ばんきっき回。モフ率少なめ。
ただのラブコメになってしまった。
最近の私は、もっとおかしい。
何故あんなにも柄ではないことを言ってしまったのだろうか。翌日になって後悔している。
違うから。『楽しみにしてる』ってのはあれだから。美味しい料理を期待してます的な意味だから。他意とかないから。断じて。
……誰に言い訳してるんだろう、私は。
ともあれ、 私から行くと言ってしまった以上、行かなければならない。正確には、目の前の扉を開かなければならない。
今の私は、喫茶店の前で眠っているすくすくを撫でながら時間を潰している。
うむむ……ちょっと早く来すぎたかな……これじゃ私がすごく楽しみにしてきたと思われないだろうか……。
「きゅー?」
あっ、起こしちゃった。
ごめんねモフモフ。なでなで。
ふぅー……おちつけ私。
今日は私1人だけ。
暇だったから早く来ただけ。言い訳はこれで十分。あの適当な男のことだ。妙な詮索はしてこないはず。
軽く深呼吸しながら覚悟を決め、私は店内へと入る。
「きゅー」「むきゅー」「きゅー!」
「きゅー?」「きゅー!」
迎えてくれたのはたくさんのモフモフたちと。
「いらっしゃいませー! さぁ!こちらの席に座るが良い!」
無表情でビシッとポーズを決める、エプロン姿の面霊気だった。
おうふ。
――――――
「勉強の一環だ。 働くことでわかる表情や感情もあるはずだ!」
「きゅー!」
面霊気はポーズを決めながら、頭に彼女自身のモフモフを乗せてそう言う。噂には聞いていたが、本当に顔以外は感情表現豊かな奴ね。
ナナスケが言うには『不定期のバイト』。 たまにやって来ては、バイトしたり舞を踊ったりしてるらしい。
「こちらとしても人手が欲しかったところなので、非常に助かってるんですよ」
「ほめられたー。てれるー」
そう言いつつも無表情。
とてもそうには見えない。
しかしこいつら。並んでいると兄妹みたいだ。主にポーカーフェイスなところがソックリ。無表情は引かれあうのだろうか。
それにしても、バイトか。あの時は恥ずかしくて断っちゃったけど……少し勿体無かったかな。
……また勧誘してくれないかなぁ。
……。
うん。わかってる。今私、また柄にもないこと考えてたよね。
……仕方ないじゃん。私の勘違いでもさ、あんなこと言われたら意識しちゃうよ………ああもう、顔が熱い。
真っ赤になった顔を、ひんやりしたモフモフで冷やしていると、リンゴの良い香りがキッチンから漂ってくる。
「アップルパイがそろそろ焼けるな。俺が運ぶから、こころちゃんは引き続き接客をよろしくね」
「任せろ!」
キッチンへと向かうナナスケを見送る私たち。
「……今日のナナスケは一段と嬉しそうだ」
えっ。そうなの?
「うん。昨日からウキウキしてた。聞いたら『ばんきっきさんが来るから』って。ばんきっきとは誰だ?」
…………。
「お? ねぇねぇお客さん。それはなんの表情?」
……うっさい。
『すくすくを頭に乗せたエプロン姿のこころちゃん』を妄想したら、心がぴょんぴょんしました。誰か描いてくれないかなぁ(叶わぬ願い)