――― GSチャット ―――
@七生透
>そんなわけで、すくすくたちの方を
>よろしくお願いします。
@ゆかりん(14)
>よろしくお願いされたわ。
>でも、貴方は良いの?
@七生透
>俺は大丈夫です。
>1人じゃありませんから。
――――――
時が経つのは早いもので、あっという間に立春を迎えた。
立春とは、暦上で春が始まる日。また、冬の寒さが和らぎ始める日のことである。
和らぎ始めると言うことはつまり、今はまだとても寒く、春にはほど遠い気候だと言うことだ。
「き、きゅー……!」
そんな中、すくすくリリーが寒さに負けずにやってきました。春告精も大変である。暖かい店内にお入りー。
――――――
そんなわけで、今日はみんな大好き宴会の日。水ようかんの準備も万端である。
今日の宴会は博麗神社にて行われる。博麗神社には、俺が幻想入りして間もない頃、1度だけ紫さんにスキマで連れていってもらったことがある。人里からだとかなり距離があるらしい。
つまり、俺は博麗神社までの道のりを知らないのだ。
ここまで言えば、わかりますよね?
「……うん。一緒に行こ」
お願いします。
――――――
「そう言えばさ。チャットの名前、あれって本名なの?」
「きゅー?」
博麗神社への道中、黄色いモフモフを頭に乗せたばんきさんがそう聞いてきた。
そうですよー。七生 透、俺の本名です。
ナナスケは中学時代からのあだ名ですので。
「……そうなんだ」
「きゅー!」
俺が答えると、ばんきさんは少しだけ顔を赤くして、何か考えるように黙り込む。
対して黄色いモフモフは、そうなのかー!と言わんばかりに元気よく鳴いてくれた。
言わずともがな、すくすくルーミアである。頭のリボンを取ったらどうなるのか、気になるところである。
「……ねぇ」
ん?
「私はアンタをあだ名で呼んでて、アンタは私のことを名前で呼んでるよね」
まぁ、そうですね。
「……私も、名前で呼んで良い?」
……。
繋いでいた手は、不思議と指が絡まっていった。
――――――
「いらっしゃいナナスケさん! 素敵なお賽銭箱はあっちよ! 覚えといてね!」
博麗神社に到着して早々、霊夢さんがグイグイくる。参拝しにきたわけではないけど、小銭を用意しておこう。
俺とばんきさんが到着した頃には、多くの人妖の方々が揃っていた。思っていた以上に長い道のりだったから、その分時間もかかったみたいだ。
紅魔館、守矢神社、命蓮寺、永遠亭の方々などなど。宴会参加者に知らない人はいなさそう。と言うか常連さんしかいない。幻想郷は広いようで狭いなぁ。
「ばんきちゃーん! こっちー!」
遠くの方でばんきさんを呼びながら手を振る影が2つ。草の根の方々だ。
名残惜しいが仕方なく、繋いでいた手を離したところで、ばんきさんが呟く。
「……また、後でね」
うん。また後で。
「霊夢ー。ナナスケたちも来たし、そろそろ乾杯しようぜー」
「そうね、面子も大体揃ってるし。じゃあ乾杯の音頭を私から」
「まだダメよ霊夢」
霊夢さんがビールジョッキを片手に立ち上がろうとしたところで、スキマから現れた紫さんに止められる。
「何でよ紫」
「だって、まだ半分も揃ってないもの」
「……?」
そんな馬鹿な……と言いたげな顔で宴会場を見渡す霊夢さんを他所に、紫さんはパチンと指を鳴らす。
その瞬間、宴会場の上空に巨大なスキマが開かれた。
「きゅー」
『きゅーっ!』
すくすく紫を先頭にスキマから出てきたのは、100を超えるモフモフの大群。
俺が紫さんに頼んでおいたのだ。すくすくたちも宴会に参加させてほしいって。
全員を引き連れて博麗神社まで歩くのは少し無理があったからね。こうやって連れてきてもらったのだ。ありがとうございます紫さん。
「きゅー」「きゅー!」
「きゅ?」「きゅー」「きゅーっ!」
「宴会でもモフモフできるなんてっ……!」モフモフ
「ホントに好きだね阿求は」ナデナデ
「きゅー♪」
幸せそうにモフモフ四天王をモフモフする阿求さんと、それを眺めながら自分のすくすくを撫でる小鈴ちゃん。
「「きゅ!」」
「ふっ。このレミリア・スカーレットが飲み比べでモフモフに負けるとでも?」
「お嬢様。そのすくすく、鬼です」
「えっ」
すくすく萃香とすくすく勇儀に死亡フラグを建てるレミちゃん。
「どの子もとっても『良いモフ』ですね。」
「ええ。私も永く生きてきたけれど、今日が一番の『良いモフ』だわ」
「この『良いモフ』との出会いに感謝を。ありがとうナナスケさん。……おやおや、おめでとうございます」
「きゅー!」
何故かモフモフソムリエの3人に頭を下げられる俺。でもさとりさん、勝手に心を読まないでください。照れる。
単純な数だけなら倍以上に増えた宴会場は、まだ始まってもないのにとても賑やか。
すくすくリバーWithHとすくすく二楽坊、さらには本家の方々の演奏が交わり、宴会というよりお祭りに近い状態に。
「おおう……宴会がモフモフに乗っ取られそうだぜ……」
「きゅー?」
「……まぁ、これはこれでありね。ナナスケさん、どうせだから私の代わり音頭よろしく」
「きゅー!」
モフモフまみれの霊夢さんに重大な役を任される。
そういう役をやったことは殆どないが、無理言ってすくすくを連れてきた責任もある。ここは潔く引き受けよう。
えー、本日もお日柄良く……
「きゅー」
音頭の出だしを話始めたところで、1匹のすくすくに遮られる。
ベレー帽のような緑色の帽子を被り、眼鏡を掛けたモフモフ。ビールジョッキを片手に持ち、早く飲みたそうにきゅー、と鳴いている。
……このすくすくを待たせちゃいけないね。
うん、シンプルに行こう。
乾杯!
『乾杯!』
『きゅーっ!』
――― モフモフ幻想郷 おしまい ―――
以上をもって『モフモフ幻想郷』本編の完結です。ここまで読んで下さった読者の皆様方、本当にありがとうございました!
私の活動報告ページにあとがきを書いたので、興味のある方はどうぞ。ではまた会える日まで。
あ、1話だけ超ラブコメなおまけを書きます。
クリスマスの裏側の話です。