前話のばんきっき視点です。
真面目に書いたので真面目なラブコメ回になってます。後悔はしてません。
「阿求さんがきっとピンチです。稗田家に行きましょう」
ん、いってらっしゃい。
………………。
えっ? 私も行くの?
「きゅー!」グイグイ
ちょ、モフモフ。引っ張らないで。
わかったから。ついてくから。
――――――
稗田阿求。
幻想郷に住む人妖で、彼女の名前を知らないものはまずいない。それぐらいの有名人。
当然、そんな有名人と私の間に接点はない。直接会話したのは『幻想郷縁起』の取材をされたときの1回だけだ。
喫茶店に行く度「今日もおる……」と思っていたけれど、毎日来ていたとは知らなかった。流石は名門稗田家、相当裕福なんでしょうね、羨ましい。
外見だけなら生まれて十数年の人間だが、実は転生を何度も繰り返している存在だ。稗田の精神、魂は、妖怪の私より歳上かも知れない。
「ゴホゴホッ……うぅ……悔しいです……私の皆勤賞が……」
「きゅー」
いや、意外に子供かも。
身体を起こして悔しそうにすくすくをモフモフしている姿は、外見相応の少女だ。
――――――
「ゴホゴホッ……えーっと、ろくろ首さんも来てくださってありがとうございます」
ナナスケがキッチンに向かうため部屋から出た後で、稗田が口を開いた。相も変わらずすくすくをモフモフしながら。
「蛮奇でいいよ。それにお礼も要らない。私はアイツに付いてきただけ」
正確にはモフモフに引っ張られて仕方なく、だけどね。
限りなく他人に近い者のお見舞いに行くほど、私の心は広くない。ましては、名門稗田家に媚を売るつもりも、借しを作るつもりもない。
「――私は、孤高を生きる妖怪だから」
……ふっ。今のはなかなか決まったな。
妖怪のカッコ良さが滲み出てるに違いない。
心の中でそう思いながら、出されていた御茶を啜る。
「……蛮奇さんって」
「ん?」
「好きですよね。ナナスケさんのこと」
盛大に吹き出した。
ちょ、え? 何で知っ……違う違う違う違う! 今の思い間違い!
「……わかりやすい反応ですねぇ」
「ゲホッ……いやいやいや! 何いきなり! 何でそんなこと聞くの!? 頭大丈夫!?」
「頭も身体も、すくすくさんのお陰でとても楽になりました!」
「きゅーっ!」
稗田は頭に冷たいモフモフを乗せたままガッツポーズする。
すくすくも「私が治した!」と言っているかのように万歳していた。
「それで、実際どうなんですか? 私、とっても気になります!」
「きゅー?」
心なしか楽しそうな稗田と、よくわかってなさそうなモフモフ。
この娘……人の恋バナで飯が食べれるタイプの人間だったのか……くっそう……苦手なタイプだ……!
いや、ちょっと、落ち着け私。
ここてテンパってはダメだ。私の経験上、頭を冷やして冷静に言い返さねば、次に何を言われるかわかったもんじゃない。
焦ったら敗けだ。
ゆっくり、確実に否定しよう。
「ま、まぁ確かに? 意識してた時期もあったけども、それイコール好きってわけじゃないから。百歩譲って好きだとしてもlikeの方だから。 この前『月が綺麗ですね』ってアイツに言ったけど 、そのまんまの意味だから。 深い意味とかないから。 夏目漱石とか知らないから!」
あぁーダメだ! 全然落ち着けてねぇ!
絶対要らんことまで口走ってるわ私! 絶対早口になってるわ私!
「じゃあ、私が貰ってもいいですか?」
「……えっ」
稗田のその一言に、私は固まった。
「すくすくさんは好きです。可愛いですし、一日中モフモフしてあげたいぐらい大好きです」
「きゅーっ!」
「ですが。それ以上に、私はナナスケさんが好きです。無愛想だけど優しくて、一緒にいると不思議と楽しいんです」
「毎日喫茶店に通う本当の理由は……稗田阿求として少しでも長く、ナナスケさんと一緒の時間を過ごしたいからなんです」
何も、言えなかった。
あれ。なんだこの気持ち。
ナナスケと私は知り合い程度の仲だ。別にどうってことない。アイツの隣に誰が立ってても、私には関係ない。
そう、関係ないんだ。
何故なら私は、孤高を生きる妖怪だから。
私は孤高を……生きて……
孤高に……一人で……
「わ、私も……」
一人は……寂しかったな……
「私も好きだから! ナナスケは絶対に渡さないから!
やっぱり、渡したくない。
ろくろ首の私を助けてくれたアイツを。
孤高と言い張る私の心に、ズカズカと入り込んではメチャクチャにしていくアイツを。
妖怪である私が来てくれることを、楽しみにしてくれているアイツを。
渡したくない。
だって、やっぱり、本当は、大好きだから!」
「……それが、本心なんですね?」
私は黙って頷く。
稗田の寿命が短いのは知っている。だからって身を引くほど、妖怪の独占欲は弱くない。
恋のライバル……そんな関係も、ときには良いかもしれない。絶対に負けないから。
「ちなみに、今まで私が言ったこと。全て冗談ですって言ったら、怒ります?」
…………。
えっ??
「あはは……ごめんなさい。とても面白い反応でしたので、少しからかいたくなっちゃいました。 私、蛮奇さんの恋路を陰ながら応援します♪」
「きゅー!」
……え、ちょ 何それ。
何その笑顔。何その音符マーク。
冗談? 今までのくだり全部?
嘘でしょ? それこそ冗談でしょ?
「いやぁ……しかしまぁ。そこまでゾッコンでしたとは……聞いててちょっぴり恥ずかしくなっちゃいました。 恋の病は女の人を変えますね!」
ウワアアアアあああぁぁぁぁぁ!!
ウオアアアアアあああぁぁぁぁ!!
嵌められた! 恥ずかしい!死にたい!
私、どこまで口走ってた!? 夢中だったから覚えてない! 全部だったら首吊って死ぬ! 首ないけど!
ああ! 今の稗田、いや阿求は
そんな目で見るな! 風邪悪化してしまえ!
うおお……とにかくアイツが戻ってくる前に、顔の火照りをどうにかしないと……ちょっとごめんモフモフ、顔埋めさせて。
「きゅー?」
ああ……冷たくてモフモフ……。
でもしばらく……収まりそうにないや……。
こんなに真面目な回()はきっと最後です。
次回から最後まではモフモフコメディで突っ走ります!