シャルの家族の〈イブの心臓〉を取り返しに行ってから数日経ち明日から〈夜会〉が始まるという時期になっていた。
僕の負った怪我も瞬時に直すこともできるのだが、それでは怪しまれるということで『ホイミ』を使用し少しずつ癒し、今では傷跡すらも見えなくなるほどに回復している。
そして、〈夜会〉の前日だろうが、始まろうが普段通り講義は行われている。
そして今日は土曜日であり、午前中のみの講義である。
『ゆとり教育』で育った僕には土曜日の午前中のみの講義はこちらの世界に来て初めて体験することとなった。
そんなわけで僕は午前中の講義を終えその足で学食に向かっていた。
「明日から〈夜会〉だね。それだけじゃなく明日はすることがあるから忙しい日になるね」
「大丈夫ですよ。二人で頑張ればこなせないことはないです。それに私には『永久エネルギー炉』が搭載されていますから疲れることはないですからね」
十六夜はそう言うと微かに微笑みを浮かべた。
あの事件の一件以来十六夜は少しずつ表情が変わるようになってきた。
そのように穏やかに微笑みながら話をしながら食堂に向かっていると、食堂の前で以前知り合いとなった、幻想的な真珠色の髪を持つフレイとその相棒の狼犬の自動人形のラビがいるのに気づいた。
フレイはぎこちない手つきで黒い鉄の棒を組み合わせている。
そんな中フレイに寄り添っているラビが僕たちに気づき嬉しそうに吠えて尻尾を振っている。
「あっこの前の!」
「こんにちはフレイさん」
僕はにこやかに挨拶をする。
「こんにちは。私の名前知っていたんだ」
「う、うん。有名だったからね。あと前に自己紹介してなかったね。僕は零夜っていいます。でフレイはここで何しているの?」
僕は一応フレイがしていることは知っているが、話を続けるためにも聞いてみる。
「この罠を作って雷真を捕まえるの……でも上手くいかなくて……」
悲しそうな顔をしながらフレイは答える。
「手伝おうか?」
女の子の悲しそうな顔はあまり見たくないのでついつい助け船を出してしまった。
「えっいいの」
フレイはパアッと花開くような可憐な笑顔になる。
「うん。いいよ手伝うよ」
僕もフレイが喜んでくれたことが嬉しかったので手伝うことにした。
ただそれは安易に決めすぎてしまったと後になって後悔した。
しばらく手伝って作り始めたのだが、その場は学食に近く人が多く集まる所である。
そんな場で猿を捕まえるような檻の形をした罠を作っているのだ、目立つは目立つはで皆が向けてくる視線が痛くて、恥ずかしくてなんとも言えない気分で黙って手を完成に向けて動かし続けた。
そんな数多の視線の中には僕が知っている二人の視線も含まれていた。
その二人は学食の中から僕たちを見ている雷真とシャルであった。
「ねえ、零夜とフレイは何をしているの?」
「俺を捕まえる為の罠を作っているんじゃないのか」
二人は呆れながら僕たちを見ていたのだが僕は敢えて気づいていないふりをしていた。
だって居たたまれないもん!!
そして檻は完成した。最後の囮の雷真が大好きな巨乳モデルの載ったエ〇本を置いて。
だだし、それだけをすれば完成であったのにフレイは天性のドジッ子ぶりを発揮して自らが罠にかかった。
「…………」
「…………」
「…………」
僕、十六夜、ラビが目を点にして驚いていると、その場にフレイの弟〈剣帝〉ロキが現れ、呆れたような表情で冷たい視線をフレイに向けて佇んでいた。
「何をバカな事をしている」
ロキはフレイに対して冷たい声でいい放つ。
言われたフレイは青ざめ、ビクつき、目を反らし、助けを求めるようにこちらに視線をむける。
可哀想で助けてあげたくなるが、この行動にもロキの真意が隠されているので手出しはしない。
ロキの目にフレイの填めている夜会の参加資格の証となる〈白い手袋(ガントレット)〉が写ると目付きが険しくなる。
「まだそんなものを持っているのか。棄権しろといったはずだ。あんたは誰にも勝てはしない」
「でも……」
「おとなしく俺に従え」
「で…も…」
「くどい!」
ロキは怒りの籠った声で吐き捨てるように言うと、フレイの巻くマフラーを掴み引き寄せる。
「弱いものがでしゃばるな!強いものに従え!」
「がうっ!!」
その時、自分の主人の危機を察知したラビがロキに牙を剥いて吠えかかる。
しかし、ロキに一睨みされただけで尻尾は下がり股に挟み、腰が退けていた。
ガタイは良いが、主人同様気が弱い。
ロキはフレイを突き放すと銀色に鈍く輝き、ロボットのようにゴツく、刺々しい体を持ち、両腕に巨大なブレードを装着したロキの自動人形ケルビムをけしかける。
フレイも覚悟を決めラビに魔力を送る。
フレイの魔力を受け取ったラビは毛が逆立ち、雷を帯びたようにスパークを放ち始める。
そして、ラビが吠えると同時に何か見えない物がケルビムに向けて放たれた。
ケルビムは不可視のそれを避けることはせず、ブレードで切りつける。
大きな爆音のような風切り音が鳴りラビの放った何かは霧散した。
それを目の前で見せつけられたラビに恐れが走る。
ロキはそれを見逃すはずはない。
「行け!」
ロキがケルビムに冷酷にいい放つと、
「I’m ready」
とまるで機械音のような声で反応し、ケルビムは跳躍する。
ラビが攻撃した時と同じような不自然な突風が吹き荒れる。
ケルビムがその風に乗るかのような軽やかな動きでラビに斬りかかる。
初撃は機敏な動きでかわしたラビではあるが、しかし、ケルビムはその巨体に似合わず動きが速かった。
二撃、三撃、しだいにラビは追い詰められる。
ケルビムが仕留めにかかる、大きく振りきられたブレードがラビの首をはねると誰もが思った時だったラビとケルビムの間に割って入る黒い影が。
黒い髪、黒い和風の衣裳に身を包んだ夜々がケルビムのブレードとラビの鼻を押さえていた。
(まったく出番はなかったな)
と思いながらも、ラノベ通りで安心する僕であった。
そして、その場にやって来た雷真とロキの大人気ない言い合いが始まる。
東洋人は嫌いだの、西洋人は嫌いだの、馬鹿だの、成績はいいだの、馬鹿馬鹿言い合いを始める。
僕はため息まじりに呆れながら見ていると、二人を分かつかのように光の矢が舞い降りた。
なぜか関係のない僕にも二、三本の光の矢が
「うわーーっ!!」
「零夜!」
光の矢が舞い降り爆発し、僕は見事にどこかの悪役のように空高く吹き飛び、十六夜も僕を追って舞空術で飛び立った。
シャルを怒らせるようなことしたのかなと吹き飛ばされながら考える僕であった。