インフィニット・ストラトス ~七つの大罪をその身に宿した者~ 作:ぬっく~
「で、何のつもりだ」
「ん?」
朝食後。
モスクワの街を並んで歩く二人。
「君に興味を持った。それが本音かな」
「……祝福か」
「それもあるけどね」
楯無は肩をすくめる。
「あれだけの力、気にならない方がどうかしてるわ」
一夏は一瞬だけ視線を落とす。
「……先に言っておく。これ以上は機密だ」
「あら、優しいのね」
軽く笑う楯無。
だがその目は、しっかりと探っている。
(無理に聞き出す気はないけど……)
(拉致でも監禁でもしたら、終わりね)
リオネス家。
その名を知らぬ者はいない。
そして――近づいた者が“消える”ことも。
(門番がいる、だったかしら)
裏社会では有名な話だ。
“あそこには、もう一人いる”と。
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『速報です――織斑十秋選手が再び――』
ふと、一夏の足が止まる。
視線の先。
店頭のテレビ。
映し出される少年。
『正直、期待外れでしたね』
淡々とした声。
『あそこまで退屈な試合になるとは思いませんでした』
世界大会、全試合圧勝。
汗一つかかずに。
「……どうしたの?」
楯無が覗き込む。
「いや、何でもない」
すぐに歩き出す一夏。
だが――
ほんの一瞬だけ。
その目に、“感情”が宿った。
楯無は振り返る。
テレビの中の少年を見る。
「……織斑十秋」
言葉にした瞬間。
背筋に、ぞわりとしたものが走る。
(……嫌)
理由は分からない。
だが本能が拒絶する。
(関わっちゃダメなやつだ)
楯無は無言で、一夏の背を追った。
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### ◇ 日本・リオネス家
「お嬢」
風を切る音。
バルコニーの手すりに、“それ”は降り立った。
大鎌を担いだ老人。
常識外れの軽さ。
「新聞じゃ」
ひらりと投げ渡される。
ジャンヌは本を閉じ、それを受け取った。
「……ふふ」
紙面に映る少年。
「やっぱり、転生者は規格外ね」
「カカカ! お嬢が言えることか?」
「それもそうね」
紅茶を一口。
そして視線だけを向ける。
「アラン」
「なんじゃ?」
「そこに着地するなって、何度言えば分かるのかしら?」
「おっと、こりゃ失礼」
軽く降りる老人。
だが、その目は笑っていない。
「最近は襲撃もなくてのう……退屈で仕方ない」
「平和でいいじゃない」
「儂はよくない」
低い声。
「この力を得てから……身体が“思い出してしまった”」
戦いを。
血を。
死を。
「満たされんのじゃよ」
ジャンヌは小さく息を吐く。
「それは〈祝福〉じゃなくて〈呪い〉よ」
「ほう?」
「その力は、“真実”しか許さない」
嘘をつけば、石化。
例外はない。
「自分も含めて、ね」
沈黙。
そして――
「ならば」
一瞬で距離が消える。
大鎌が振り下ろされる。
空気が裂ける。
バルコニーが、消し飛ぶ。
「……」
静寂。
「――それで?」
声。
「もう終わりかしら?」
「な……に……?」
ジャンヌはそこにいた。
何事もなかったかのように。
ただ一つ違うのは――
その指。
三本の指で、大鎌の刃を止めていた。
完全に。
微動だにせず。
「これが……〈裁定者〉……」
アランの声が震える。
ジャンヌは本を閉じた。
その瞬間。
衝撃。
アランの身体が“折れ”、吹き飛ぶ。
屋敷の門の彼方へと消えた。
振り返る。
屋敷の屋根が消えている。
遠くの山が、削れている。
「……やりすぎね」
ため息。
「イチカが帰ってきたら、直してもらいましょう」
まるで、壊れた家具を直すような口調。
ジャンヌはそのまま、屋敷へと戻っていく。
――そして。
数ヶ月後。
世界は、“本当の意味で”壊れることになる。