おまけ。
クリスマスのばんきっき視点です。
その日の私は、一日中ニヤニヤしてたと思う。
マントで口元隠してなかったら危なかった。
帰宅するなり、お気に入りのクッションに顔を埋めて、アイツから貰ったものを眺める。
喫茶店の鍵。
アイツの家の合鍵。
これってさ。つまりさ。そういうことだよね? いくらアイツが鈍感のにぶちんでも、そういう風に思ってない奴には渡さないよね? アイツもそう思ってるって受け取って良いんだよね?
………ふへへ。
ついクッションをバンバン叩いてしまう。何この気持ち。嬉し恥ずかしい。顔熱っ。
そんなことを思っていると、ポケットに入れていたすまーほが震える。
あっ、ナナスケ!
――― GSチャット ―――
@七生透
>もしかしてそっちに
>すくすくばんきっき居ません?
――――――
私のモフモフ?
「きゅー」
あ、いた。マントにくっついていた。そんなに私と遊びたかったのか。かわいいモフモフめ。
今日はもう遅いし、明日喫茶店に連れていこう。
――――――
「ばんきちゃんの、ばかっ!」
次の日。そんなことがあったのだと、喫茶店で草の根メンバーと話していたら、ペチーンと姫に尾びれでビンタされた。あたま吹っ飛んだ。
えぇ……何でビンタされたの私……。
「姫の言う通りよばんきっき。どうしてそこでチャンスを逃しちゃうのよ」
「せっかく合鍵貰ったなら、夜遅い時間にこそ行くべきだよ! 夜なら邪魔者はいないんだよ! 『妖怪の活動時間は、夜なんだよ……?』的なこと言って良い感じにチューとかできるチャンスだったのに! 」
何だかとんでもないこと大声で言われた気がする。アイツに聞こえたらどうするんだ姫。
と言うか。いやいやいや、できるかそんなこと。ち、チューなんてそんな。考えただけでも顔が熱いわ。
「でもさ、合鍵もらっただけで、付き合ってはないんでしょ? それぐらいアピールしないと」
影狼の指摘にうっ、と言葉が詰まる。
た、確かにまだ付き合ってるわけじゃないけど……でもそんな不純な目的で、あのにぶちんが私に鍵を渡したとは思えないし……。
「でも安心してばんきちゃん。 次のチャンスはもう目前だから! はいこれあげる!」
姫はそう言うと、小さな袋を私に差し出す。
中を覗くと、キラキラと輝く綺麗な石が沢山入っている。姫が霧の湖でよく拾っているものだ。
「もうすぐクリスマス、聖なる夜! 手作りプレゼントで大好きな彼にアタックするべきだよ!」
テンションのおかしい姫にそう言われて思い出す。そうか、クリスマスが近いのか。
去年までは何だかんだこの二人とパーティーしていたけど、今年は……うん。ちょっと考えよう。
姫が拾う石の中には、いわゆる『宝石』も混じっている。それを加工してプレゼントにするのは、確かに良いかも。
「手作りプレゼント! 私も大賛成です!」
『きゅー』
離れた席でいつものようにモフモフと戯れていたモフモフまみれの阿求が、当然のように乱入してきた。
どれぐらいモフモフまみれかと言うと、頭と両肩、両腕と背中にモフモフがくっついた状態で、モフモフを両手で抱いている。フルアーマーか。
……その際だから確認しておくけど、アンタは、その、良いの?
「……蛮奇さん。この前は誤解を招く言い方をしてしまいましたね」
そう言うと、モフモフルアーマー阿求は、姫と影狼の間に割り込んでちょこんと座り、抱えていたモフモフを机に置く。
そして、一言。
「私、
「「いぇーい!!」」
『きゅー!』
肩を組む3バカ。もうホント、バカ。
バカは無視して、姫から貰った石を1つずつ袋から出して見ていく。
姫の拾う石のセンスは本物であり、どれも甲乙つけ難いほど綺麗だ。その中でも、黄色く煌めく石が私の心を惹き付けた。
「それは『シトリン』ですね。『商売の繁盛』『富』と言った石言葉を持つ宝石です」
さすが阿求。そういうのには詳しいな。
稗田の知識量は伊達じゃないね。
「シトリンには『初恋』って石言葉も含まれているので、ばんきさんにはぴったりですね♪」
「「ひゅーひゅー!」」
『きゅーきゅー!』
外野がうるさい。モフモフもうるさい。後で後悔するぐらいモフッてやる。
まぁ、でも。は、初恋ってのはともかく。それ以外の石言葉はアイツにピッタリだ。
これをネックレスに加工してプレゼントにしてみようかな……。
「ネックレスをプレゼントすることには『私は貴方を独り占めしたい』って意味があるんですよ♪」
「「きゃー! だいたーん!」」
『きゅー!』
いい加減しばくぞお前ら。
――― クリスマスイブ ―――
宝石の加工作業は、自分でやると予想以上に時間がかかった。お昼にのんびり喫茶店行ってる場合じゃなかったかも。
深夜になってしまったが、何とか完成した。
シトリンの手作りネックレス。
いや、うん。深い意味はないから。純粋に、黄色をネックレスがアイツに似合いそうだと思っただけだから。独り占めとか……まぁ、したいけど。
クリスマスイブだしまだ起きてるかなーと思いながら、夜の喫茶店にやって来たが、電気が消えてるからたぶん寝てる。
……こっそり入っちゃおう。
合鍵を使い、音を立てないようにして真っ暗闇の喫茶店に忍び込む。
妖怪の活動時間が夜って言うのは、あながち間違いではない。妖怪の力は夜にこそ発揮されるものだ。私も例外じゃない。
つまり、妖怪は夜目がきくのだ。この程度の暗闇なら、明かりをつけなくても普通に歩ける。
さて、アイツはどこで寝てるのやら。
――――――
「……zzz」
「きゅぅ……zzz」
数分後、モフモフに囲まれながら眠っているナナスケを発見。阿求が羨ましがりそうな光景である。
コイツの寝顔、初めてみたな……。
ほっぺたつんつんしちゃえ。
「……んにゃ……zzz」
うわっ。んにゃって。かわいっ。
おっと。こんなことしてる場合じゃなかった。
完成した時間が遅かったのもあるが、直接手渡すのも恥ずかしいからね。ナナスケはサンタからプレゼントを欲しがってたし、サンタから贈られてきた体でプレゼントを置いておく。
自分の想いは、もっと別の機会に伝えよう。
ナナスケの枕元にそっとプレゼント箱を置いて、任務達成。起こさないうちに帰らないと。
『チューとかできるチャンスだったのに!』
……何でこのタイミングで姫の言葉を思い出すかなぁ、私。
……さっき、ほっぺたつんつんした感じ。そう簡単には起きなさそうだったな……。
……私はプレゼント贈るのに、私はプレゼント貰えないのは不公平だよ、ね?
……め、メリークリスマス。
☆ほんとのほんとに終わり☆