僕と十六夜とシャルとシグムントが門の前にたどり着く。
少し内部の様子を見てみようと特技『鷹の目』を発動する。
すると、最初はぼんやりとして視界がはっきりしなかったが、しばらくし闇に目が馴れてきたことからやや視界がはっきりとしてくる。
広大な庭には、ドーベルマン型の自動人形が徘徊している、ただし人形使いは辺りには見られない。
たぶん、〈禁忌人形(バンドール)〉のために自活しているのだろう。
そこで僕は機能を停止させることを諦め相手に悟らせずに進むことを選択する。
「ステルス」
僕は僕達四人に呪文をかける。
『ステルス』とは、人間には見えるし、察知できるが、人外以外には五感全てを駆使しても察知することができなくなる呪文である。
「ねえ、零夜なにも変わった感じがしないんだけど。シグムントもそう思わない?」
シャルが変わりないことに疑問を抱きシグムントにも話しかける。
しかし、シグムントは全くシャルの言葉にも反応しない。
「どういうこと零夜。シグムントが反応しないんだけど」
僕はシャルの疑問に答える。
「この呪文は人間には効かないけれど、人間以外には五感全てで察知できなくなる呪文なんだ。ってことでシャルはシグムントを抱いて行って、僕は十六夜の手を引いていくから」
「いえ私は見えていますし、聞こえていますから大丈夫です」
僕は十六夜が見えていることに驚きながらも、『ステルス』の効果が長くないために行動に移す。
僕とシャルは屋敷に向かって走る。
近くに数えきれないほどのドーベルマン型の自動人形がいるが、こちらに全く反応することはない。
そのまま広大な庭を仄かに見える屋敷の明かりを手がかりに走る。
しばらく走り続けてなんとか屋敷にたどり着く。
「はあはあ…もうだめ…体力が……少し休ませて…」
「なにもう疲れたのだらしない。まあいいわ、もうドーベルマン型の自動人形もいないし、少し休みましょう」
少々腰を下ろし休んだために体力が回復する。
「ありがとうもう大丈夫」
「じゃあ行きましょう」
僕はシャルに続いて歩いていく。
屋敷の裏に回り大きなガラス窓越しに中を覗きこむ。
僕とシャルは中の様子に愕然とした。
屋敷の中は酒池肉林という言葉しか当てはまらない様相になっていたのだ。
屋敷の主であろう、肥えた豚のような男を中心にして、女性型の自動人形が奉仕しているのだ。
(奉仕については割愛します。禁則事項で18禁になる可能性があるので)
僕とシャルはたまらず目を背ける。
人間のあまりにも薄汚い一面をこのまま見ていたら気が狂いそうになったためでもあり。
自動人形があまりにも哀れに思われたためである。
「ゆ、許せないわ。でも今はあの子達を…。ごめんなさい…
「…先を急ごう…」
拳を握りしめて涙をうっすら滲ませながらシャルがそう言っている。
僕もどうにかしたいが、どうにもできない自分の無力さに苛立ちを覚えながらも、それだけしか言えなかった。
僕達は無言で〈イブの心臓〉を求めて屋敷の中に入り進んでいく。
そんな中執事らしき人物が屋敷の主に耳打ちをしていたのだが、僕達はしるよしもなかった。
僕達は影に隠れながら屋敷の中を捜索しながら進んでいく。
普段の僕ならば不法侵入じゃないかなと些か不安に思うが、あんなものを見せられた今となってはそんな些細なこと気にならなくなっていた。
「シャル、どうやらここのようだ」
ステルスの効果がすでに切れているのでシグムントがシャルに話しかける。
シグムントが指し示した所には厚い鋼鉄の扉がある。
「あ、開かないよ」
「当然だろうな」
押そうが引っ張ろうが持ち上げようが全く扉は動かない。
重要な物があるなら当然厳重に鍵がかけられているのも当然であるが…
「零夜どいて。シグムントラスターカ――」
「ストーーーップ!!」
僕はとんでもないことをしようとするシャルを必死に止める。
「なんで止めるのよ。こうするのが一番早いのよ」
「たしかにそうだけど、不味いよ絶対に気づかれちゃうよ。ここも僕に任せて」
僕は扉に手を当て呪文を唱える。
「アバカム」
ガチャリと音がした瞬間扉がギィーと重厚な音をたてて開かれた。
「もう何を見ても驚かなくなってきたわ…」
「ああ」
シャルとシグムントは疲れたように呟いていた。
『アバカム』とはどんなにしっかりした鍵も構わず開けてしまうとんでもない呪文である。
ドラクエⅢだけに出た呪文で、レベル36で覚えるかなり高度な呪文であるはずなのに、この世界ではかなり早い段階で覚えることができた呪文である。
開かれた漆黒の闇に包まれた部屋の中から鼻をつんざくようなむせかえる異臭が漂ってくる。
「なんなのこの臭い」
鼻を押さえながらシャルは呟く。
「……たぶんシャルは見ないほうがいい…」
僕はここになにがあるのかなんとなく想像がついたので、シャルにそう警告した。
「どういうこ―――」
「シャル、今回は零夜の言うことを聞いておけ」
「なによシグムントまで。分かったわよ」
シャルはいつにない厳しい口調のシグムントに気圧されてしぶしぶ従い下がっていった。
その時小声で「すまない」とシグムントが呟いたのが聞こえてきた。
僕は覚悟を決めて中に入り呪文を唱える。
「レミーラ」
目映い光が現れ、部屋の中を照らし出す。
部屋の中は想像を遥かに上まわる、凄惨な状況が広がっていた。
部屋中に飛び散るどす黒い血飛沫。
そこら辺に散らばる肉片。
その中には人間の体の一部だとはっきり分かるものさえある。
「う、うえっ」
「零夜も外で待っていてください。普通の人間ではこれはとても耐えられません」
「ごめん十六夜」
「大丈夫です」
十六夜はそう言うと中に入っていきしばらくすると大きな段ボールを持って出てきた。
「シャルロットさん。部屋にあった〈イブの心臓〉はこれで全てです。見てみてください」
「ありがとう十六夜。見せてもらうわね」
段ボールを覗き込み一つ一つ〈イブの心臓〉を調べていく。
「あったわ。これよ」
シャルは一つの〈イブの心臓〉を抱き締めて涙に目を潤ませながら答える。
「良かったじゃあ急いでここを出よう。ここのことは〈魔術師協会(ネクタル)〉に報告すればかたがつく」
「それは困るな」
背後から殺気と共に冷めきった男の声が聞こえてきた。
急いで振り返ると先ほど見かけた屋敷の主人らしき男と背が高く痩せた体型の執事らしき男がいた。
僕は体がガタガタと震え声を出すことさえままならない状態であった。
執事らしき男から発せられる言葉に表すことさえできないようなおぞましい殺気がそうさせたのだ。
かろうじて首を動かしシャルを見ると僕と同じような状態である。
「少しお話しないか」
屋敷の主人らしき男がそう提案する。
僕は断ろうと思ったが隣に佇む男がそうはさせなかった。
「あの部屋はどうだった。あの部屋の肉片は元人間だ。今では〈禁忌人形(バンドール)〉になっているがね。自動人形はいい、なんでも言うことを聞く。汚い仕事でも、私に対する奉仕でも」
屋敷の主人は醜く歪んだ笑みを浮かべながら淡々と話す。
「この外道!」
震える体を押さえながらシャルは必死になって叫んだ。
「美しい声をしているな。仮面で隠れてはいるが容姿も良さそうだ。お前も私の自動人形にしてやろう」
涎を滴し舌なめずりをしながらそう言うと隣の執事の姿が消えた。
気づいた時にはシャルの目の前にまで迫っていて、ナイフを突き立てようとしている。
「させませんよ」
そのナイフを十六夜が掴んでいた。
シャルの性格上あり得ない行動もあったと思いますが作者の力不足です。申し訳ない。