月をバックに宙に佇む執事風の男。
そして気づいた時には回りを騎士のような甲冑を身に纏った自動人形に囲まれていた。
その数5体。
「お前の仲間か?」
「ええ、この者達は我々の仲間の最下級のゴミのような者です。夜会にすら出られないのですから。ただし足留めぐらいにはなるかと連れてきた者です」
下卑た笑みを浮かべながら話す男。
正直虫酸がはしる。
辺りを伺ってもどうやら人形遣いはいないようである。
(〈禁忌人形(バンドール)〉かな)
と思っていると、シャルが前に出ようとする。
僕はそれを手で制す。
「シャルは下がってて。だいぶ疲れているだろうし」
「嫌よ私も戦うわ。じっとなんてしてられないから!」
先程の戦いで魔力を使いすぎたのか少し足がふらついている。
僕はシャルに近づき、両手を肩に置いて真剣な表情で語りかけるように説得する。
「大事なシャルを傷つけたくない。それに元気な姿のシャルを見せなくちゃアンリはまた自分を責めちゃうよ。だから僕と十六夜に任せて。ね」
肩から手を離し、笑顔で念押し。
「か、かっこつけちゃ……」
シャルは耳まで赤くしながら顔を背けながら何かを言おうとしたが、途中で噛んだ。
「ふふふ」
「何笑ってるのよ」
愛らしい様子に笑みが溢れる、ただシャルは目を潤ませて拗ねるように怒っている。
「ごめん、ごめん」
と謝りながら、僕がシャルを守るように前に立つ。
(今ならあの呪文を撃てる)
僕には確信に近い自信があった。
護りたいものがあると人は強くなれると何かで聞いたことがある。
「十六夜、まずは僕にやらせて。多分あの男は任せることになるけど。あと………」
「はい。わかりました」
僕は天に腕を突き上げる。
(ヘタレな僕が勇者の呪文を使えるようになるなんて)
感慨にうち震えながら唱える。
「ライデイン!」
『ライデイン』とはデイン系初級呪文。
しかしながら、使えるのは勇者のみであり、初級呪文のライデインであっても他の中級呪文すら越える威力を有している。
全ての邪悪を消し去る雷の呪文である。
手のひらから雷が迸り五体の騎士型自動人形、そして執事風の男に襲いかかる。
雷の速さは秒速150キロメートル光速には到底及ばないがそれでもとんでもない速さだ。
逃げきることはできない。
襲いかかった雷は相手を焼き尽くす。
バチバチと音をたてながら相手を蝕む。
騎士型の自動人形は鎧が真っ赤に染まり融解しかかり、執事風の男は痙攣したように体を揺らしている。
その壮絶な光景に腰が引ける。
そして、ゲーム上ではそれほど消費MPは高くなかったはずなのに、僕のMPは極端に減っていた。
枯渇する前に『ライデイン』を止める。
黒い煙を放ちながら騎士型の自動人形は倒れ、執事風の男は地面に膝をつき、肩で息をしている。
「まさかこれほどの魔術を持っているとは侮っていましたよ。あなたはお嬢様の邪魔になる。ここで死んでもらいますよ」
執事風の男が立ち上がりながらそういい放つと、姿が消えたと錯覚するほどの速さで飛びかかってきた。
恐ろしい形相の男は目の前にいきなり現れた。
流れるような動きから繰り出されたハイキックは僕の前にこちらも突如現れた十六夜によって捕まれていた。
「ここからは私が相手になります」
十六夜の握る足がミシミシと音をたてる。
男の顔が苦悶に歪む。
十六夜は足を掴んだまま一回転し、宙に男を放り投げる。
「ヘルズフラッシュ」
宙に停止した男に追撃の一撃が。
間一髪男は避けたが、完全には避けきれず、ヘルズフラッシュは腕を食いちぎり、空の闇を、雲を引き裂き天に上っていった。
「お、おのれこの私にここまでの屈辱を味わわせるとは、許さん」
男は怒鳴ると再び目視不能の速度で縦横無尽に慣性を無視した動きで十六夜に迫る。
男の振り上げた足が十六夜を捉えるかと思われた時、十六夜は本当に消えた。
男の足は轟音を轟かせながら十六夜の立っていた地面を抉った。
「それぐらいの速さでは私は捉えられませんよ」
男の後ろから十六夜の声が。
焦りを見せた男は振り返りざまに裏拳を放つが当たらない。
十六夜は舞を舞うような動きで男の懐に入り込み、手のひらを男に伸ばす。
十六夜の手のひらが男の顔面を掴む。
アイアンクローである。
掴んだまま小柄の十六夜が男を振り上げ、そして地面に叩きつけた。
轟音を轟かせ、男が叩きつけられた場所にはクレーターができあがり、男はうめき声をあげる。
十六夜は手を離すと、足で男の胸を踏みつける。
人間であろうが、自動人形であろうが、あまり力をかけなくても胸を押さえられると立ち上がることができないからだ。
「グハッ。この私が、私は神性機――ガハッ!!」
「五月蝿いですよ!」
男が何かを言おうとした瞬間大地が悲鳴をあげるかの如き音をたてて、男と共にさらに沈み込んだ。
そして十六夜から今まで聞いたことがないほどの冷酷な声が辺りに響く。
僕は呆気に取られて聞き返すことができない。
シャルやシグムントも同様である。
「零夜あの木から魔力の反応がします」
「ああ、ありがとう」
先ほど僕が十六夜に頼んだのはこの場にいるであろう、この男の、執事風の自動人形の主人を探すことであった。
戦いながらも十六夜は見つけだしてくれたのだ。
「次は本当の姿を見せてもらうよ」
十六夜の話で姿を変える魔術を使えると聞いていたので、その魔術の効果を消し去る呪文を使う。
本当であれば、魔王や勇者が使う手のひらから迸る特技を使いたかったのだが、ハードルが高過ぎた。
そしてハードルを下げた結果がこの呪文である。
「マジャスティス」
『マジャスティス』とはドラクエⅦのみで登場した呪文で、全ての魔術の効果を消し去る効果をもつ。
ドラクエⅦではだいぶ物語中でも重要な呪文ではあったが、所詮はあの特技の劣化品だ。
意外と簡単に習得することができた。
呪文は木の中に潜んでいるであろう、男の主人にかかる。
声はしないが、手応えはあったので確かめるべく、木のもとに向かう。
一歩、一歩慎重に。
黒幕の顔を確かめ、シャルに謝罪させるために。
「零夜逃げて!!」
十六夜の声が闇夜に響き渡った時だった。
木の中から先ほどまで十六夜によって押さえ込まれていた男が飛び出してきた。
(まずい)
僕は咄嗟に腕を交差して防御体制に。
「大防御」
特技を発動させる、しかし、男の降り下ろした足は僕の交差する腕にめり込み、バキバキ不快な音をたててさらにめり込み、そして僕はとんでもない勢いで吹き飛んだ。
「零夜!!」
吹き飛んだ先に先回りしてくれた十六夜に抱きとめられた時にはあまりの痛みで僕の意識は混濁していた。
「零夜しっかりして」
「零夜今医療室まで運びます頑張ってください」
シャルや十六夜の緊迫感のある声が聞こえてはいたが、もう目の前は真っ暗になっていた。
◇◆◇◆◇◆
「まさか彼女もシン君と同じ〈神性機巧(マシンドール)〉だったとはね。驚きだよ」
「その割にはお嬢様は嬉しそうですね」
「そりゃそうだよ。これから楽しくなりそうだからね」
夜の闇に執事風の自動人形シンとその主人の楽しそうな声が響いていた。