雷真が意識を取り戻さないまま、〈夜会〉二日目が始まる。
昨日雷真は呪文で回復させたため体は万全である。
意識さえ戻れば本編以上に活躍してくれるだろうと僕は考えながら〈夜会〉の会場に来ていた。
祭りでよく見かけた屋台のような出店が多く出店して大変な賑わいである。
〈夜会〉が始まるまで少し時間があるので出店を回ってみようと歩き出す。
至る所に人、人、人、そしてちらほら辺りにはカップルが居て、いちゃついている。
(こいつら)
今まで転生する前の16年を入れても女性と付き合ったことがない僕は無性に腹がたつ。
今までは指を加えて見ているしかなかったが今なら…
目の前にはベンチで買ったものを食べさせあっているバカップルが
「はい、アーン」
「アーン(^○^)」
という具合。
(ザキ使いてえ)
と睨み付け思いながらも妥協案、
「ヒャド」
僕は小さく呟く。
「アーン、がっ!?」
かぶりついた菓子は凍りついており、歯を折り悶絶する男を見て僕はにやにやしていた。
隣では深いため息をつき呆れたような表情で僕を見つめている十六夜がいた。
そんなこんなで〈夜会〉が始まるまで時間を潰していると戦闘区域に〈剣帝〉ロキがケルビムを従えて現れた。
観客には沸き立つものたちや、またはヒソヒソと話ものたち。
「〈剣帝〉陛下はやる気十分だぞ」
「そんなに気張らなくたって、50位以下が束になってもかなうはずないのに」
「〈下から二番目〉も歯がたたなかったしな」
「こりゃあ〈静かなる騒音(サイレントロア)〉も現れないだろうな」
等々僻みや皮肉が交じった物がほとんどである。
とても聞いていられなく憮然として場所を変えようと十六夜と共に歩き出したときだった、
「こんな所にいたのね」
雑踏の中から現れた声の主は、一際目立つ美しい容姿と金髪を持つシャルであり、シャルの帽子にはシグムントが停まっている。
「こんばんは。シャルは雷真の為に〈剣帝〉の調査かな?」
僕はニヤニヤしながら聞いてみる。
「な、な、な、何言ってるのよ。そんなはずないじゃない!」
顔を赤くしながら必死に反論するシャル。可愛らしい。
「まあ、そう言ってくれるな。シャルも真剣なんだ」
「シグムント。明日のお昼のチキンをソラマメにするわよ!」
いつものお決まりのやり取りであるが本当に微笑ましい。
心が和んでいた時だった。
観客が歓声をあげ更に沸き立つ。
見るとフレイがラビと黄泉を伴って会場に現れたのだ。
ロキは黄泉がいるのにも全く感心を示さずにフレイを見て感慨深げにため息をついた。
「あんたは現れないと思っていた。正直意外だ」
フレイは少しビクリとしたが、左右にいるラビと黄泉に勇気づけられたのか
「そんなこと、しない」
と言いきる。
その姿を見て僕は黄泉を助けれて本当に良かったと改めて思っていると、
「なにフレイを見てにやけているのよ嫌らしい」
隣のシャルから容赦ない暴言が。
どうやら温かい目で見守っていたつもりなのに、嫌らしい目で見ていたと誤解されたらしい。
隠れていて目が見えず、緩んだ口許しか見えない弊害である。
そんな中戦闘区域では姉弟のやり取りが続く。
「意外だな。ガキの頃から鈍くて、不器用で諦めが早かったあんたが。いつも何かに怯え俺の後ろに隠れていたアンタが俺とやり合うつもりとはな」
冷淡な声でいい放つロキ。
しかし、フレイは退かない。
しっかりとロキの視線と言葉を受け止め受け入れ答える。
「たしかに私はいつもロキの後ろに隠れていた。でも今は私だってこの学院の学生。〈魔王〉を目指す人形使い」
一息つき豊かな胸をポヨンと叩く。
(ゆ、揺れた!)
両隣から強烈な射抜くような視線が。
「小さい方がいいんじゃないの?」
「も、勿論です!」
大きな胸に劣等感を感じるシャルと
「あとでお話があります」
「はい…お手柔らかにお願いします…」
僕の保護者の十六夜である。
二人とも僕の心の声を聞いていたらしい。エスパーかと僕は戦慄を覚えた。
「私は戦う。ロキの後ろに居るだけじゃ誰も護れないから!」
意思の籠った声が会場に響き渡った。
黄泉が嬉しそうに口許を緩めたような気がした。
「ラビ!黄泉!」
「がうっ!」
「ああ」
フレイから青白い魔力がラビと黄泉に伸びる。
戦闘の開始の合図であった。
先手を取ったのは誰もが予想出来なかったフレイである。
ラビの吠え声が衝撃波となり土を巻き上げながらケルビムに向かう。
ロキはただ突っ立って見ているだけだ。
しかし、ケルビムが反応し主を庇いブレードを叩きつけ衝撃波を消し去る。
「黄泉!」
フレイが声を上げた瞬間ケルビムの後ろを取った黄泉が衝撃波を放つ。
ズガンと大きな音をたてて衝撃波はケルビムに命中し揺らめくが、そこまでのダメージはないようである。
「ぬるいな」
ロキから微かな魔力の波動が現れ、ケルビムに流れる。
ケルビムの背中から短剣がせりだし、次々に射出される。
「ラビ!黄泉!」
ラビと黄泉は無数に迫る短剣を身軽にかわす。
しかし、短剣はそれぞれが意思を持つかのように、しつこくかわす側から進路を変え、ラビと黄泉を追いかける。
老練な黄泉は冷静にかつ慌てず巧みに避け続ける。
しかし、ラビはそうもいかず一本の短剣がラビの足を掠める。
浅くはなく、血が流れ、ラビの動きが鈍る。
しかし、フレイは取り乱さず、気を落ち着け、魔力を練り上げると同時に二人に指示を出し続ける。
「ラビ!黄泉!もう一度」
ラビが放つ衝撃波は向かってくる短剣を巻き込みケルビムに向かう。
ケルビムは今度はブレードを横凪ぎに360度一回転する。
ラビの衝撃波をかき消し、時間差でケルビムの死角から放たれた黄泉の衝撃波も消し去る。
「ぬるいと言った!」
ロキの強い言葉が響く。
ロキから魔力がケルビムに流れ込み、短剣が再び宙を舞う。
今度は手傷を負ったラビを集中的に狙い放たれる。
無数に飛び交う短剣はラビを切り裂いた。
そのうちの何本かは息子の援護に入った黄泉の衝撃波によって撃ち落とされたが、残った短剣が再び幾度となくラビを切り裂き、ラビの断末魔が辺りに響き渡った。
「ラビ!」
血を流しながら地面に横たわるラビの元に駆け寄り抱き起こす。
近づいてくるロキとケルビム。
それを妨げようと黄泉が衝撃波を放つが意図も簡単にブレードで消し去られる。
見えなくとも、一直線の攻撃であり、黄泉一人だけの攻撃ではケルビムにとっては取るに足らない攻撃であった。
フレイを見下ろすように立ったロキは嘲笑うわけでもなく、勝ち誇るでもなく、ただただ冷静にフレイに告げる。
「目を閉じろ。これで終わりだ」
ケルビムがブレードを天に向けて振り上げ、降り下ろす。
ライトに照らされ鈍く光るブレードがラビの胴体を両断しようとしたまさにその時であった。
フレイの全身から吹き荒れる魔力。
目視できるほど濃い、空気が濁るほどの魔力が場を満たす。
(黄泉がいれば大丈夫かと思っていたが甘かった、それに未だに雷真もいない)
僕は自分の浅はかさを再び恨みなんとか食い止めようと思考を巡らす。
横ではシャルが目を見張り、シグムントが警戒している。
場に溢れた魔力はラビに収束する。
そして、ラビが咆哮をあげる。
大気を震わせ、ビリビリと肌をつきさすような魔力を撒き散らす。
「ラビ!」
「ラビ!」
膝をついたフレイと黄泉が声をあげるがラビには届かない。
フレイの体から溢れる魔力は止まらない。
そして、ついにはフレイの体が耐えられなくなる。
肌があちこち破れ、血が滲む。
(魔力を食い止める)
「マホトーン」
僕はすぐさまフレイに呪文を唱えるが効果はない。
溢れ出る魔力が大きすぎて呪文もかき消されているからだ。
(くそっどうすれば!)
悩む僕を尻目にフレイは血だるまと化しもがき苦しみ、ラビは牙を剥き出してケルビムに襲いかかった。