〈魔術喰い(カニバルキャンディー)〉事件が風紀委員主幹のフェリクスが起こしたということで大きな騒ぎになったが、やり手学院長〈エドワード·ラザフォード〉がその事件を解決した赤羽雷真を英雄として立て話題の矛先をそらしたのだ。
ついに、雷真も〈夜会(ヴァルプルギスの夕べ)〉への参加資格を持つ〈手袋持ち(ガントレット)〉になったのだ。
ちなみに登録コードは〈下から二番目(セカンドラスト)〉である。
ついでのついでにややどさくさ紛れ的に良い成績を修めた為に僕も晴れて〈手袋持ち(ガントレット)〉になった。
登録コードは〈一匹狼(Loner)〉である。
ただ言い換えれば〈ぼっち〉である。
日本語訳でも『他人と交わらずに一人で生活する人』であるし。
赤羽雷真並に酷い登録コードである…。
とまあこんな感じで上手くことを運ぶことができた。
◇◆◇◆◇◆
事件が終息したことで再び平穏な学院生活が戻ってきた。
朝早くから夕方までの学院生活。
転生前も高校生として学校で過ごしていたので変わりはないのだが…。
ただ『変わりない』それが問題となる。
カッカッカッとヒールの音を響かせてキンバリー教授が講堂を出ていく。
それまで静まり返っていた講堂は賑やかになり、学生達も次々と講堂を出ていく。
駄弁りながら出ていく者、なにやら皆急いで外に出ていった。
そんな中僕は憂鬱な気持ちで一杯だった。
なんと言っても次の講義は『体育』である……。
転生前から運動神経は皆無であった。
それにプラスして僕は魔法使いタイプなのです。
ドラクエの世界でも屈指のヘタレステータス。
運動神経皆無+魔法使いタイプのヘタレステータス=ダメでしょ。
ということだ。
しかし、この世界に転生してからは両親の鍛練のお陰で人並みには動ける体になっていた。
ただ運動神経の問題を解決したら新たな問題が。
それは登録コードと同じ『ぼっち』が問題だった。
如何せん『体育』はコンビを組むことが多い、だが僕には組む人がいない…。
常に一人で寂しく過ごしていた。
それも、雷真が入ってからは解消されたのだが、それも新たな問題であった。
雷真は運動神経が良すぎたのだ。
人並みになって喜んでいた僕を嘲笑うかのように…。
等々上記の理由で転生後でも『体育』は大嫌いな授業であった。
誰だよ転生したら薔薇色の人生が待っているなんてこと僕に信じ込ませたのは。
「あたたたた、腹痛が…保健室にいってくるね」
僕はしらじらとそう言うと保健室に向かおうとする。
しかし、何故か足が進まない。
振り返ると十六夜が僕の袖を右手で掴み、左手には腹痛と言ったらこの薬『正〇丸』を持っていた。
「はいこれを飲んで頑張りましょうね」
「………はい」
お見通しでした。
最初の内は上手くいっていたこの戦法も今はなんの意味もなさなくなってきた。
新たな戦法を探さなくては。
ちなみにサボりは生徒の見本とならなくてはならない〈手袋持ち〉なので許されない、休むための大義名分がなくては。
ということで僕は、重たい足に鞭打って更衣室に向かった。
雷真の凄さと僕のひ弱さを見せつけられるようにして魔の一時間は過ぎた。
憂鬱な時間が過ぎて僕はすっかり元気になっていた。
魔術学院のいい所は『体育』がよくできると普通の学校ではヒーローになるが、ここではそうでもないのだ。
それが唯一のいい点であった。
軽い足取りで食堂にやって来ると、大勢の生徒で賑わっている。
どうしようか迷っている内に埋まっていく席。
僕は手荷物を置いて料理を取りに行く。
しばらくして帰ってくると何故か荷物をどけられ、我が物顔でドカリと座り隣の可愛い女子に話かけているチャラそうな男が。
僕は苦手なタイプだが勇気を振り絞り文句を言う。
「ここの席僕がとっていたんだけど…」
「でさあ――――」
ガン無視。
心の中でこのやろうと思いながらも再度文句を言う。
「あのこの席――」
「ああ、さっきからウゼェなあ、さっさとこれもって失せろよ!」
投げつけられる荷物。
元来臆病な僕は何も言い返せない。
十六夜が前に出ようとしたが僕はそれを止める。
なにも泣き寝入りをするつもりはない。
この怨みは呪文で晴らさせてもらう!
幸いといっていいのか、そのチャラ男は僕と同じクラスだった。
僕は行動を起こす。
怨みを存分に晴らすために。
再びキンバリー教授の講義が始まる。
まずは小手調べだ。
キンバリー教授の講義では講堂は静まりかえるのでペンを走らせる音しかしていないが、隙を見計らって呪文を唱える。
(チャラ男沈め)「ラリホー」
睡眠に誘う呪文。
しばらく経つと舟を漕ぎはじめるチャラ男その時だった。
キンバリー教授の腕が目視不可能な速さでなにかを投擲する。
僕も一度受けたことのある殺人チョーク。
チャラ男の眉間を撃ち抜き、舞い散る砕けたチョークと響くチャラ男の断末魔。
「睡眠学習とはいい身分だな。簡単過ぎて眠ってしまったのか。悪かった、ではこの問題を答えてもらおう」
(どどめだ!)
「フール、フール、フール、フール、フール、フール」
連続での呪文を唱える。
フールとは賢さを下げる呪文。普通使用するのは戦闘中で呪文の威力を下げるための呪文であるが、このような状況でも使える。
僕が実際にフールの対極となる呪文インテで難局を乗りきったことがあるから分かっていることである。
「……えーーと、……すいません、分かりません」
(いい気味だ)
と誇らしげに悦に入っていると刺さるような視線がこちらに向けられ僕に同様の質問がふられたが、難なく答えることができた。
「零夜あまりこのような呪文の使い方は関心しません」
講義が終わり下校中に十六夜が苦言を呈す。
「うん、これからは自重するよ」
といいながらも、心の中ではレムオルやモシャスを覚えたら男の夢を叶えると決意していることがあるので、心の中で十六夜に謝罪するのであった。
とこんな感じで日常はかわりなく過ぎていき。
〈夜会〉の日が刻一刻て迫ってくるのであった。
ヘタレの主人公を描いていたらなぜか『わたモテ』のようになっていた…。
次回はもう少し明るくしようかと思っています。