自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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覚悟と暗躍

 大量の大型ライトでライトアップされた〈夜会〉の会場では一日目の〈夜会〉が始まった。

 一日目は、第百位の赤羽雷真と本来ならば99位はフレイであったのだが、自ら99位に〈剣帝〉ロキが降格を願い出た為に雷真とロキが戦っているのである。

 フェリクスを退けた雷真、〈剣帝〉ロキ、皆が良い戦いになると期待していたのだが―――

 ゴツい天使のような形をしたケルビムがロキの魔力によりパズルが組み合わされるように動き姿を変え、巨大な剣と化した。

 その姿は大人の背丈ほどある大剣であり、刀身は美しい曲線を描く両刃であり、よく磨きこまれている。

 刀身の根本にはワンポイントのように元のケルビムの顔が露出している……なんとも滑稽に僕は思えた。

だが、そんな滑稽なケルビムではあるが、攻撃力は飛躍的に上がっている、会場を縦横無尽に飛び回り、夜々に猛烈な勢いで襲いかかる。

 夜々が雷真の指示によりかわす度に地面に亀裂が走り、辺りが何かの摩擦で焦げていく。

 最初はかわしていた夜々ではあるが、次第にケルビムが夜々を捉え始める。

 夜々の〈金剛力〉であれば刃物すらも通さず、傷を負うことすらない。

 しかし、ケルビムはいとも容易く夜々の体に傷を刻んでいく。

 その姿を見るたびに雷真は不安や恐怖を心に抱く。

 すでに夜々は雷真の元にまで追い込まれていた。

 ケルビムが舞い上がり夜々に止めとばかりに襲いかかる。

 雷真は覚悟を決め夜々に渾身の魔力を注ぎ込む。

「天剣九六衝」

 しかしそんな中でも雷真の頭の中には、恐怖しか思い浮かばない。

 そして、夜々に襲いかかったケルビムは―――

 

 遠く離れた場所で観戦している僕にもしっかり見て取れるぼどの大量の血液を迸らせながら、ケルビムに切り裂かれたのは夜々を庇った雷真であった。

 右肩から左胸あたりを貫通しているであろう。

 読むのと見るのではやはり違う。

 あまりにも衝撃的な光景大量の血液を見て失神するものが出るほどの。活字で読むのと現実で目の当たりするのでは全く違う。

 僕も〈夜会〉に参戦するのだから、覚悟を決めるためにもこの実戦を見ておかなくてはならなかった。

 もうこの戦いは物語ではないのだ、現実で実際に起こっていることなのだ。

 いつ自分が今の雷真のようになってもおかしくない、その覚悟を持つために。

 僕はそのまま会場を去る。

 雷真が死ぬことはないということは知っているからでもあり、こんな大衆の面前で回復呪文を使うことは避けたかったからだ。

 雷真には臆病者、それでも友達か!と思われてもしょうがない。

 今は貸しとさせてもらい、しばらくしたらと心に決め〈トータス寮〉に戻った。

 夜も更け、漆黒の闇が広がる、唯一の明かりは中天に昇る月のみという時間帯。

 外には誰一人いない、先ほどまでの〈夜会〉の喧騒などなかったかのように。

 そんな中僕と十六夜は寮管に知られないように、外に出る。

 十六夜には

「ゆっくり休んでいて」

と言ったのだが、

「こんな夜更けにどこに行くのか気になります」

と頑として聞き入れてもらえなかった。

 ただし、そう言う十六夜は優しい微笑みを浮かべていたので、たぶん僕が行くのを悟っていたのだろう。

 僕と十六夜が医務室に向かっていると、医学部校舎エントランスに一人の人影が。

 月光に照されつややかな黒い髪が美しく光輝いている。

 静かに目を閉じ一心に月に祈りを捧げている。

 この後明け方に夜々はキンバリー教授に声をかけられるのだが、今ここにいるということは、何時間もこれから雷真の為に祈り続けるんだろう。

 あまりにも痛々しく、健気な姿である。

 本当は声をかけてあげたいのだが、今は人に姿を見せるのは得策ではない。

 冷たいようだが、夜々に姿が見えないように医務室の処置室に通じる窓を目指して。

 処置室の中が見える裏手につく。

 中では医療器具に囲まれた雷真が生気の感じられない顔でベッドに横たわっている。

 回りに看護師や医師クルーエルが居るのだろうと危惧していたのだが、看護師が一人いるだけだ。すでに処置し終えているからだろう。

 一応用心して伺っていると

「大丈夫、あの看護師の女性以外には人はいません。処置室の外には一人いますが物音をたてなければ大丈夫です」

と言うので

(申し訳ない)

と思いながら呪文を唱える。

「ラリホー」

看護師の女性はその場に膝をつき眠り始める。

(いまだ)

と思い窓に手をかけるが当然空いているはずがない。

「アバカム」

僕は誰にも聞かれないほど小さく呟く。

 ドラクエの呪文の欠点として声に出さなくてはならないからだ。

 窓にかけられていた鍵が解除される。

 音をたてないように窓を開け、特技『忍び足』を使い雷真が横たわっているベッドに近づいていく。

 雷真は今はおちついてはいるのだが苦悶の表情を浮かべている。

「今楽にしてやる!」

「それは命を救いに来たものの言葉ではありませんよ」

「一回言ってみたくて」

などと十六夜と話してはいたが、あまり余裕はないので治療を開始する。

「ベホイミ」

淡い緑色の光が雷真を包み込む、苦悶の表情を浮かべていた雷真の顔が次第に和らいでいく。

 しばらく『ベホイミ』をかけ続けると雷真の表情も安らぎに満ちる。

(そう言えばクルーエル医師が敗血症が恐いとキンバリー教授と話している所もあったな)

と思い、大丈夫とは知っていてもサービスとして雷真に『キアリー』をかけておいた。

『キアリー』は毒や病を癒す呪文である。

 僕はそのまま窓から外に出ると窓をしめ、寝ている看護師に離れてはいるが外から『ザメハ』をかけて起こしておいた。

 看護師は

「いつの間に寝ていたんだろ」

と言って首を傾げていたが、眠る前と同じように働き始めた。

 両手を上にあげ背筋を伸ばしていると

「晴れやかな顔をしていますね」

と十六夜が笑顔で話かけてくる

「そう見える」

「はい」

と僕も笑顔で返すなど二人で談笑をし、やりきったという満足感をも抱き、沈みゆく月明かりを浴びながら〈トータス寮〉へ帰途についた。

 

 

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