宙を滑るように向かってくる男、今まで戦った敵とは比にならないスピード。
床をけるような動作すらなく、いきなり最高速に達している、その勢いのまま十六夜に強烈なミドルキックが襲う。
十六夜は咄嗟に腕を交差して男の蹴りを受け止める。
男の猛攻は止まない、慣性の影響を感じられない動きでいきなり宙に舞い上がると、男の脚が弧を描き、斜め上から、風を切りながら十六夜に襲いかかる。
十六夜は片腕を上げ足を受け止める。
しかし、受け止めはしたがその威力から足もとの床が砕け、辺りの床にも亀裂が入る。
さらに、あり得ない動きで十六夜の背に回り込むと蹴りあげる。
宙に軽く浮いた十六夜に向けて男は一回転の捻りを加え、更なる威力の蹴りを放つ。
蹴りをまともに受けた十六夜は後方に吹き飛ばされるが、宙で一回転すると何事もなかったかのように着地した。
「恐ろしく頑丈なんですね。私の攻撃を受けても顔色一つ変えられないとは」
男はそうは言うが余裕の笑みを絶やすことはない。
「貴方は不思議な動きをされるのですね。まるで肉体のベクトルを操作しているような」
男の表情を注視しながら確かめるように呟く。
しかし、男もさるもので余裕の表情を崩さない。
(やりにくい相手ですね。零夜のように表情に表れるとやり易いのですが)
少し考えていると
「あ、貴女は十六夜!」
男の後ろに議長室から飛び出してきたシャルさんが。
ただ今はいつもの姿とは違う。
「今回は御暇させてもらいますね。貴方の力もだいたい分かりましたし。シャルさん次回は零夜と一緒に助けに来ますね」
私はシャルさんにそう言った直後男が眼前に迫っていた。
「グランビル家の執事を舐めないでいただきたい」
男は少し苛立った声色でそう吐き捨てるように言うと、顔面にめがけて蹴りを放ってくる。
「!!」
私は零夜の話に聞いていた『残像拳』を使用したために男の足が私をすり抜けたようになっている。
男の表情が驚きの様相になっているのが少し嬉しい。
私は男の背後を取りささやく。
「貴方の動きは手に取るように分かりますよ。私は貴方の動きを目では追っていません。魔力を追っているので」
私は背後から衝撃波を撃つ。
「くっ!」
男は少し表情を歪めながらも手を広げ宙で動きが止まる。
「貴方にはこの色つき眼鏡はあっていませんよ」
「いつの間に!?」
男は色つき眼鏡が無くなっていることにようやく気づいたようだ。
私は軽く力を入れると色つき眼鏡は簡単に砕けた。
「では、太陽拳」
これまた零夜に教えてもらった技。
名前にある夜とは真逆の技ではあるが逃走ように使えるということで覚えた技。
私から強烈な光がほとばしる、ただシグムントのラスターカノンのような暴力的な光ではない。
簡単ながらとても効果的な技である。
男やシャルさんが苦しそうに目を押さえている内に私は悠々と脱出することに成功した。
――――
「やられたねシン」
「申し訳ありませんお嬢様。逃がしてしまいました。」
「逃がしたか。フフフ。本当にそうかな」
「一人だけ分かったようなしたり顔で分からない者を見下すように嘲笑う。性根が腐っていますね」
「シンあとでお仕置きだよ」
―――――
(黒幕も掴めましたし、シャルさんがあのようなことをしている理由も、また敵の戦力も把握できました。あとは)
私は今回の成果に少なからず満足していると、突然零夜の魔力が地上に現れたのに気づいた。
(やっと零夜が戻ってきてくれた!)
なぜかは分からないが胸が熱くなる感じがする。
なにか分からない感情ではあるがいくら考えても分からないので、今は零夜の元に急ぐ。
光の速さ秒速30万キロとはいかないが、出来る限りのスピードで零夜の元に急ぐ。
人の近くを通っても突風が吹いたとしか思われない速さ。
(あれは零夜!)
たった少し別れていただけなのにずっと会っていなかったように感じる。
久しぶりに見た零夜はなぜかキョロキョロしている。
回りの目を気にしているようだ。
(なんかまずそうな)
私は零夜が置かれている状況があまりよくないように思われたので、そのままのスピードで零夜を回収した。
なぜか回収した零夜は口から血を流しながら意識を失っていた。
誰がこんなことを絶対に許さない!と敵を倒すことを心に誓って私は血を流す零夜を連れて寮の自室に戻った。
◇◆◇◆◇◆
「あれ!?」
僕が目を覚ましたのはなぜか自室のベッドの上であった。
僕は奈落の底から一人だけ『リレミト』で脱出してしまったことに後悔しながらも、心の奥底ではあの場を離れられたことに安堵していた。
そんな自分の卑しさに気付き嫌になっているときに、人の気配を感じ、呪文が見られたかと挙動不審になっていた時に、とんでもない衝撃を受けて意識を失ったここまでは覚えている。
そして思い出している間にも体に激痛が走り、口の中に鉄の味が広がる。
(ヤバい。これは本当にヤバい)
僕は極力体を動かさないようにして、『ベホイミ』を唱える。
たぶんというか、絶対に内蔵が傷つく以上の酷い状態になっていると感じたからである。
命の危険さえ感じた。
あと少し放置していたら、花畑か、両親に会えていたかもしれない。
なんてことを考えながら回復していると、十六夜がやってきた。
「よかった。目が覚めたんですね」
「おはよう十六夜。なんか久しぶりな感じがするよ」
僕はホッとしたような十六夜の顔を見た瞬間、なにやら込み上げるものがあった。
劣情などではない、何か温かいものだ。
そして僕は箍が外れたように話をした。
十六夜と別れた後のこと、地下に広がる謎の空間、アンリのこと。
その後僕は十六夜から、黒幕のこと、シャルが操られている理由、敵の戦力、十六夜の掴んだ情報を全て教えて貰った。
話終える頃には夕日が沈みかけていた。
オレンジ色の光に照らされたところと、薄暗いところが半々といったところだ。
『黄昏時』と言えばいいのか。
なぜか寂しさを感じる時間帯である。
「よし、完全に回復できた。さあ、シャルを助けに行こう!!」
僕は歩き出す。
すぐに僕の足が止まる。
「どこに行けば?」
僕が十六夜に尋ねると、ハァとため息をつき困ったような顔をして
「学院長エドワード·ラザフォードのところに必ずシャルさんは現れますよ」
と教えてくれたので、学院長の近くに行くことにした。