「きゅー」「きゅー?」
「きゅー!」「きゅーっ」
昨日の今日で、ウサ耳すくすくが4匹に増えた。こころがびょんぴょんするね。
すくすくうどんげ、すくすくてゐ、すくすくせいらん、すくすくりんご。実に色とりどりである。
すくすくりんごは永遠亭の帰り道に保護した。お団子が大好きなモフモフである。
「きゅーっ!」
お団子のおかわりを求めるすくすくりんごだが、餅米のストックは残りわずか。
今日はもう我慢してね。
「……きゅー」
あっ、いじけた。
でもこればっかりは仕方ない。
後でお詫びのお菓子を作ってあげよう。
――――――
どうぞ、ご注文のもみじ饅頭です。
「……文様。これは?」
「もみじ饅頭です。ささっ、私に構わずパクッと一口!」
「……なぜカメラを構えているのです?」
「シャッターチャンスは何時何処で訪れるかわからないものなのですよ」
「……新聞の見出しは?」
「『もみじ、もみじを食す! 秋の和スイーツに犬走レポーターも絶賛!!』 ちなみに、もみじ饅頭を頬張る椛の写真で1面丸々使います。 これは男性講読者が増えますよ! ありがとう椛! 」
「ありがとう、じゃありませんよ!」
荒ぶる白狼天狗さんこと椛さん。
噂通りふわモフの耳と尻尾をしてらっしゃる。
こういう場面、いつもの俺なら椛さんに味方するけど、今回ばかりは文さんの味方なのである。
実は先日『真面目に宣伝しますので再度取材させてください』と文さんに土下座で頼まれたのだ。
「嫌ですよ私! 新聞に載るなんて恥ずかしい! 大体なんで私なんですか!」
「椛。『秋の新聞大会』がもうすぐあることは知ってますね?」
「え? あ、たしか、はたてさんがそんなこと言ってたような…」
「優勝者には一攫千金。 その為にはホットな話題と可愛い女の子が必要不可欠なのです。 あ、真面目な大会なので嘘は書けませんから、ちゃんと食レポしてくださいね」
「いろいろハードル高くないですか!?」
まぁ、そうゆうことである。
今回の文さんは、本気と書いてマジと読むほどガチなのだ。
だからお願いです椛さん。食べて撮られて1面を飾ってください。お代は要りませんので。
「すくすくさんのお写真も載せますね。さぁ、 綺麗に撮ってあげますよー」パシャパシャ
『きゅー!』
すくすくも本気である。
いや、単に新聞に載りたいだけかも。
「で、でも急にそんなこと言われましても……私、食レポなんてやったことないですよ……?」
「ご心配なく。椛はただ食べるだけで大丈夫ですから」
「え?」
「この方に、椛が思ったことを代筆していただきます」
「『可愛いだなんてそんな……えへへ……』 ふむ、満更でもなさそうですねモフモフ天狗さん」
「うわああああああ!?」
覚の瞳で心を真っ裸にするのは、モフモフソムリエのさとりさん。
さとりさんも、文さんに土下座で頼まれたらしい。文さんの本気度が伺える。
椛さんが食べ、さとりさんが赤裸々な感想を読み取って書き出し、それを元に文さんが新聞を作る。椛さんの扱いを除けば完璧だと思う。
ちなみに椛さんが選ばれた理由は『真面目で純粋だから』だそうだ。がんばれ椛さん。
「もちろん、ナナスケさんのことも載せますよ! ちなみに、さとりさんから見てナナスケさんはどんな人ですか?」
「そうですね……素晴らしいモフテクニックの持ち主です。うちのお燐も虜になりましたから」
「なんと! じゃあナナスケさん、椛を撫でてください! どれだけ気持ち良いか、レポートして貰いましょう!」
「や、やめてください! ホントに! せ、セクハラで訴えますよ!」
ナデナデ
モフモフ
ナデモフナデモフ
「ふわぁ……くぅん……えへへ……」
「うおーっ!椛の恍惚顔ーっ!」パシャパシャ
「……ふむ。書き出すには些か恥ずかしい内容ですね。あ、私もモフモフしていいでしょうか?」
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後日談。
椛さんからの信頼を犠牲に作られた文々。新聞は、見事優勝を果たした。
椛さんの写真が一面にドーンと載った新聞は、それはもう飛ぶように売れたのだとか。
真面目に作られただけあり、内容もちゃんとしたものとなっていた。本来なら当たり前のことだけど。
「きゅーきゅー!」
「きゅーっ!」
すくすくの写真と記事もしっかり載っていた。
すくすくたちはその部分だけを切り取って、毎日読んでいる。気に入ったらしい。
新聞を読んで喫茶店に来てくれたお客様もたくさんいたが、来てくれたのは人間だけではなかった。
「「きゅー」」
新聞を持った2匹のモフモフが、喫茶店にやってきたのだ。
ピョコンとしたサイドテールが特徴的な銀色のすくすくと、メイドカチューシャを着けた金色のすくすく。
2匹が入ってきたとき、すくすくアリスが驚いたような反応をしていた。知り合いなのだろうか?