窓から心地よい朝日が射し込み、鳥の囀ずりが聞こえる。
どうやら昨夜は考えている内に眠りについてしまったらしい。
まあ、あのようなことはいくら考えても解決しないし、行動を起こさない限り解決には向かわない。
(さあ、今日も頑張ろう!)
と飛び起きた時だった。
何か忘れていると朝から頭のどこかに引っ掛かっていたものが……解かれた。
「し、し、し、しまっっったーーーーー!!!」
僕は無意識の内に大声で叫んでいた。
その叫びは寮内に轟き、防音効果はほぼないために隣室からも「うるせえ!」などと聞こえてくるが全く耳に入らないほど、僕は狼狽していた。
頭に渦巻くものは、後悔、後悔、後悔、それしかない。
「いったいどうしたんですか?」
僕の叫び声を聞いて十六夜が走ってくる。
どうやら、いつも通りゴミ捨てに行ってくれていたらしい。
「い、十六夜~。僕は…僕は…とんでもない失態をおかしちゃったよ~」
床に手をついて僕はうなだれる。
近づいてきた十六夜が優しい声で
「どうしたのですか?良ければ話してくれませんか」
と言ってくれる。
僕はその優しい声に促され話すことにする。
「昨日…色々ありすぎて……〈夜会〉に出るの忘れてたよ!」
そう、昨日事情聴取が終わり寮に帰宅した後はシャルのことが頭を巡っていて〈夜会〉のことをすっかり忘れていたのだ。
「もし講義と同じように休みだったらいいんだけど……」
僕の願いはそれだけ、だが、その儚い願いもたたれる。
「昨夜でも〈夜会〉は開かれていました」
十六夜の一言により。
しかし、十六夜はにこやかに微笑むと言葉を続ける。
「ですが、昨夜は雷真さんやフレイさんはいましたが、87位の方は参戦しませんでしたから大丈夫ですよ」
「え、ほ、本当に?」
「はい。魔力探知を〈夜会〉の会場まで広げていたので間違いないですよ」
「よ、よかったよ~」
僕は安堵したことによりその場に踞る。
十六夜は僕の頭をよしよしと撫でてくれる。
恥ずかしさよりも、安心感のほうが強く感じた。
十六夜が話してくれたのは、あの出来事を真剣に考えていた僕を邪魔したくなかったとのこと。
しかし、〈夜会〉に上位者が現れたら不戦敗なので〈夜会〉の魔力を探知していたらしい。
新たな魔力を感知したら僕を起こし〈夜会〉に乗り込んで上位者を瞬殺するつもりだったらしい。
本当に頼もしいパートナーである。
ちなみに十六夜の魔力探知のカバーできる範囲はヨーロッパ全土らしい。
驚きであることにはかわりがないのだが、ドラゴンボールの悟空なんかは宇宙全てや、次元を越えた先でもできたのでそういうものかと納得するのだった。
僕は気を取り直して学食に向かうために自室を出る。
廊下に出た時ちょうど雷真も部屋から出てきたようなので挨拶をする。
「おはよう雷真」
僕がにこやかに挨拶をすると雷真も
「おはよう…」
と返してくれるのだが何か元気がない。
それに目の下に隈ができている。
後から続いて出てきた夜々も同様に疲れている。
僕はなぜかここで邪推をしてしまった。
『朝』→『男女二人が同室から出てくる』→『二人とも疲れ果てている』→『すなわちアレか』
「雷真、昨日はお楽しみでしたか?」
僕の一言で、雷真は
「何バカなことを考えている。そんなはずないだろ!!」
と怒り、対する夜々は赤くなり嬉しそうにモジモジしながら
「そうなんです雷真が眠らせてくれなかったので」
というや否や
「事実を捏造するな。そんな事実はないからな」
と猛反論。
しかし、一番恐ろしかったのは後ろにいる十六夜であった。
無言で、無表情で僕の元に歩みよってくる。
「あ、あの、十六夜さん」
「どこからそのような卑猥な知識を……」
蛇に睨み付けられた蛙状態。
先ほどまでの笑顔の美しい優しさ溢れる女神はいなかった。
そこにいたのはけして卑猥なことは許さない僕の保護者でもあり、魔王でもある十六夜であった。。
「雷真さん、夜々さん失礼します」
「は、はい!」
無表情で雷真と夜々に告げる。
あまりの迫力と威圧感に雷真と夜々も口論を辞め、即答する。
僕は十六夜に襟首を掴まれ自室に引き摺り込まれる。
僕がいちるの望みをかけ助けて欲しいと雷真を見ると胸元で十字をきっていた。
(陰陽師の家系のくせに十字を切るなー!)と心の中で突っ込むことしかできなかった。
ギィーという音をたてて自室の扉は閉められた。
運命を決める一対一の裁判が始まる。
そこからは延々と終わることがないのではないかと思われるお説教タイムであった。
軽いジョークのつもりでドラクエⅠの宿屋の親父の迷言を言ったのだが、十六夜にはそちらの方面のジョークは禁句であるということを知った。
「エッチなことはいけないと思います」
僕は十六夜にこのフレーズを復唱させられた。
それと同時に『モシャス』『レムオル』計画が暗礁に乗り上げたことを示すものであった。
十六夜のお説教が終わると、すでに食事をする時間など全くなく、学院にもギリギリで間に合うか、間に合わないかという時間であったために、空腹を我慢して寮を飛び出した。
どうにも間に合わないと思った僕は学院につくのに時間を短縮できる裏道を使うことにする。
今の状況では十六夜は頼れないし、『ルーラ』も使う訳にはいかないからだ。
そんな中で、寮を出て裏に回った直ぐのところで僕の視線を釘付けにするものがあった。
林の中の裏道を小走りに急ぐ少女の姿。
後ろ姿しか確認できなかったが、どう見てもシャルの後ろ姿だ。
少々引っ掛かる部分もあるが間違いない…と思う。
(今することは『シャル』を追うことだ!)
と覚悟を決めて十六夜を見ると、静かに頷き同意してくれた。
僕は学院に行くことを諦め、林の中の裏道を走っていくシャル?を追って走り出した。
「しまった見失った」
鬱蒼とした梢の中でシャル?の後ろ姿を見失ってしまう。
キョロキョロと辺りを見回すと、林の中を走る雷真と夜々の姿が。
ここは雷真に随行することにする。
「雷真こんなところでどうしたんだ?」
僕は走りながら雷真に尋ねる。
「ああ、零夜か。今シャルを追っている。またとんでもないことをするつもりだ」
「じゃあ止めなくちゃ。僕もついていくよ」
「ああ、頼むよ心強い」
僕と雷真は共にシャルを追って走る。
ただし雷真の足があまりにも速かったので僕は自分に『ピオリム』をかけていたのは内緒である。