みんゴルをリアルに表現したらこうなった   作:バラセン

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newみんなのGOLFが楽しすぎて書いた。



みんゴルをリアルに表現したらこうなった

「ーー選手!優勝おめでとうございます!今回の優勝で今季国内賞金ランキング一位を確定させました。今のお気持ちをお願いします!」

 

「ありがとうございます。応援してくださった皆様のお陰で勝つことができました。今はホッとする気持ちもあります。ですが私は、それを超えてわくわくしています」

 

 

優勝者インタビューの場には多くの記者が押し掛けていた。

 

今回優勝した選手はアマチュアのころから結果を出し続け、さらにその甘いルックスから今最も勢いのあるイケメンゴルファーとして騒がれているのだからその扱いも当然といえる。

 

とある記者が質問をする。

 

 

「それは…大会前のあの宣言を実行する、ということでしょうか?」

 

「はい。この優勝を機に私はあの島に向かいます!」

 

 

ざわざわ…

フラッシュが一気にたかれる。

 

あの島。

 

番組側はその選手のコメントにある「あの島」に関する情報を実況アナウンサーに読み上げさせる。

 

 

曰く、スズキなる人物が所有する人工島である。

 

曰く、世界有数のゴルファーを集めて日々技術の向上を目指して切磋琢磨している。

 

曰く、招待以外にその島の選手になる方法はなく、才能があれば子どもでも招待される。

 

曰く、選手の本名は伏せられ、ニックネームで登録されている。

 

曰く、その島の選手の実力は国内のトッププロ以上である。

 

曰く、それを信じなかった当時賞金王だった選手がその島の選手である小学生くらいの子どもとの試合に負けて引退に追い込まれた。

 

曰く、その島に招待されることはプロゴルファーの憧れである。

 

 

長くなったがまとめると大体こんな感じだ。

最近この国に限らず、外では誰も彼もがすごい場所のようにこの島のことを話すようになった。

 

だけど彼らの中に実情を知るものはほとんどいないのだろう。

でなければ外のゴルファーがここに挑戦しようなんて思わないはずだから。

 

 

「おーい。また日本のテレビ番組なんて観てないで試合してくれよー」

 

「やぁだよ。俺は忙しいんだ」

 

「ぶー」

 

 

肩越しに振り返れば一番ウッド、所謂ドライバーを持った少年が頬を膨らましていた。

 

 

「というか、この日本のトッププロ倒した小学生ってお前のことだよね」

 

 

少年はテレビに目を向けると「うーん、そうだっけ?」と全く覚えてない様子だ。

 

当然か。こいつは毎日のように誰かと試合しているのだから相当強いやつか変なやつでもなければ覚えてないのも無理はない。

 

 

でも俺は覚えていた。

 

多分こいつとの試合前から小学生の相手なんかできるかーとか受付でギャーギャー喚いていたオッサンのことだろう。

 

この島で一度でも大会に参加すれば見た目で相手を侮るなんてことは絶対にしない。

むしろ見た目がイカれているやつが現れたら実力者である可能性を疑うくらいだ。

 

だからこそ、そのオッサンがここに来たばかりの新人だと気づいたし、ついでに試合後の落ち込んだ姿があまりにも哀れで記憶に残ってしまったのだ。

 

 

「ねぇータツは今月の大会は出るよね?」

 

「あーまー考えとくよ」

 

「ついさっきコースが決まったんだよ。下見もかねて一緒にまわろうよー」

 

 

島にはコースが存在しない。

新しく招待されてきた人はよく勘違いするが島は大会の受付などを行うただの待合室のようなものだ。

スズキ会長所有のコースは世界各地に点在している。

それらのコースに向かうには専用のジェット機が用意されており、選手はそれに乗って向かうことになっている。

 

 

それにしても、そうか。決まってしまったか。

少年の言うその大会は毎月開催される島の大会としては最も規模が大きい全国大会と呼ばれるものだ。

しかしモチベーションは欠片も上がってこない。

 

というのも他の大会と異なり、賞金は一切でないのだ。上がるわけがない。

大会スポンサーからもらえるものは参加賞の限定グッズのみ。

やってられるか!

 

選手は全員、島の運営側から家と食事が提供される。

しかも元々外でトッププロだったものが多いためなおさら金に困ることは少ない。

しかし、全く困らないわけじゃないのだ。

というかその該当者が今ここにいる。

 

 

「なんで賞金出ない大会に参加せねばならんのか」

 

「タツ、その理由僕でもわかるよ。タツみたいなお金の使い方してたらなくなっちゃうって」

 

「うっ」

 

 

確かにちょっと使いすぎたかもしれない。

でもしょうがないじゃないか、ここでの楽しみなんて買い物くらいしかないんだから。

 

 

「だからってこんなに服いらないでしょ」

 

 

そう指差す部屋の大半は最近買った服で埋まってしまっている。

 

 

「掃除いつも手伝ってあげてるのになー」

 

「…わかったから。準備するから先空港行ってなさい」

 

「やー」

 

 

笑顔で頷いて部屋を出ていこうとする少年。

 

 

「なんでお前はそんなに俺に付きまとうかね」

 

 

出ていく間際に少年はそんなの決まってるとばかりに振り返る。

 

 

「僕がタツの大ファンだからだよー」

 

 

そう言い放って今度こそ部屋から出ていった少年を見届ける。

 

 

はぁ、あいつ、俺くらいのやつならそれこそ腐るほどいるってわかってんのかな。

 

 

現在、島に来て三年目。

未だ大会でまともな結果を残していない。

 

最初の一年はあまりの差に目眩を覚えた。

 

プライドだってあった。

悔しくて練習だって真剣にした。

むしろ人生で初めてあそこまで本気で取り組んだかもしれない。

 

 

そこから二年、中堅プレイヤーとまで言われるようになった。が、結局そこまでだ。

 

 

島にくる前、俺は天才だった。

どの大会に参加しても楽勝、負けなし。

島に来た後、俺は凡才だった。

どの大会でも勝てず、入賞すらできない。

 

 

今じゃ、練習もそこそこにバイトで稼いだ金を散財する日々。

 

虚しくない訳がなかった。

 

 

…しゃーない、久しぶりにやりますか。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「と思っていた時期が俺にもあったな」

 

「なんでー」

 

 

少年はさっきまで愛用のウェアを着てヤル気満々にクラブを振り回してただけにその落ち込んだ姿は不憫であった。

 

 

「まぁコースが発表されればそりゃあ人が集まるだろうよ」

 

 

しかし、コース直結の空港からすでに行列があるなんてのは流石に考えてなかった。

空港を出れたと思えば今度は受付にたどり着くことができない。

 

 

 

「これじゃあ順番が回ってくるまでに大会が終わりそうだよ」

 

「じゃあ帰るか」

 

「そんなー」

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくださぁい」

 

 

そう声をかけてきたのは島では知らぬ人はいない有名人、スズキ会長だった。

 

 

「会長じゃないですか、どうしたんですかこんなところで」

 

「いやぁ実は困ったことになってしまいまして」

 

「はぁ」

 

 

スズキ会長の愛用のサングラスをキラリと光る。

悪い予感がする。

 

 

「まさかこんなところでタツさんに会えるなんてラッキーです」

 

「俺一応選手なんすけどね」

 

 

まさか会長にも練習しないと思われてるとは知らなかった。

 

 

「ところでタツさん、今からお時間ありますかー?」

 

「ないっす。では失礼します」

 

「ちなみにバイト代はでます」

 

「…ちなみにいくらでしょう」

 

「こんな感じでっす!」

 

 

見せられた金額に驚く。

こんなに…?

 

 

「やっていただけますかー?」

 

「やりましょう」

 

「ちょっとータツ僕のこと忘れてないー?」

 

 

すまん、少年。

今の俺はバイト戦士なんだ。

島には一人で帰ってくれ。

 

 

「そこの君もキャディとしてなら一緒に来てもらっても構いませんよー」

 

「ホントですか!やったぁ!」

 

 

バイト代はやらんぞ、少年。

 

 

「いらないよー僕お金に困ってないもん」

 

「なん…だと…」

 

「それよりもタツさんのその余裕のなさは年上としてどうでしょうか」

 

 

プライドよりも大事なものがあると思うんだ。

 

 

「はぁ…まあタツさんらしいので逆に安心しましたー」

 

「で、バイトの内容教えてくださいよ」

 

「おお!そうでした!実は…」

 

 

その仕事内容はとある新人と試合をしてほしいというものだった。

 

島では外から来たばかりの新人はそれが誰であろうと最も低いランクの大会に出てもらうことになっている。

そしてそこでの成績がより上の大会の参加資格を得ることに繋がるのだ。

 

しかし、今回の新人はぶっちぎりでその大会を優勝してしまい適切なランクが判断できないらしい。

 

 

たまにいるんだよなぁ、こういう大型新人が。

 

 

そこで会長は急遽、その新人の実力を確かめるべく試合を組むことにしたが適当な相手が見つからなくて困ってた、ってことらしい。

まぁ大会前だしなぁ。

みんな忙しいだろうよ。

 

 

「あと新人の洗礼も頼みました」

 

「あっちょっ!」

 

「よろしくお願いしまっす!」

 

 

敬礼して去っていく会長。

 

追加オーダーがあるなんて聞いてないぞ。

 

 

「洗礼、か。気が重いな」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ここか」

 

 

集合場所に到着した俺たちはすでにウェアに着替えて準備万端である。

少年もキャディ用のポンチョを着たのが初めてだったのかはしゃいでいる。

 

 

「すみません、もしかして僕の対戦相手の方でしょうか?」

 

 

これは驚いた。

今朝テレビで観ていた日本の賞金王じゃないか。

 

 

「あぁ、一応確認したいんだけどあんたの名前は?もちろんニックネームの方だぞ」

 

「ハルヒコです」

 

 

間違いないようだ。

偶然ってのもあるもんだな。

 

 

「タツだ。よろしくな大型ルーキー」

 

「よろしくお願いします。タツさん」

 

「ははっ、敬語はよせよ。大体同い年くらいじゃないか」

 

「そうで…そうだな。わかったよタツ」

 

 

案外フランクなやつだ。

テレビではもう少し硬い感じだったからどうかと思ったが仲良くやれそうだ。

 

 

「こっちのちっこいキャディは少年だ」

 

「少年?斬新な名前だね」

 

「よろしくーハルヒコ」

 

 

挨拶を終え、受付に向かう。

並んでいる他の選手には悪いが会長特権で先に受付を済ませられるのはありがたい。

 

 

「ところでタツ、僕のキャディはまだいないのだけど」

 

「あー今回はこいつが二人分のキャディをやることになってる。今回は試合だからな。基本的にキャディからのアドバイスはなしだ」

 

「それは…きついね」

 

「まぁ簡単な質問や調べればわかることなら聞いていいらしいぞ」

 

 

なら良かったよ。と爽やかに頬笑むハルヒコは受付を終え颯爽とコースの入り口に向かっていった。

 

 

「なあなあタツ、ハルヒコってカッコいいな」

 

「その上、外では実力も折り紙つきときたもんだからさぞやモテたんだろうな」

 

 

はぁあやってらんねーわ。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

やっとここまでこれた。

 

 

「ルールは9Houtストローク、ギアはスタンダード限定、ポイント計算なし」

 

 

僕の対戦相手であるタツはおそらくスズキ会長から受け取っていたルールを読み上げる。

 

 

「と、こんなもんだ。質問あるか?」

 

「いくつか。ポイントって?」

 

「うーん、簡単に言えば良いプレーをすると加算される第二のスコアだな。だから同スコアの時でも勝敗を決めることができるんだ。細かい採点は何度か大会や試合をすれば掴めるだろ」

 

「なるほど、ギアの制限っていうのは?」

 

「あーそうか、外から来たばっかりだもんな。ここには外では知られていない独自の技術があるんだ」

 

 

と言って自分のクラブをゴルフバックから取り出すタツ。

 

 

「例えば今回俺やハルヒコの使うこいつは一般的なものでおそらく外のものと大して性能は変わらない。でも他のやつらが持っている”色つき”はまず間違いなく外じゃレギュレーション違反だな」

 

 

辺りを見渡せば確かに他の選手は色々なカラーのクラブを持っている。

 

 

「色ごとに特化した能力があってな。物によってはここでさえ反則を疑うものも存在するから気を付けろよ」

 

「はは、やっぱりそっちでも世界の最先端か」

 

「嬉しそうだな」

 

 

嬉しそう?そりゃあそうだろう。

ここまでくるのに何年かけて実績を積んできたと思ってるんだ。

僕が島のことを知ったのはプロになったばかりの頃、当時はまだ噂の域を出ないあやふやな情報しかなかった時代だ。

最初は信じていなかったが、当時僕が目標としていた先輩が島に招待されたことを知り確信したのだ。

 

世界一は目標で夢じゃない。

 

それが先輩の口癖だった。

先輩がいなくなってからは僕の口癖になってしまったけれど。

今でも忘れたことはない。

 

 

「他に何かあるか?」

 

「最後にひとつ質問していいかい?」

 

 

常に天辺に、空に目を向けて生きてきた。

 

 

「タツはここではどのくらいなんだい?」

 

 

チリチリとした空気がひどく楽しい。

ここに来て最初に参加した大会は正直物足りなかったんだ。

 

 

「それは実力の話か」

 

「当然」

 

 

タツには悪いが僕は君を足掛かりにトップまでかけ上がるつもりだ。

 

 

「あー引くなよ」

 

「引かないよ」

 

「…俺はここじゃ予選を通過できてもランキングには載らない所謂中堅ゴルファーだよ」

 

「…そうか、ありがとう」

 

 

トップ、ではないのか。

今まで戦ってきたどんな選手よりも雰囲気を持っていると感じたが気のせいだったのだろうか。

それとも隠しているのか?

 

 

「じゃあ始めるか。最初のオナーは俺がやるよ」

 

 

関係ないな。

どちらでも直接確かめればいい話だ。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「あぁ気楽にな」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

ここは第8H par3、打ち下ろしのショートホール。

 

男が腕を振り抜き放たれたボールは遠く揺らめく旗に向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 

この男の放つショットは並みの風では流されない。

 

風が弱いから?

否、僕の打った球はあれほど真っ直ぐ進まない。

強く打ったから?

否、前のホールではピン側1mのベタピンを出している。

 

やっと分かった。

強烈なトップスピン、それが答えだ。

 

トップスピンは弾道を低く抑え、風の影響を小さくするがあれはその逆の発想。

弾道も幾分か低いショットだがそれ以上にスピンをかけ風を切り裂くことでその影響を抑えている。

今まで見たことのないようなスピンショットだった。

 

ボールはまるで意思を持っているかのようにグリーンに着地し、勢いそのままに一本のピンへ向かっていく。

 

 

「あー今日は上手くいきすぎだわ」

 

 

まさか入るのか!?

いや、勢いが強すぎる。

スピンによって着地後のランも失速が見られない。

 

これは、入らない。

そう今までの経験が結論を出した。

 

このままグリーンから出るはずだ。

少なくともさっきまでのようにニアピンはできない。

 

しかし、そんな予想とは裏腹にある予感があった。

なぜか?

この男が上手くいくと言ったのだ。

 

腕が、体が震えだす。

 

 

「…そんなの、ありか」

 

 

コトーン

 

 

独特な音がホール全体に響き渡る。

ここから確認はできないが、あの音を聞き間違えるはずがない。

 

結果が嘘をついた。

 

 

「入っちまったな」

 

 

男は跳んだティを拾いあげる。

 

 

何が…何が起きたっていうんだ!

 

明らかに入るような勢いではなかった。

最悪ピンにぶつかっていたとしても入るはずが…

 

 

「まぁたまにはこういうのもあるわな」

 

「ナイスホールインワン!今日すごいね!」

 

 

7番アイアンを少年に渡してこちらに振り返る……怪物。

 

 

「…ったんだ」

 

「え?」

 

「どうやったんだ!?今のショット明らかにグリーンをオーバーしてたはずだ」

 

 

普段しないほどに声を荒げて目の前の怪物を問い詰める。

 

 

「確かにオーバーだったな。ピンに当たらなければ」

 

「な、に?」

 

「そういうショットがあるんだ。ピンに当たりさえすれば入ってしまうそんなショットが」

 

 

ばかな…

ピンを狙ったというのか。

いやそもそも物理的に不可能だ。

いくらピンに当てようとボールに残った運動エネルギーは存在する。

それを消費できなければピンに弾かれ、あの小さな穴に落とすことなんてできるはずがない。

 

 

「ハルヒコさ、見えてただろ。最初からさ」

 

「は?」

 

「目を逸らすなよ」

 

 

何から目を逸らしてるっていうんだ。

僕は…僕は…

 

真っ直ぐにこちらを見つめる怪物から逃げるようにスコアカードを取り出す。

逸らした先で目に写るのはタツ[-12]の文字と比較されるように並ぶハルヒコ[-6]の文字。

 

ナニかが崩れる音がした。

 

 

「空」

 

 

タツの言葉に反応することができない

 

 

「お前は空を見上げすぎだ」

 

 

うるさい

 

 

「自分がどこにいるかなんて登り詰めてから確認するのでちょうどいい」

 

 

やめろ

 

 

「そう考えられないならお前は島に向いてないよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

折れた、か。

 

俯き無言でついてくるハルヒコを横目に次のホールへ足を向ける。

 

島に来た新人は試合や大会に参加したあと大体2つに分けられる。

 

実力の差に落ち込んで立ち直るまでに時間がかかるやつが1つ。

もう1つはそのまま心が折れゴルフをやめるやつだ。

 

たまに奮起する特殊なやつもいるが、そういうのは例外だ。

島に来るには実績を必要とするが、皮肉なことにその実績があるせいで新人のほとんどが島の厳しさに耐えきれない。

 

今朝の番組で言っていた内容はほぼ正しい。

より具体的にするなら

 

この島で中堅と言われる選手は遊んでても外のトッププロにダブルスコアで勝ててしまう、だ。

 

当然俺もその例に漏れない。

 

 

「最終ホールだよー」

 

 

少年が最終ホールであることを俺たちに告げるがハルヒコは顔を上げない。

 

ランキング上位の連中は俺からみても化け物なんだが、それは今はいい。

確かにやりすぎ感は否めないが上を目指すなら島の洗礼くらいは乗り越えてほしいと思う。

 

ふとハルヒコの姿が昔の自分と重なる。

 

そういえば昔は俺もお前と変わらなかったんだよな。

俺はどうやって立ち直ったんだっけ?

 

 

 

前のホールでホールインワンを決めたため、オナーは俺だ。

 

最終ホールはpar5。

フェアウェイが狭い代わりにしっかり乗せることができれば比較的簡単に2オンできるため、イーグルが狙えるホールだ。

つまり一打目の出来がスコアに直結するとも言える。

 

少年からドライバーを受けとる。

 

 

 

「ねぇタツ」

 

「どうした少年」

 

「少し気合い入れた方がいいかも」

 

 

不思議なことを言う。

それを言うなら現在進行形で落ち込んでいるハルヒコにだろう。

 

 

「うーん、何となくハルヒコがこのまま終わる気がしないんだ」

 

「勘かい。まあそうであってほしいと俺も思ってるけどよ」

 

 

 

 

期待するのは後が辛いぜ、と続くはずだった言葉はハルヒコの表情を見て飲み込んだ。

 

さっきまでとは別人。

爽やかだった雰囲気は掻き消え、鬼気迫るとはこのことを言うのだろう。

まるで鬼そのものだ。

 

 

「ようこそハルヒコ!ようやく選手に成れたね!」

 

 

少年は笑顔で出迎える。

 

ははっおいおい、マジか。

こいつ、例外になっちまいやがった。

 

 

「タツ!」

 

「おう!」

 

「勝負だ!」

 

「いいぜ!負けたら飯奢りな!」

 

 

なんだかやる気が出てきた。

今までとは違う、本気も本気。

 

 

アドレスに入る。

 

 

あっこれミスする気がしねぇ。

 

 

気づけばボールはフェアウェイのど真ん中を転がっていた。

推定320ヤード超えのドラゴンショットだ。

これなら次のショットで確実にグリーンに乗せることができるだろう。

 

 

「お前の番だぜ、ハルヒコ」

 

 

ハルヒコはそのショットを見ても動じた様子はない。

むしろ口の端がつり上がっていた。

 

 

ハルヒコがアドレスに入る。

 

 

 

他人の緊張は伝播するというが、集中力でも似たようなことが起きる。

 

周囲の音が聞こえなくなっていく。

徐々にハルヒコの世界に引きずり込まれる。

 

ゆったりした動作でクラブのヘッドが半月状の弧を描く。

 

 

ヒュン

 

 

振り抜かれたクラブのあとからティがクルクルと落ちてくる。

一つ一つの動作に何故か目が離せない。

 

魅せるゴルフ。

ハルヒコは視線を集めることのできるゴルファーだ。

 

スコアとは関係ない要素。

だがそういうやつは総じて結果を残す。

 

こんな風に

 

 

「ナイスショット!」

 

 

フェアウェイど真ん中。

飛距離は同じく320ヤードくらいだろうか。

ランが出ればさらに越えてくるかもしれない。

 

音を置き去りにして進むボールは一度二度バウンドして落ち着く。

 

どちらだ? 俺よりも飛んだか?

前か?後ろか?

 

 

「ようやく背中が見えたよ」

 

 

ハルヒコのボールは僅かに手前。

俺のボールを超えてはいなかった。

 

 

「ナイスショットだハルヒコ」

 

「ありがとう。ようやく目が覚めたよ」

 

 

吹っ切れたような顔しやがって。

ホッとしたよバカ野郎。

 

 

「今、すごく調子がいいんだ」

 

 

ハルヒコは少年に7番アイアンを要求した。

 

まさか…

 

 

「確かこうだったかな?」

 

「おいおい…」

 

 

ハルヒコは何度か素振りをしてアドレスに入る。

あいつがしてたスイングは、さっき俺がした…

 

 

シュピン

 

 

「それができるようになるまで俺がどれだけ練習したと思ってんだ」

 

 

ボールは真っ直ぐにピンへ

 

そしてそのまま直撃した。

 

 

「僕はいつも空を見上げてたんだ!その空へ向けて打つショットができないわけがない!」

 

 

もはや異常とも言える強力なスピンによってボールは強引にピンをよじ昇る。

 

その様はまるで天空に昇る竜のごとく。

ついにピンを昇りきり、次に向かうはたった1つのカップのみ。

 

 

コトーン

 

 

par5を二打、つまり…

 

 

「…アルバ…トロス」

 

「勝つのは僕だ!タツ!!」

 

「いいぞー」

 

「ナイスショット!」

 

「やるなぁ」

 

 

いつの間にかギャラリーができていた。

そりゃあそうだ。

あんなスーパーショット、この島でだって滅多に見れるもんじゃねぇ。

だがな…

 

 

「もう勝った気かぁ?ハルヒコ」

 

 

強がりに聞こえちまうかもな。

実際、普段ならあれほどのショット、俺には打てない。

 

ドラゴン勝負は俺の勝ち。

だが飛距離を競ってるわけじゃねえんだ。

このままいけば負けるのは俺。

 

ここで負けてもトータルスコアで勝ってる?

そんなカッコ悪いことできるかよ!

 

やっと思い出したぜ。

大会で負けて試合も負けてもまだゴルフを続けていられた理由。

 

俺は大の負けず嫌いなんだ!

 

 

少年から7番アイアンを受けとる。

 

 

「ハルヒコ、俺の得意なショットはスピンショットだ」

 

 

アドレスに入る。

 

 

何千何万と繰り返したスイング。

もはや体の一部となっている7番アイアン。

染み込んだ動きをなぞるように今日もそいつを振り抜いた。

 

 

シュピィィン

 

 

「その中でもこれは一番好きなショットだ」

 

 

天高く上がったボールはさらに高く、まだ空へ

 

風が強い日は難度が上がる必殺ショット。

悪いが今日の俺は絶好調なんだ。

失敗なんてしてやらねぇ!

 

ついに落ちてきたそれはピンを通りすぎる。

ミスショット?違う。

 

 

「…バックスピン」

 

 

それも違うぜ、ハルヒコ。

 

 

「スーパーバックスピンだ」

 

 

かけられた回転が摩擦を引き起こし、ついには火を吹く。

燃えただけなら曲芸の域。

こいつはここでは終わらない。

 

文字通り火の玉と化した打球はその勢いを後ろに変えてピンにぶつかる。

 

一瞬の拮抗。

 

ボールはそのまま弾かれた。

 

 

「しっ…ぱい…?」

 

「ハルヒコ!ハルヒコ!集中して!あれはこっから“くる”よ」

 

 

俺は負けず嫌いで諦めも悪いんだ。

 

 

 

ギュルギュルギュルギュル

 

 

 

「音が…聴こえる」

 

 

燃えただけなら三流。

ピンに向かってまだ二流。

カップに落としてやっと一流。

 

では超一流は?

 

 

カップを通りすぎたそれは意志があるかのように現実を受け入れない。

時計を巻き戻すように再びカップへゆっくりと進み始める。

 

 

これは調子が良いとかそんなもんじゃない。

 

ハルヒコが掠れた声で呟いた言葉が耳に届く。

 

 

 

 

「…神業」

 

 

 

 

コトーン

 

 

 

ワァアアアアア

 

 

今日また一人、超一流の領域に足を踏み込れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

一年後

 

 

全国大会優勝者にインタビューが行われた。

 

 

優勝おめでとうございます。

早速ですが、質問を1つ。

あなたは島に来てから長い間優勝争いには参加できていませんでした。今年急成長できたのは何故でしょうか?

 

 

「切っ掛けなんてのは些細なもんさ。ある時新人の相手をしろって言われてな」

 

「そいつとの試合で何か掴んだんだ、多分な」

 

 

白熱した試合だったのでしょうか?

 

 

「いや全然。最後以外はそいつ心折れかけてたし」

 

 

はぁ

 

 

「悪いな。だが他人の意見は参考にならねぇよ。強くなれるやつかどうかは強くならなきゃ判らねえんだ」

 

 

結果論ということでしょうか?あなたは運が良かったと?

 

 

「ははっ!面白いなあんた。じゃあ1つだけマトモなこと言ってやるよ」

 

 

 

「ゴルフってのは一人で戦うもんじゃねぇ」

 

「相手がいてキャディがいて何ならスポンサー様がいて初めて成立するんだ」

 

「だから俺はこう思ってる」

 

「俺のゴルフは俺だけのゴルフじゃねぇ…

 

 

 

みんなのGOLFだってな」

 

 

 

 

 

 




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