヌは、ぶつぶつと悪態をついている。昨夜から機嫌が悪い彼女は、ソファーの上にいる一夏へ呼びかけた。
「イチカ、一応気を付けて頂戴。流石に昨日の今日で何かしてくるってことはないと思うけど、アルメス達はこじつけてちょっかいをかけてくるかもしれないから」
「わかった」
ジャンヌの警告に一夏は頷く。
「そんじゃ、今日は更識達との会合があるから」
「わかった」
一夏が快諾するとジャンヌも笑う。彼女の本日の予定は更識楯無との会合だ。自室を出て、エレベーターで降りる。
(……ん?)
違和感を覚えた一夏は、ふと顔を上げる。
ホテル内は特に変わった様子はなく、一度足を止めた一夏は周囲を軽く見渡し、振り返る。背後ではジャンヌが、不思議そうな顔で首を傾げた。
怪訝な思いを抱く一夏は、彼女を後方に置いて、ホテルの玄関口を一人でくぐる。
「―――」
そして、ホテルから一歩出て、朝日を浴びた瞬間。
周囲の建物の屋根や屋上にたたずむ、無数の影が目に飛び込んできた。
自身を見下ろす数えきれない瞳。正面玄関を包囲するように配置された彼等、兵士は、アサルトライフル、ロケットランチャーをそれぞれ装備している。
―――【グラディウス・ファミリア】。
予想外の展開に、一夏は凍りつく。
待ち伏せていた兵士達は彼が出てくるなり武器を構えた。
小隊長と思しき、襟巻きで口元を隠す男、彼が片手を上げた瞬間―――一夏は脇目も振らず反転した。
未だホテル内にジャンヌのもとまで疾走し、驚く彼女を抱き着いて、押し倒すようにホテルの奥へ飛び込む。
間髪入れず、男の手が振り下ろされ―――大爆発が起こった。
● 〇 ◎ 〇 ●
「何だ何だぁ?」
「火事か!?」
「朝っぱらから傍迷惑ねぇ……」
別のホテルに宿泊していた更識一行がホテルから飛び出す。大通りを歩いていた一般人も驚いて爆発の方角を振り仰ぐ中、彼女達の視線の先では煙が立ち上がっていた。
「あの方角って、確か……」
煙の方角に一夏達【リオネス・ファミリア】一行が宿泊しているホテルがあった。
激しい爆音が立て続けて起こる。
「あのバカ。本気でやりやがったの!?」
事態に気付いたのか、大通りを歩いていた市民達は青ざめ、瞬く間に避難を始めた。
楯無もジャンヌと同じで数日は手を出してこないと考えていたが、まさか次の日にアルメスが喧嘩を吹っ掛けてきたのだ。
しかも、一般人がいる中で。
「虚ちゃん。動ける者だけでいいから、避難誘導を」
「は、はい!」
虚は、楯無の指示に従い、一般人の避難誘導を始める。
← ↙ ↓ ↘ →
相次ぐ轟音に、発生する衝撃波。
対戦車ロケットランチャーが着弾し、ホテルが破壊される。
「っっ!?」
その一方、建物の裏手で勢いよく壁が吹き飛ぶ。
ホテルの裏口から脱出した一夏が、煙とともに吐き出された。ジャンヌを胸の中に抱え込んだ彼の後ろには、粉塵を巻き上げ前半分が瓦礫の山と化す、見るも無残なホテルの姿があった。
「―――死ねぇ!」
戦慄する暇も許さず、一夏に刺客が襲いかかる。
あらかじめ裏手で待ち構えていたのか、複数の完全武装の兵士が短剣を持って頭上より奇襲した。一夏は咄嗟に左腕でジャンヌを抱き締め、右手で短剣ごと受け止める。
兵士を蹴り飛ばし、短剣を奪い取ると、残りの敵の斬撃を打ち返す。
(―――仕掛けてきたか)
白昼堂々と、街の中で。
容赦なく攻撃を加えてきた相手、【グラディウス・ファミリア】に一夏は動揺を重ねる。
闇討ちではなく、敵は堂々と、ためらいなく、一夏達に攻めかかってきた。
ウォーゲームに応じなかったから実力行使に出てきたのだ。
「あのバカ、ウォーゲームに応じなかったからって、白昼堂々と戦争を吹っ掛けてくるとか、アホでしょう!?」
ジャンヌはアルメスの予想外な行動に頭を悩ませる。
「人気のない場所に移動して頂戴。ここでは被害が増す一方よ」
「了解だ」
一夏はジャンヌを抱えて走り出す。
「そっちに行ったぞ!!」
道の両端に連なる家屋の上に、都合十名のロケットランチャーを持った兵士が姿を現す。
左右に五名ずつ、対戦車ロケットランチャーが一夏に照準する。
ジャンヌの呼吸が止まる音を耳もとで聞きながら、一夏は、眦を吊り上げた。
身体を前に倒し、道の先のみを見据え、地面を蹴り付ける。
左右頭上から放たれた一斉射撃を、前方へ疾走することで背後に置き去りにした。
『な!? 避けやがっただと!?』
普通の人間では到底できない方法で回避し、一夏はそのまま走り続ける。
難を逃れた一夏の視線上、建物の屋根の上で並走してくる兵士達。
―――完全に包囲されているな。
次々と新手が沸いては、埒が明かない。
「一夏、行き止まりよ!」
振り落とされまいと必死にしがみついているジャンヌの悲鳴。
道の奥、巨大な人家の壁が立ちはだかっている。
「しっかりと摑まっていろよ」
へっ? とジャンヌが目を丸くする中、一夏は勢いをつけ―――壁の上を走る。
一夏の人間離れした行動に包囲していた兵士達も言葉を失う。
(人気のないところは―――)
「諦めた方がいいですよ」
「!」
背後から投げられた声に、振り返った。
同じ人家の屋根に立っていたのは、先日のパーティーの招待状を持って来た少女だった。
「アルメス様から決して逃げられない。それが手に入るまで、決して」
彼女の言葉を聞いて、ジャンヌが表情を歪めた。
「アルメスの執着を甘く見ていたわ……!」
彼女の話を聞き、手段を選ばずジャンヌを奪取しようとしているアルメスの神意に気付いた。
―――
ジャンヌが『パーティー』の際に発した言葉が、一夏の脳裏にも過ぎった。
「一夏、目的地変更よ」
「【グラディウス・ファミリア】だな?」
「えぇ。令呪を以てイチカに命じわ。私たちの邪魔する者は、一人残らず殲滅しなさい!」
「yes.my master.」
ジャンヌの背にある令呪が輝き、命令が受理された。