せっかく地底へ来たのだから、旧都の方にも行ってみようと思う。お土産も買わなきゃいけないし。
しかし、地底は地上と異なり、人間が一人で出歩くには危険な場所である。
モフモフに埋もれたままのさとりさんに相談してみると。
「でしたら、お燐を連れていくと良いでしょう。この娘が一緒なら危険はありません」
そんな答えが返ってきたので、ボディーガードよろしくね。お燐ちゃん。
「にゃーん!(安心しなよ! もしものことがあっても、お兄さんの死体は大切にするから!)」
いい返事だ。命を預けよう。
「きゅー!」
すくすく萃香も一緒に行きたいようだ。お酒が盛んな所だからかな。よっしゃ来い。
そんなわけで。
右肩にお燐ちゃん、左肩にすくすく萃香、頭にすくすくパルスィを乗せて、スタンバイOK。
いざ行かん。未知なる世界、旧都。
――――――
お昼過ぎにも関わらず、多くの妖怪の笑い声で居酒屋が賑わっている。
地上では絶対に見られない光景。さすが地底だ。
「! きゅーっ!」
何かを見つけたのか、すくすく萃香が肩から飛び降りて、一軒の居酒屋に入っていく。
「きゅーっ!」
「おっ、見たことない妖怪だね。新入り? 飲む?」
「ようかい……なの? それにしては……かわいいような……」
「ん? その角、萃香じゃないか! えらく可愛くなったなお前!」
「きゅー?」
「何この愛嬌……あざとい……あぁ妬ましい……」
追いかけるように入っていくと、そこには見たことある3人の金髪女性と、桶に入った1人の少女が。
失礼。女子会中でしたか。
――――――
「ほう、アンタが古明地が言ってた人間か。あんまり強そうじゃないねぇ。まぁ飲みな!」
自己紹介を終えると、勇儀さんがそう言って巨大な盃を渡してくる。ごめんなさい、人間用のをください。
「あの菓子を作った人間かぁ、なかなか美味しかったよね」
「まかろん……おいしかった……です……!」
どうやら地底の妖怪にも、うちの料理は口に合ったようだ。正直不安なところもあったから、ちょっと安心。
これは喫茶店『モフモフ』地底店も夢ではないかも……。
「……で、このモフモフは何よ。それで私のつもりなの?」
「きゅーっ」
「はっ……私はこんなに愛くるしくなければモフモフもしてないわよ。それで私を語るなんて嫌味なの?妬ましい」
「きゅー!」
「………ね、ねたましい」
そう言いながらも、すくすくパルスィの頭を撫でる橋姫様。多分、言うほど妬んでないと思う。
あ、そうだ。地底に来れる機会なんてなかなか無いし、一応聞いておこう。
地底で他のすくすくを見ませんでしたか?
「うちは知らないなぁ。キスメどう?」
「……この子?」
「きゅーっ!」
キスメちゃんは一度桶の中に潜ると、小さい桶を持って出てきた。中にはもちろん、すくすくキスメが入っている。
曰く、今日の朝起きたら桶の中に居たのだとか。狙ったようなタイミングである。
この流れなら、ヤマメさんのモフモフも何処かにもいると思うのだが……。
「えっ、うちの? そうだね……もしうちがモフモフだったら、天井の隅っこに巣でも作ってるかな!」
「きゅー」
「……うわっ、ホントにおる……」
自分で言って自分で落ち込んでるヤマメさん。「うちってそんなに安直?」って。まぁ蜘蛛ですし。
糸を使って器用に降りてくるすくすくヤマメをキャッチ。どうやら手から糸を出せるようだ。
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ただいま帰りましたよん。ひっく。
「お帰りなさいナナスケさん……まぁ、酔ってますね。とても」
「お兄さん、意外に弱いんだねぇ」
「きゅー……」
人型お燐ちゃんの猫車に乗せられて、地霊殿に戻ってきましたよーっと、ひっく 。
いや、俺が弱いと言うか、あの人たちがおかしいんですって。あの後、結局あの盃で飲まされましたし。んもーホント死ぬかと思いましたよー。
でも気分は悪くないですよー。今なら何でもできそうな気がきます。愛の告白だって余裕のよっちゃんですよ。今から行く? 行っちゃいます?
「……大変面白そうですが、後悔したくないのなら、そのまま眠ることをオススメします。お燐、寝室へ連れていってあげてください」
「はーい」
「あ。すくすくさんはこちらに来てください。一緒にお風呂に入りましょう」
『きゅーっ!!』
あー…なんかとっても良い気分だなぁー…。