太陽が中天から少し傾き、夕方と呼べる時間に差し掛かっているとき、僕は食堂で大分遅れた昼食を取り十六夜と共にトータス寮に向かっていた。
本当であれば、普段通り決まった時間に昼食は取れるはずであった。
しかし、雷真、ロキの争いの火の粉を浴びて巻き添えで空中旅行をすることになったのでこの時間になったのだ。
「明日からのはずが今日から大変な目に合いましたね」
「本当にそうだね。僕は何も悪いことした覚えないのに」
僕はあのあと考えたが何も思いあたることはなかった。
「女の子に優しすぎるんです……」
「えっ?何?」
「何でもないです」
十六夜は顔を背けて少し不機嫌そうになる。
乙女心が分からないのが悪いのかと思いながらも、僕は男なので知る方法なんてないじゃないかと諦めるしかなかった。
少し不機嫌な十六夜と気まずい空気が流れながら歩いていると、前からシャルが早足で歩いてくる。
シャルと会うのも先ほど吹き飛ばされたし気まずいと思っていると、シャルの目に夕日によって光るものが、
(ああそういえばこの時雷真と夜々によってコンプレックスを抉られたんだな)
と思い返しながら、ハンカチを取り出す。
「こんにちはシャル。これ使って」
僕は何もなかったように笑顔でハンカチを差し出す。
「あっ零夜。あ、ありがとう……」
赤くなっているみたいだけど多分夕日のせいだろうなと僕は解釈する。
「何かあったの?」
一応聞いてみる。
話が話なので話してくれるとは思えないが。
「まあ、色々あるのよ…」
シャルはうつむいて話す。
やっぱり話すのは躊躇うだろうなと思っていたので、
「そうなんだ。じゃあまた明日」
「ちょっと待ちなさいよ。聞きたくないの?」
僕はそのまま帰ろうとすると、焦ったように聞いてくる。
「えっ、話たくはないんじゃないの?」
「ま、まあ…」
「でしょ。じゃあね」
再び背を向けて行こうとすると、
「もう、鈍いわね。聞いて欲しいのよ!聞きなさいよ!」
となぜか怒りだしたシャルにベンチまで連れていかれる。
なぜか付いてくる十六夜の機嫌が更に悪くなったように感じるのは気のせいであって欲しいと願う僕であった。
「じゃあ聞くけど何があったの?」
「以前貴方にも聞いたように雷真にも聞いてみたの」
シャルは俯きながら話し出す。
そして今でも赤くなっているみたいだけどやはり夕日のせいだろうなと僕は解釈する。
「え~と、胸のこと?」
「そ、そうよ。そしたら彼なんて言ったと思う?」
「なんだろう」
とぼけて答える。
「たゆんたゆんの胸が好きだって!女性を胸で判断するのよ最低じゃない!」
腹立たしげに文句を言い続ける。
(それを言っていたのは夜々だった気が。それに僕も貧乳が好きだって言っちゃったし。胸で判断したみたいなものだよな)
と思いながらも、けしてそのようなことは漏らさず、相づちを打つのにとどめた。
それからしばらく怒りの赴くままに文句を言い続けたあと、気が晴れたみたいで晴れやかな顔をして「聞いてくれてありがとう」とだけ言って去っていった。
帽子の上にいたシグムントもシャルには気づかれないように、去り際にこちらを向いて頭を下げていた。
シャルのお悩み相談にあたっていたらすでに辺りが暗くなり外灯に火が灯っている。
前にもこんなことがあったような…
と思いながらもそっと十六夜を見ると、明らかに不機嫌さが増したような顔をしている。
「い、十六夜さん。か、帰りませんか」
「………ええ…」
背筋が凍りつくような底冷えのする声。
僕は恐怖のあまり十六夜の顔を振り向くことができずに帰るしかなかった。
トータス寮に帰りつくまでは針の蓆に座る?いや背負っているかのような地獄のような時間であった。
トータス寮について昼食が遅かった為にあまり食欲は湧かなかったが、明日は忙しくなるので無理矢理腹に入れて、風呂に入って就寝することにした。
「お休みなさい十六夜」
「……ええ…」
気まずい中明かりを消し、床についた。
満腹で少し苦しくウトウトはするがなかなか寝付けない中、やっと眠りに落ちそうになった時だった。
「や、夜々、よせ誤解だ。ウギャアーーー!!」
とてつもない断末魔が夜の寮に響き渡る。
「な、なんなんだ!!」
「敵襲でしょうか」
僕は断末魔でやっとつけそうになった眠りから叩き起こされ、十六夜も目をさましたようだった。
その直後ドタドタと足音が響いて、
「今何時だと思っているんだ!!」
という怒りの寮管の声がしたのだった。
僕と十六夜は笑い合う。
このことが僕と十六夜の悪い空気を払ってくれたことには感謝したが、そこから再び眠りにつくことに苦労したことには怒りを感じた。
「起きてください零夜」
「あと少し寝かせて十六夜」
「寝かせてあげたいのは山々なんですが、すでに雷真さんの所に小紫さんが来ているみたいなんです」
「えっもうそんな時間!」
僕は飛び起きる。
どうやらもう昼を大きく過ぎているらしい。
僕は飛び起きると慌てて支度をを整える。
そう今日することは雷真が潜入する〈Dワークス〉に気づかれないように随行し、ラノベ本編では助からなかった、フレイの家族兼母親変わりの『黄泉』を助けることにである。 ただし、Dワークスの場所が分からないことから、雷真達が乗る軍の車を追わなくてはならないのだ。
十六夜に雷真の魔力を辿ってもらえばいいとも思ったのだが、子紫の気配遮断の〈八重霞〉では魔力さえも遮断される為にそれはできないと十六夜に言われた。
そのため軍の車を追うことにしたので、遅れる訳にはいかなかったのだ。
急いで用意を整え、十六夜を伴い『ルーラ』で学院の外に出る。
門を過ぎて通りを少し行った所にはすでに黒塗りの車が待機している。
急にその車のドアが開き閉じる。
この時代の車は現代のタクシーのように自動ドアなはずはないので(雷真達が乗り込んだな)と思って見ていると、案の定すぐに車は走り出す。
「じゃあ十六夜悪いけど気づかれないように追ってもらえるかな」
と僕が言うと。
「はい分かりました」
と言って僕を抱えあげると十分な距離をとりながら『舞空術』を使用して軍の車を追ってくれた。
市街を抜け、さらにしばらく進み、舗装された道が途切れ、農道に入っても軍の車は走っていく。
そしてさらに進むと、軍の車は停車した。
少し先を見ると石造りの三回建ての二棟からなる建物とその敷地内に牛舎が見える。
そこが目的地だと僕は理解する。
軍の車の扉が開かれ、そして再び閉じる。
何も見えないが、そこには〈八重霞〉で姿を消した雷真達がいるはずである。
雷真の察知能力はずば抜けているのでかなりの距離をとって付いていく。
『フレイの家族兼母親の黄泉を助ける』という目的を果たすために。